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引っ越し貧乏

十年以上の介護業務によって身体に「がた」が来ていたのだが、四月初頭、私の不注意により拙宅にて右足第二指(人差し指)を骨折してしまった為、職場から傷病手当を貰いながらの休職をしていた。更に悪い事に、整形外科で、折れた足指のついでに激痛が走っている腰付近も診て頂いたのだが、背骨の状態があまり状態がよろしくないらしい(通常、背骨はS字型だが、私はI字型で、これは長い緊張状態が続いたためだろうとの由)。立てば激痛、座れば疼痛、歩く姿は筋肉痛。もう今まで通りに労働するのは困難だ。嗚呼、いよいよ来たなと思った。終わりの合図。

退職ついでに転居することにした。既に九月一日から転入している。持ち物は、衣類、本、本棚、生活に必要な資料。
以上。
預金は400万円と少し。元々は700万ほどあったが、うち300万円は十六歳の三男にあげた。私が高校生の当時、我が一家(母と私と次)は生活保護費で生きていたので、金が無くて大学進学を諦めたが(本当は学も無かったせいだが)、とにかく、三男にはそういう思いはして欲しくない。別に大学に行きたくないのならば、そのまま生活費にでもしてくれても良い。三男に父親が居ないのは彼のせいではない。彼の周りに居るクズみたいな大人のせいだ。例えば私のような。

ともあれ、町田市に来た。理由は家賃が安かったのと、天井が高かったからだ(今まで住んでいた家では、よく鴨居へ頭をぶつけて悶絶し、この世のすべてを呪っていた)。他の条件は特に何も見なかった。ボードレールに倣って「どこへでもこの世の外へ」の精神で、とりあえずどっか行く。そのようにしてこの世の外、すなわち異世界に転生……の代わりに、町田へ転居した。むしろここは異世界町田。実際、私はこの街に就いて何も知らない。ネットで色々と調べ物が出来なければこんな思い切ったことは出来なかっただろう。住所変更や役所等の手続きもクソ煩瑣だ。どうやって色川武大は「引っ越し貧乏」(新潮社)になったのだろう。

とりあえず町田市指定のゴミ袋の値段にビビっている。ここはミニマリストのコミュニティか何か? 先行きは、いつも通り不安しかない。机もないから、この文章は購入し、届いた冷蔵庫の上にノートパソコンを置いて打鍵している。トマス・ウルフのエピソードを読んだときは驚いたが(「身長6フィート6インチと長身だったウルフは、冷蔵庫を台にして、立ちながら原稿を執筆するのが常だった。」6フィート6インチ……198.12㎝? でけぇ)。


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