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現在地 3話「今、ここで」創作大賞2024漫画原作部門

▼本編


#3話  「今、ここで」

〇同・コート
   第3セットが始まる笛が鳴る。
   浩太がサーブを打つ。
   しかし、空志野高校に返される。
勇気「ワンタッチ」
   葵が拾い、慎吾がトスを上げ、光が打つ準備をする。
光「ブロック、見る見る見る」
   呪文のように自分に唱えながら、走りバックアタックをする。
   光、ラインぎりぎりにスパイクを決める。
光「よっしゃーーー!!!」
千明「ナイス!!」
×××
   得点板は3セット目、白山高校19―空志野高校21。
   サーブを打つ準備をしている壱月。
   集中してボールを待ち構えている白山高校の選手。
   壱月がサーブを打つ。
   葵がスライディングして拾い、綺麗にボールが上がる。
葵「頼んだ!」
輝人「おおっ。返ってくる!」
   輝人はチームに合図を出しながらもなんだか嬉しそう。
   悠馬がスパイクでフェイントをしかけ、壱月が滑り込み、
   1本目でボールを拾ってしまう。
輝人「狙われたっ」
   輝人、トスを他の人にあげようとする。
壱月「輝人!!」
   レシーブ後、体制を崩しながらも必死に立ち直す壱月。
輝人「(笑って)さすがエース」
   輝人は壱月にトスを上げ、壱月はスパイクを打つ。
   ブロックに出た千明の手にボールがかする。
千明「ワンタッチ!」
   浩太、なんとかボールを拾いあげる。
浩太「頼んだ!」
   慎吾、トスを上げる。
慎吾「頼んだ!」
   光、楽しそうにジャンプをする。
光「はい!」
   待ち望んだ瞳で、ボールを見上げる壱月。

〇同・観客席(夕)
   熱気のあるラリーを見つめる海。
海「いいな」
   海は、無意識に膝を撫でる。
海「いいな…、いいな…、いいな」
   周りの観客席が盛り上がる中、一人静かに涙を流す海。

〇同・コート(夕)
   「ありがとうございました」と礼をする選手たち。
   選手同士、1人1人握手していく。
   光と壱月も握手を交わす。
光「ありがとうございました」
壱月「ありがとうございました」
   お互い、一瞬目を合わせ、次の人と握手をする。

〇同・外(夕)
   会場から出てくる観客の人たち。

〇同・ロビー(夕)
   白山高校の選手が荷物を持って集まっている。
   みんなが満足感のある表情を浮かべる中、
   1人やりきれない表情をしている光。
浩太「みんな、おつかれ。まあ、結果だけ見ると、ぼろ負けだったけど、でも、楽しかった。やり切った。負けたけど、俺は後悔してない」
葵「俺も。なんてたって雪野壱月のサーブ拾えたし。それは多分みんな同じ…」
慎吾「うん、気持ちは一緒」
勇気「ああ」
悠馬「うん」
千明「はい」
光「同じです。試合に後悔はないです。でも…、すいません」
   大きく頭を下げる光。
千明「どうした?」
光「何でか、説明できないんですけど、すいません。本当にすいません」
   ひたすら、頭を下げたまま、涙をボロボロと流す光。

〇同・観客席(夕)
   人のいなくなった観客席に座っている壱月。
   モップで掃除されている体育館を見つめている。
   そこに輝人がやって来る。
輝人「何、たそがれてんの?珍しく」
   輝人は壱月の斜め後ろに座る。
壱月「たそがれてない」
輝人「そう?」
壱月「うん」
輝人「…勝ったね」
壱月「当たり前だ。勝つだけの準備はしてる」
輝人「それはそうだね。それにしても、白山高校、みんな最後まで夢中だったね」
壱月「…」
輝人「なあ…、楽しかった?」
   緊張した面持ちで聞く輝人。
壱月「…楽しかった」
輝人「…」
   驚く輝人。
   依然体育館を見つめたままの壱月。
輝人「(涙をこらえながら笑い)ふ~ん。そっか。良かった。お前をバレーに無理矢理誘って、あの時」
壱月「いつの話してんだよ」
輝人「ん?いいんだよ、そんなのは。とりあえず、本選も楽しむぞ。もっと楽しい相手が沢山いる」
   笑顔で後ろから肩を組む輝人。
   苦笑いする壱月。

〇同・玄関(夜)
   バスが到着している。
   次々とバスに乗り込む白山高校の選手たち。
浩太「あれ、光は?」
千明「え、さっきまでここにいたんですけど」
   浩太は、辺りを見回す。

〇同・ロビー(夜)
   ロビーを走り回る光。
光「山田太郎さん!山田太郎さん!」
   光が呼んでもⅩは見当たらない。
光「山田太郎!」
   投げやりに大きく叫ぶ光。
Ⅹ「はい」
   Ⅹは椅子に座ってエイティーンアイスを食べている。
光「いた。何してるんですか」
   走り回って息切れしている光。
Ⅹ「え?こういう体育館とかにあるアイスって美味しいじゃないですか」
光「はあ…」
Ⅹ「でも、まさか、本当に大声で山田太郎って、呼ぶなんて」
   Ⅹは笑っている。
光「だって、あなたが呼べって」
Ⅹ「冗談だったんですけどね。まあ、いいや」
   Ⅹ、光にしっかり向き直る。
Ⅹ「それで、私を呼んで何の用です。あなたは2回しかやり直しをしなかった。代償が伴うのは3回からって言ってしまったので、代償なく、やり直せたってことですね。君、意外にずる賢いです」
光「…あの、全部元に戻してほしんです」
Ⅹ「へ?」
   意表を突かれるX。
光「俺がやり直しする前に」
Ⅹ「せっかく三回戦敗退から決勝まで進めたのに?」
光「はい」
Ⅹ「あ~、そうですか…。ちょっとびっくりですね…」
   Ⅹは驚きのあまり笑っている。
光「もしって、思ったことをやり直して、勝ったところで、純粋に喜べないって気づいたんです。今まで向き合ってきた自分にも、一緒にやってきたチームの仲間にも、相手チームにも申し訳ないって思いが…」
Ⅹ「…」
光「焦って…、自分らしくなかった。何者かになりたいじゃなくて、ちゃんと、自分が、今、ここで、どう生きるか…」
   自分自身に言い聞かせるように話す光。
Ⅹ「…わかりました」
   Ⅹは立ち上がる。
Ⅹ「じゃあ、ここでお別れです。もう、“もし…”とか言って私のこと、呼ばないでくださいね。ちゃんと、その“もし”を過去を悔いるものじゃなくて、未来に繋げるものにしてください」
光「すいません」
   光、自分の情けなさに苦笑する。
   Xは口角を上げた笑顔のまま。
   辺りが一気に白くなる。

〇白山高校・体育館
   静かな体育館。
   その中で1人、バレーボールでサーブの練習をしている光。
   ボールの音だけが大きく響いている。
   ドアが開き、浩太が入ってくる。
浩太「光」
光「浩太先輩…」
   どこか清々しい表情の光。
浩太「…もし、お前のせいだとか思ってるなら、それは違うからな」 
   サーブの練習を止めて浩太に向き合う光。  
光「はい。でも、今回の試合で、自分が、今どこにいて、何をやらなきゃいけないのかわかりました。何より、もっと、バレーやりたいなって、楽しいなって。今、ここで、頑張りたいって」
浩太「そうか。そうだな。光はもっと、スパイクを打つ時、冷静にブロックを見る練習、今のうちにやってかないとな」
   浩太は、光のいるコートの反対側に行き、光のサーブを受ける。
浩太「付き合うよ」
光「はい!」
   楽しそうにサーブを打つ光。
   それを受け止める浩太。

〇電車・車内(夕)
   人がまばらにいる車内。
   隣に座る光と海。
海「わっ、やっぱり千葉の予選突破したの、空志野高校だって!」
   海は、スマホでネットニュースの動画を見ている。
   動画では千葉県予選の決勝の様子が流れている。
海「あのチームはなんてたって、ユース入りしてる雪野壱月がいるからね。強いわ…」
   海のスマホを覗き込む光。

◯体育館・ロビー(夕)
   地域新聞やバレー雑誌などいくつかの報道陣が集まっている。
   その中心にいるのは、雪野壱月(18)。
報道陣「今回の千葉予選大会、決勝の感想はいかがでしょうか?」
壱月「…楽しかったです。久しぶりに、何でかわからないけど、そんな気が…」
報道陣「え?」
   壱月、遠くを見つめ、清々しい表情。

〇電車・車内(夕)
   ネットニュースを見ている光。
光「え?」
   驚いた後、微笑む光。

#創作大賞2024 #漫画原作部門

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