二人の時間
ん……?ここは……。
目が覚めた場所は、いつもの光景。
私達がいた、『地球』。
この場所は、私の部屋…。
部屋といっても、ちゃんと整った所じゃなくて、廃校になった教室の一部に薄い布団が敷かれているだけの、質素な、私とソフィの部屋。
あれ?
そういえばソフィは?
よく覚えてないけど、あれ?私達、何やってたんだっけ?
「ノレア!」
後ろから元気な、聞き覚えのある声が聴こえてきた。
と同時に、私に抱きついてきたのは、ソフィだった。
「ソフィ……。ねぇ、私達何やってたんだっけ?」
長い夢を見ていた気がする。
長くて、とても、悲しい夢。
ソフィが、いなくなる夢。
「ソフィ……あんた……」
ソフィが目を丸くして私を見ている。
「ノレア?どしたの?」
ソフィが私の顔に手を伸ばして、私の目元に細い指を当てる。
すると、ソフィの指先に水滴がついていた。
私は、いつの間にか泣いていた。
夢でソフィがいなくなった。
ソフィの顔を見て、声を聞いて、私は、安心したんだと思う。
そう自分で頭を整理していると、ソフィが口を開く。
「らしくないじゃん!ノレア!ほら、涙拭いて!」
細い指で、またソフィは私の涙をぬぐう。
何度も何度も、生きるために、銃の引き金を引いて、沢山の命を奪ってきた、ソフィの指。
でも、私はそんなソフィの指が、手の温もりが、大好きだった。
言ったらからかわれそうだから、絶対本人には言わないけど。
私の手もそうだ。何度もナイフを握って、命を奪ってきた。そんな私が、失うことを恐れるなんて……許されることじゃないのはわかってる。私もソフィも、いつかガンダムの呪いで死ぬかもしれないのに……でも、お互いにその不安を消し合うように、いつも一緒にいる。他のやつらが当たり前に手に入れてる幸せを、私達は知らない。その幸せを手にいれる為なら、何だってしてきた。だから、邪魔をするスペーシアンの命だって……いくつも……。
「ノレアってば!」
ソフィの言葉にハッとする。涙は全部ソフィが拭ってくれて、ソフィが私の顔を覗き込む。
「ノレア、いいもの見せてあげる。」
ソフィはポケットから何かを取り出した。
「なんだと思う?」ソフィはいたずらに笑って、何かを握った右手を見せつけている。
「ん……?何?わかんない?」
「もぉ〜ちょっとは真剣に考えてよ〜!」
「だって、ホントにわかんないんだもん」
「しょ〜がないな〜。じゃあハイ、手出して!」
そういうと、ソフィは私の目の前に右手を突き出してくる。
私も右の手の平を開けて、それを受け取る。
ソフィは私の手に、そっと、小さな丸い玉を置いた。
「きれい……」
自然と言葉が出た。その玉は小さいけど、水色で、太陽の光を取り込んでキラキラ光っている。
「すっごくキレイでしょ!2個見つけたから、1個ノレアにあげる!」
そう言って、ソフィはポケットから同じ玉を取り出した。
続けてソフィは言う。
「さっきね、そこの道端で見つけたんだ。すっごいキレイだよねー。ねぇノレア、今度は二人で探してみない?他にもまだいっぱい落ちてるかも!」
「え、私はいいよ。動き回るのは、あんまり得意じゃない…」
「えー!いいじゃんいいじゃん!絵ばっかり描いてないでさー、たまには一緒に探検しようよー!」
そう言ってソフィは、私に抱きついてゆさゆさと体を揺らしてくる。
あれ?なんでさっきまで泣いてたんだっけ?
まぁ、なんでもいいか。
私とソフィは正反対の性格だけど、私はソフィのこういうところに救われてきたんだ。昔も、今も、そしてこれからも……。
駄々をこねてるソフィの声に紛れて、ちょっと恥ずかしいから、目をつむって小さく言う。
「ありがと、ソフィ。」
「え、今なんて言った?」
「別に?何でもない。」
「えー!教えてよー!もう一回言ってよー!ねぇーノレアー!」
言わない。言ってやるものか。
だって、まだちゃんと言うには早いから。
私は、名前も知らないこの小さな玉を握って誓う。スペーシアンを全滅させたら、一緒に探検してやってもいいかな。だからその日までは、私の隣に居てよ?ソフィ。