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私が愛した官能小説 -その13

画像はSMセレクトに掲載された“ヨコハマ怨縄歌”と“猥らな乱調”の挿絵です。画家は前者が橋本将次さん、後者が鬼頭暁さんです。
紅隆太郎さんの作品を2点紹介します。彼はネットで検索しても月刊誌SMセレクトの目次がヒットするだけなので、短編が掲載されるSM誌のみが活躍の場だったのかもしれません。SMセレクトの目次を検索すると、彼の作品が掲載されたのは1973~1976年です。私の切り抜き蔵書には彼の作品が4作あるので、そこそこお気に入りの作家だったという事になります。それらは1973年9月“恥肛の姉妹”(懸賞小説=デビュー作?)、1974年11月“猥らな乱調”、1975年10月“悦虐心中”、1975年12月“ヨコハマ怨縄歌”ですが、まず“ヨコハマ怨縄歌”を紹介します。
舞台は横浜の高級住宅街など、ヒロインは大江家の長女で関西の少女歌劇団で主演も務め一時帰省中の渚、次女で横浜の名門女子高に通う繭子18歳、継母の明子29歳の3人です。当主の大江周平は外交官として長く海外勤務する間に麻薬の密売に手を染めるようになり、外交官を辞め貿易会社を隠れ蓑として麻薬の卸売りをしていますが、国内の顧客である暴力団馬頭組に直接香港のボスと取引させろと迫られ、ボスの正体を明かす事は組織を裏切るタブーと知りつつも、繭子を誘拐されて屈してしまいます。後半はボスの陳と馬頭、両方の一味が大江家を急襲し、周平を連れ去り、残った女たちに、周平はコンクリートに詰められて海に沈められると宣告し、女たちを嬲り始めます。
・・・
「陳さん。お願いです。夫が死ぬとなった今、わたしはもうどうなっても構いません。せめて、あの娘達だけは、許して下さい。そうして戴ければ、あなたの物にでも何でもなります」
居間の柱に立ち縛りにされた明子夫人は、二人の娘が連れ去られた後、思い悩むように目を閉じていたが、決心したように陳を正視して哀願した。どこもかしこも少しでも触れれば、爪痕でもつきそうな乳白色の餅肌であった、乳房はたっぷりと手に余るほど盛り上がり、鳩尾から下腹にかける流線は、まるでなだらかな雪山のスロープを見るように美しい。その下に少し白い地肌を透かせながら繁茂する黒いものは、風がそよげば飛び散って行くかと思えるほど、細く柔らかい。磨きあげられた宝石のような総身からは、塗り込められた香水の香りが、甘く湿っている。見ているだけで、何か厭世的になるようなやりきれぬ美しさだった。露を宿した長い睫毛に囲まれた黒瞳がちの眼に、じっと見つめられ。陳竜遠は思わずぞくぞくっと体を震わせたが、すぐその小太りした頬に不敵な笑いを浮かべて言った。
・・・
明子の描写は当時既に第一人者として大活躍していた団鬼六作品を彷彿とさせます。
・・・
「両手が自由になったら、先ず坐って大きく足を開いて体の中を見せて下さい」
(中略)
「さあ、今度は少女時代を思い出して自分の手で楽しんでくれませんか。つまりオナニーですな。経験おありでしょう」
(中略)
「しますっ。しますから、や、約束を!」
明子夫人は顔を覆うと、全身を揺すって叫んだ。
(中略)
陳はそろそろと手を下に忍ばせる明子夫人を見ながら、女のような笑い声をあげた。
「奥さん。本気じゃない。迫力ありませんね」
白魚のような細い指先を揃えて、やわやわと頼りなげに愛撫する明子夫人に、陳が手を振った。これほど迄にしてもと、憤怒に明子夫人は頬をぴりぴりと痙攣させて、怨めしそうに陳を見る。
「陳さん。ひとつ道具を使っちゃ如何です」
馬頭は立ち上がって、子分の持参したボストンバッグの中をごそごそかき回していたが、例の繭子が臀部に使わせられた黒い道具を出し、クリームを塗った。
「これはね、うちの女共が手前で楽しみたいとき使う奴なんでさあ。素人の奥さんなら、いちころですぜ」
「こりゃあいい。大江さんの体だと思って、やって下さい」
陳は馬頭から道具を受けとると、明子夫人に渡した。輪状の溝をいくつも刻んだ黒い道具を見て、彼女は溢れそうになる屈辱の涙を必死にこらえる。だがその道具が屈辱よりも、もっと恐ろしい毒を備えていることを夫人は知らない。眉を寄せ、苦悶の表情を浮かべて、切腹するように黒い道具を持つ明子夫人の凄艶な姿に、時間が停止したように口を開け、陳と馬頭は放心して見守る。明子夫人の繊細な手が静かに動き出した。すると彼女は悪寒を感じたように震え、美しい眼を大きくみひらいて落着きなくきょろきょろと動かした。何かうろたえているようなしぐさである。
「そろそろ薬が効き始めましたぜ」
馬頭が陳にそっと囁く。明子夫人は手の動きを止め、痛みをこらえるように肩をすくめ、血のにじむほど唇を噛みしめている。痛みではなかった。愉悦を伴う掻痒感が、じりじりと夫人の体内に拡がってきたのだ。それは岩に染み入る潮のように、夫人の襞に染み入り、肉をひしめかせた。彼女は二人の悪党の奸計に気づき、怨みの眼差しを向けたものの、悪魔の息吹きにも似た感覚に痺れ、発作のように腰を搖動させ、きりきりと歯を嚙み鳴らした。
(夫の仇敵の前で、どんなことがあっても、淫らになってはいけない)
そう自制しながらも、黒い道具で思う存分自分の体を痛めつけたくなる衝動に駆られるのであった。明子夫人の白磁の胸は、瀕死の重傷を負ったように、大きく喘ぎ始める。
「どうしよう。いやよ。いやよ。くくっ。ああ痒いわ」
こらえ切れぬように叫ぶと、明子夫人は前にかがみ込んで、慌ただしく手を動かした。少しでも悪党達の眼から自分のしぐさを隠そうとする最後の智恵だった。夫人の髪に邪魔され、その部分をさえぎられた陳と馬頭は、椅子から立ち上がって爪先立って覗き込んでいた。
(中略)
犬のように姉妹の縄尻をとったジュリーを見て、馬頭は陳に気を遣いながら苦笑した。陳は別に気にせず、柱の前で失神している明子夫人を指さす。夫人は仰向けになって、両膝を立て、黒い道具を片手にして、完全に意識を失っているようであった。眼を閉じ、花びらのような紅唇を少し開け、白い歯の間から、小さな舌を覗かせている。
「おかあさま」
渚と繭子は縄尻をとられながら、四つん這いになったまま駆け寄った。
「ああ、わたしがお尻に受けたものだわ」
繭子が叫んで引き抜こうとしたが、明子夫人はしっかりと掴んだまま、手を離さない。
「そのままにしてあげなさい。気が付くまで取れませんよ。何しろ五回も昇天し続けたんですから。ほほほ」
陳がねっとりした声で言った。
「ああ繭ちゃん。おかあさままで」
暗然と息を飲んだ渚は、繭子に抱きつくと、絶望的な叫びをあげて、堰を切ったように泣きじゃくった。
「仕方がないのだわ。おかあさまだって、女ですもの。ううっ」
渚の涙につられて。繭子も激しく嗚咽しだした。
(後略)
・・・
陳は明子を自分の第6夫人にし、渚と繭子は海外にある組織の接待施設で働かせることを馬頭に話して、物語は終わります。
 
次に前後逆ですが、“猥らな乱調”です。
ヒロインは20歳の大学生大月秋子と父親の後妻27歳の大月雪乃、加虐者は窃盗の常習犯で最近出所した仙川とその情婦勝江です。勝江は仙川の服役中、金持ちの家で住み込み女中として働き信頼を得た頃に数十万円の現金や宝石を猫ばばして姿をくらます事を繰り返して食いつないできましたが、仙川は勝江の今の奉公先の主人が3か月の海外出張中と知ると、服役中に知り合い、ひとあし先に出所していた神田を誘い、勝江に色々芝居させて秋子を誘拐し、身代金500万円を持参した雪乃、秋子の許婚者安夫も相次いで誘拐し、彼女らの体を用いて3か月間に更なる金儲けを企む、即ち身代金を受け取っても美女たちを解放しないという話です。引用するのはクライマックスの私の好きな男責めの場面です。
・・・
「そうだ。ただ立縛りにしてたんじゃ面白くねえ。秋子、お前もまだ恋人に、体の奥まで見せたことはないんだろう。どうせこれからはちょいちょい見せるんだ、今のうちに、彼氏にわたしのはこういう形をしてますと、お披露目をしておいた方が良かろう。雪乃夫人も将来の娘婿に母親の体を見せておいた方がいい。秋子とわたしのとは大きさが違うよってね」
神田はうつ向いて泣き忍ぶ雪乃と秋子を下から見上げる。
「こ、こんな姿を、や、安夫さんに見られたくない、お母さま、お母さまどうしましょう」
「ああ。人でなし、けだもの、犬畜生!」
雪乃夫人の思い余って、嘗て口にしたこともない罵詈雑言も、二人の男の耳には素通りである。神田は人形の足でも持ち上げるように、雪乃夫人と秋子の片足を上げさせて、天井の梁に通した縄に結びつける。一本の切れ目を見せていた二人の下腹は、西瓜をかぶる口のように、全てをあからさまに剥き出された。
 
所詮安夫のささやかな抵抗など、蟷螂の斧に等しかった。腕力でさえ、仙川一人にも太刀打ち出来ないのに、神田のような巨漢がいるのである。おまけに、安夫が少しでも逆らえば、勝江が考えるだけでもぞっとするような淫らな振舞いをしかけるのだ。泣き叫ぶ雪乃夫人と秋子の声を聞いては、それでなくても安夫の心はひるみ、命じられるまま、素裸になる外なかった。
「あーら。わたし惚れちゃうわ。あんたよりずっと立派なお道具じゃないの。これで興奮したらきっと凄いわよ」
がん字がらめに縛られ、神田に縄尻をとられた安夫の、ほっそりとした体に似合わぬ下腹をうち眺めながら勝江が頓狂な声をあげる。
「くだらねえことを言うな」
苦笑した仙川は勝江にとり合わず、神田に安夫を引き立たせて、片足あげの姿勢をとっている二人の美女の前に連れて来させる。襞の一枚一枚はおろか、ずっと奥まで続く道程まで剥き出している下腹を前にして、安夫は見まいと顔をそむけて眼をとじる。
「おい、横を向いてちゃあ何にもならねえ。眼を開けて、雪乃と秋子の下腹を覗いて、匂いを嗅ぐんだ。いいか、これはお前が本当に秋子を愛しているかどうか試す為なんだ!」
「いやだ!」
首を左右に激しく振りながら安夫は言った。初めて近々と眼にする愛する人の女体に、自分の体がどのように反応するか、安夫には怖ろしかった。
「仕方がねえ。それじゃ勝江の手の刺激で、二人の見ている前で昇天させるぞ」
(中略)
仙川が手ぐすね引いている勝江に声をかける。
「ああやめて!安夫さん。その人に変なことをされる位なら、わたし達の姿を見て!どんなにどんなに辱しめられても、秋子は、秋子はあなたを愛しています」
勝江が安夫の下腹に手をかけようとするのを見て、秋子が叫んだ。
「秋子さん、僕もだ。見るよ、見る。ぼ、僕がどんな姿になっても笑わないで」
安夫も叫ぶように秋子に答えると、何もかもふりきるように顔をあげた。
「よし、よし。どうだ安夫。秋子がまだ処女だというのが判るか。雪乃と、ここの所の色が違うだろう? 一回でも二回でも男を知ると少し変わってくるんだよ。さあ、今度は匂いだ。よく二人の匂いを嗅ぎわけてみろ、多少違うだろ。世帯持ちは手入れが良いから、秋子の方が匂いが強いんじゃないか」
神田に首根っこを押さえられ、無理矢理鼻を近づけられる安夫に、仙川はそう囁きかける。
「どうだ違いが判ったか、返事をしろ!」
「そ、そんなこと言えるか」
「言わなけりゃ勝江に刺激させる。見ろ、お前の体はすっかりたくましくなってるじゃないか。勝江に触れられたらすぐ昇天しちまうぞ、言え」
「判った言う。き、きみの言う通りだ」
「秋子!恋人が言うんだ。間違いない。お前の方が臭いそうだよ!ははは」
仙川の言いように神田も勝江も思わず噴き出した。
「よし嗅ぎわけが出来たら早速テストだ。おい勝江。奥さんと秋子のパンティがあったろう。あれを持ってこい」
「あら、絹の方はあたいが穿きたいと思ったのに」
「五百万もあるんだ、そんなの何枚でも買ってやる、寄こせ、猿ぐつわにするんだ」
仙川は勝江から二人のパンティを受け取ると、雪乃と秋子の口をこじあけて、パンティをねじり込み、その上から手拭いで猿ぐつわをした。
「勝江、安夫に目隠しをやってくれ」
勝江は安夫に黒い布の目隠しをする。仙川は、雪乃と秋子の縄尻を取ると部屋の中央に臀部を高く上げさせて、伏せるように位置させた。神田は目隠しされた安夫を雪乃と秋子の臀部に向けて対峙させる。
「いいか安夫。お前の目の前に今、雪乃と秋子がお前を受け入れる姿勢をとっている。どっちが雪乃か秋子かお前には見えない。だが匂いで嗅ぎ分けるんだ。よく考えて判断しろよ。これはお前の秋子に対する愛情の問題だ。間違えたらお前は恋人の母親と交わることになるんだから、真剣にやるんだぞ」
猿ぐつわをかけられた母娘は口をきけない。康男は肉体の感覚で、自分の恋人を見分けなければならないのだ。神田が安夫の首筋に手をかけ、顔を二つ並んだ剥き卵のような白い臀部に近づけさせる。ことここに至っては安夫も真剣だった。安夫は感覚を研ぎすまして、雪乃と秋子を嗅ぎわけようとする。だがかっかと燃えた頭は混乱し、どちらがどちらか見分けがつかない。
「さあもういいだろう。安夫、秋子は右か左かどっちだ」
暫く迷った末、安夫は左と答えたがそれは雪乃であった。雪乃も秋子も安夫の言葉を聞き、何とか間違いを正そうとしきりに臀部をうち振るのだが、安夫にわかる訳がない。含み笑いをしながら勝江が安夫に手を添えて、雪乃に近づけさせた。柔らかいものが、熱い安夫の体を包んだ。雪乃と秋子はお互いの顔を見合わせて、身も世もなく泣いた。神田に臀部を叩かれ、仕方なく安夫は体を動かす。雪乃を秋子と信じて
(ああ秋子さん、こんな形であなたと体の結びつきをするようになるなんて!で、でも僕は今幸福だ)
強制された動きでなく、自らの意志で体を動かし始めた安夫は、心の中でそう叫んだ。秋子の手前、じっと安夫の振動をこらえていた雪乃は、やがて眼を閉じ、知られぬようにそっと体を動かし始めていた。
(安夫さん!ひどい!残酷だわ)
秋子は声なき声を上げて身を揉んだ。知らずに淫らな乱調を奏でる雪乃に安夫がふり注いだのは間もなくの事だった。
(了)
・・・
今回読み比べて気付いたのですが、2作品には安夫と雪乃の強制性交以外に性交場面が有りません。従って20歳前後で処女の渚、繭子、秋子は最後まで処女のままですし、継母の明子、雪乃が加虐者から貫かれるシーンも有りません。そこで他の2作も読んでみるとデビュー作(?)の“恥肛の姉妹”を例外として、残りの“悦虐心中”にも性交場面が有りません。性交場面無しで読者を唸らせてみせるという気概が作者に有ったのでしょうか。
更に私が注目するのは継母がいずれもまだ20代である事です。“悦虐心中”も女子大生と20代の継母がヒロインです。実母か継母かではなく、年齢が問題で、この年齢差だったら継母にするしかないという訳です。つまり20歳前後の娘の実母の年齢層である40代の女性は官能小説の対象外と見なされる時代だったという事でしょう。思えば団鬼六さんの大作“花と蛇”の静子夫人も確か26歳とかそのくらいだったと思います。私は今じじいですから、40代とか50代のヒロインも十分ピチピチして若く映るのですが、当時は「もっと高齢でも良いから実母の方が刺激的で良かった」みたいな事は考えた事も無かったと思います。今、紙の小説は全く読まないのですが、ネットには40代がヒロインの小説はいくらでも有りますし、AVには(広告しか見ませんが)40代、50代、60代などと銘打ったシリーズものも有りますよね。これは若い頃アダルトコンテンツに嵌まった世代の高齢化に従ってジャンルが拡大したのか、或いは今や若年層も熟女にまで守備範囲を広げているのか・・・、この辺りを解説した論文とか有りませんかね。(有っても私は読みませんが。)いずれにせよ、今の日本は性の多様化が花咲くポルノ大国。昔「ボイン(筆者注: ボイン=巨乳です)というのはどこの国の言葉? 嬉し恥ずかし昭和の日本の言葉」という歌が有りましたが、今のネット環境は私にとって恥ずかしく、また嬉しいものです。多くの日本男児がこんな環境に染まってマゾ化するのは必然という気がします。

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