私学訪問日記【函嶺白百合学園中学高等学校編】
スイッチバックを繰り返しながら藤の花盛りの山路を進む箱根登山鉄道が、強羅の駅に到着しました。
心地よく硫黄が香る改札を抜け、大文字焼きで有名な明星ヶ岳を眺めながら白百合通りを歩いていくと、すぐに緑に囲まれた校舎が見えてきました。
函嶺白百合学園中学・高等学校。
神奈川県箱根の地で70余年の歴史を刻むカトリック女子校で、全国に広がる白百合学園の姉妹校になります。
門を潜ると、まず出迎えてくれたのは「ごきげんよう」という子どもたちの爽やかな声でした。
「ごきげんよう」は、ここ白百合学園を象徴する伝統的な挨拶です。
上品な響きと共に、「今日もご機嫌よくお過ごしですか?」という問いには、清らかで深い心遣いを感じます。
整頓が行き届いた校舎内は、自然な装飾が施されていて、キリスト教学校の厳かで温かな雰囲気を湛えていました。
訪ねたのは、柳宣宏教頭先生。
柳先生の太陽のような笑顔に包まれ、穏やかな安心感の中で、函嶺白百合の教育活動についてのお話を伺いました。
函嶺白百合の教育の根底に流れるのは「人のため」という信念です。
これだけを聞いた時には、厳しさの中で勉学や古典的な活動を取り組むというイメージを抱きました。
ただ、すぐにその思いは覆ることになります。
函嶺白百合が近年、力を入れるのはSDGsを見据えた先進的なアントレプレナーシップ教育です。
アントレプレナーシップ教育とは、起業家になり得る資質や能力を育む教育のことです。
具体的には、ディスカッションやプレゼンテーションの専門の講師を招いて学んだり、企画書に落とし込めるような科学的な発想法のパターンを知ったりして、社会に出てこそ使える表現力を磨いていきます。
一方で、大自然を生かしたフィールドワークの中で、課題意識を持ち、主体的に状況を変革しようという思いを育てていきます。
これらの取り組みは、有名ホテルで勝負できるメニューを考案したり、箱根や湘南の自然をテーマにした本格的なカードゲームを販売したりと、目に見える成果を上げています。
さらに素晴らしいのは、ここで子どもたちについた力が、大学入試という人生の岐路にも生かされているということです。
函嶺白百合の昨年度の現役合格率は100%で、20%は慶應、上智といったトップ校に進学します。
これには、函嶺白百合の巧みな入試方略があり、上記の活動で子どもたちが得た力を、多様な入学試験の形にうまく当てはめることで成功しているのです。
函嶺白百合の子どもたちはSDGsやアントレプレナーシップ教育を学ぶことで「人のため」を実現しながらも、その充実感が「自分にも還る」ことを圧倒的に経験して卒業していくのだと感じました。
多様で不確実な時代を生きる子どもたちにとって、これほど大きな財産はないのではないかと考えます。
「ごきげんよう!」帰り際に守衛さんからもいただく挨拶。
その本当の意味を、函嶺白百合の教育が示してくれた気がしました。
(コアネット教育総合研究所 横浜研究室 熱海康太)
函嶺白百合学園中学高等学校ホームページ
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