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非流暢性失語症の回復過程
一番の本業とも言える失語症について書いてみようと思います。
失語症とは、脳の外傷や、脳梗塞、脳内出血などによって、大脳の言語をつかさどる部分が損傷して起こる言語障害の一種です。聞く、話す、読む、書く、計算のほぼ全ての言語面に程度の差はありますが何かしらの不具合が生じます。流暢性と非流暢性失語症の大きく2つに分けられ、今回は非流暢性について書こうと思います。全失語や、ブローカ失語、超皮質性運動失語などがここに属し、発話がたどたどしいという印象を受ける状態です。前頭葉損傷で生じることが多いため、右半身の麻痺を伴うことが多いです。
御本人やご家族には…
「頭の中にはちゃんとことばや考えはあるのだけど、それを表現するための引き出しが開きにくかったり(喚語困難)、違う引き出しを開けてしまったり(錯語)、文としてまとめられなかったり(失文法)します。また、目から入った文字や耳から聞いた音がうまく日本語の意味にまで変換されず、理解しづらかったりします。情報が多くなると尚更です」
などと説明させていただくことが多いです。
重度の失語症…発話がない、はい/いいえの質問に対して首振りなどでも意思表出が難しい、絵の2択など文字や音声を介しても難しい、名前から書けないなどの状態です。
ただし、状況に応じた対応はでき、礼節も保たれていることが多く、実物を見せながら状況に合ったことを質問すると反応が得られたりします。
この状態が覚醒改善してから2ヶ月たっても変わらなければ、言語能力の回復は厳しいことが多いです。それでもすこーしずつ「痛い!」「ありがとう」「いや!」「えっ!」といった感情を伴う語が増えていきます。また音声だけでなんとなく理解しあえたり、文字や絵、選択肢なども併用しながらご自身のことを伝えられることも増えていきます。脳の右半球で処理される歌は歌えたり、自動言語である挨拶などは言えたりもされます。が、伝わらなくて癇癪を起こされたり、涙を流されることもよくあります。
非流暢性失語症中等度…簡単な日常会話は成立しますが、時折質問理解が不十分でズレた返答になったり、言いたいことばが出てこない、いい間違えるといったことが自分の伝えたいことを説明しようとすればするほど増える傾向があります。
非流暢性失語症軽度…ややつまることはあるが、日常会話はほぼ問題なし。しかし、時折ことばが出てこなくて困ったり、ことばを言い換えるなどして対応されているため、御本人の中では前と違うと違和感を訴えられることも多いです。特にとっさに話さないといけない状況や、焦るとことばかでにくくなります。
どの段階の方でも、①日々コミュニケーション機会がある、②意思疎通したい!という本人の意欲が維持されている、③改善すると信じてこつこつと練習することができれば少しずつ少しずつ回復し、重度から中等度、軽度に移行できる方もいます。
国の決めている発症から半年の入院期間を過ぎても年単位で変化し、重度からお仕事復帰にまで至る方もまれにおられます。ただ、御本人が話せない、伝わらないということを認識できるだけの力がある分、声を出すことを諦めて話さなくなったり、鬱状態になる方が多いのも事実…。
伝わった!の体験をどれだけ入院してすぐからしていただけるかが、その後の意欲にもつながると推測されます。
これは言語聴覚士としての腕の見せ所であり、どうやったらやりとりができるかを他職種やご家族にお伝えする役割も担っています。どうやってコミュニケーションをとればよいかは言語聴覚士に質問して頂いたり、実際のリハビリ場面を見学していただけるといいかなと思います。
お読みくださりありがとうございます。
今日も素敵な1日になりますように。
あお