新型コロナウイルス悄然記
×月×日 平熱
性懲りもなくまた某介護施設で働き始め、今月いっぱいは正社員が私に附き、仕事を手ほどきして下さる手筈だったのだが、コロナウイルスが施設で蔓延し始めて状況が一転し、「仕事を教えているどころではなくなってしまった」「悪いんだけどもう普通に働いてくれ」との由。未だほとんど何も教わっていない状況で「普通に働いてくれ」とは?
今回のコロナウイルスの感染経路は不明。世間ではインフルエンザの方が流行している筈なのだが。私が僅かながらも介護経験がある精神異常者でなければどうする予定だったのだろう。素人だろうが使ったのだろうか。
×月×日 平熱
そもそもコロナウイルスにウンザリして介護を辞めようとしていたのだが、悪意に満ちた神々の戯れによって介護職に復帰してしまい、そして予定調和的にコロナウイルスが発生し、ここでも私の心身を蝕んでいく。
二年前を思い出して嫌気がさす。次々と倒れていく職員。何故か倒れない私。キャップとガウンとマスクとディスポグローブとアルコール消毒と加湿。永遠とも思える仕事時間と仕事量。死亡事故。ぶっ壊すつもりで蹴りを入れた事務所のドア。呪い倒した厚生労働省。そしてコロナかと思ったら疥癬に罹患して、皮膚科で金玉の裏まで赤くなっているのを開示させられた事。果てに到頭コロナに罹り、自宅でふらふらと階段を上っていたら段差に足をぶつけて右足第二指を骨折して完全に頭も身体も壊れた事。エトセトラ、エトセトラ。厭な思い出以外に何もない。
現在働いている施設では、幸運な事にコロナウイルスとはそれほど縁がなかった様で、昨年か一昨年に一度流行した程度だという。かつて私の居た介護施設で四回のクラスターを喰らった所為で、ここから先の展開が予想できてしまうのだが、私以外の職員は割と呑気である。
×月×日 平熱
案の定と云うべきか、早くもコロナで職員が二人が倒れた。私は五類に分類される前に介護職を辞したので知らなかったのだが、現在はコロナに罹患すると五日間のj出勤停止になるらしい(二年前は十日とかだった。私も罹患して支援物資も頂いた)。早くも来年の一月一日から残業が確定している。年始早々に縁起のいい話だ。私が死んで生まれ変わったら太陽になって、百年くらいじっくり時間を掛けて気温を上げ地表を焦がし尽くしてやる。
×月×日 平熱
仕事納め。年中無休の介護士にとって仕事納めなど存在するのか知らないが。他職員は「よいお年を」と言って退勤する。厭味や悪い冗談で云っている訳でもなく、コロナが蔓延している現状で割と真面目に「良いお年」などと云っているのは思わず正気を疑ってしまうが、介護士などという職に就いている因業な人間は全員正気を喪失しているのでこれも致し方ない。適当に社会人を演じている精神疾患者の私は「来年もよろしくお願いします」と濁してその場を辞した。私に関して言えば仮にコロナが無くても「良いお年」など到来した例が無いのだが。
×月×日 平熱
何故なのか分からないが三十一日だけ休みを貰っている。一月一日から普通に仕事なので特に意味はないのだろう。
目下、最大の不安は通っている接骨院が一月四日まで休業しているという事だ。午前中に接骨院、午後に仕事というルーチンで何とか爆発的腰痛をやり過ごしているのだが、年始の私は治療なしで乗り切らねばならない。今朝は腰にタイキックを一億発ほど喰らったような激痛とともに覚醒し、室内で杖を用いてよろよろ立ち上がっているような按配だ。仕事明けの朝はいつもこんな具合だ。
普段使いしている近所の店は一月三日からの開店らしいので、年末年始の休業に備え、水やインスタント食品、また酒や煙草などを買い込む。最近呑んでいるのはウイスキーのホワイトホース。味と、値段が他のウイスキー(ジムビームなど)に較べ幾らか良心的だからという理由だ。本音を言えば年がら年中ヘネシーを呑んで暮らしたい。売れてるラッパーみたいに。いずれ自死が確定したら浴びるほど吞んでやる。あとは寿司。寿司が喰いたい。今のところ私の人生の希望はその程度だ。ささやかなのか破滅的なのか自分でもよく分からない。ささやかさと破滅的な態度は両立するものなのか?
私以外の人達はどうぞ良いお年をお迎え下さい。新しい年が皆様にとって素晴らしいものとなりますよう心よりお祈り申し上げます。さようなら。