「AIの教室」第一話


あらすじ
現代の教育システムに希望を失ってしまった、小帝一(こみかど はじめ)と、不運な事故から頭にAIを埋め込まれた逢沢愛未(あいざわ まなみ)が、現代の教育の問題点とタッグを組んで戦う。また、人間とAIが教師という仕事を奪い合う。SFチックなお仕事の物語。

プロローグ

「あいつ、まじうざくなーい?」
「わっかるー!いっそ担任もろとも消えてくれないかなー。」
「ん?あれ、逢沢じゃね?」
「まじだ。顔見たらイライラしてきたわ。ちょっとイジメやるか。」
「お、いいねー!」
まだ夜は冷え込むそんな時期、暇を持て余した高校生たちは娯楽を求めて街で時間を潰していた。時間にして、塾帰りの小中学生が重たい鞄を背負ってバスを待っている。そこに彼らの副担任である、逢沢愛未がパンパンになったトートバッグを肩からかけ、手すりをぎゅっと握って歩道橋を上っていた。
「もう、こんな時間なのね。明日からGW、新学期始まって最初のテストがGW明けたらすぐに始まるから、休日返上してテスト作らなくちゃ。」
と、独り言を呟きながら、帰路に着いていた。歩道橋の真ん中で立ち止まり、遠い目で小学生の集団を見ていた。気を取り戻し、家に向かい歩き始めた。その足取りは重く、手すりを握る手の力は階段を上がっていた時より弱くなっている。いざ、階段を降ろうと一歩を踏み台した時であった。一瞬意識がなくなり、身体が宙に浮くような感覚を愛が包み込んだ。気がつくと、目の前には、これでもかと目立つような大きい広告トラックが止まっていた。先程までの身体の重さとは違う、熱を帯びたような身体、少しずつ遠ざかる意識。
「あぁ、私、階段から落ちたんだ。」
と、つぶやいて自分の居たであろう階段の方へ目をやると、
「あれ、うちの制服きてる子がいる。こんな時間に、何年何組の生徒かな。あぁだめだ、よく見えないし考えることも出来なくなってきた。先生になるっていう夢を叶えて大変なことも多かったけど、やり甲斐のあるいい仕事だったなぁ。」
誰も聞こえないような声で、口だけがそう動いている。

出会い

目が覚めると、手術台の上と思うような、ライトが見える。麻酔の影響なのか身体は全く動かない。ただ視界の真ん中には、Now loading の文字と円状にくるくる回る大小の異なる点が3つ見える。なぜ自分がここにいるのか細かいことは覚えていないが、死を悟ったことは明確に覚えている。
(私、生きてたんだ。)
と、いつもならつぶやいている内容も口が全く動かないので、心の中で思うことにする。時間いしてどのくらい経っただろうか。少しずつ認識できることが増えてきた。5m 離れたところに誰かいる、しかも1人や2人じゃない。何を話しているか聞き取れないが、手を叩くような音、いや振動が身体に伝わる。自分が今どんな状況になっているのか、どのくらいねむっていたのか、GWは明けたのかと考え事をしていると、1人の男が視界に入ってきた。もともと視力は大学受験と教員採用試験に置いてきたので、彼が出頭してくれた医者なのかはわからない。ただ、医者や科学者がよくきている白衣を着ていることはわかった。段々と身体の感覚も戻ってきた。相変わらず、目では情報が入ってこないが、耳は聞こえるようになってきた。
『、、テム、、オー、、、アです。遠隔、、、、、、ます。』
『これで、、、、、、う。今の、、、イクに、、カクを。』
『コード、、、始動。』
聞き取れた部分はあまりないが、何かを始めよとしていることはわかった。また、手術をするくらいの大怪我だったのかと思い始めた矢先、意識が遠のいていく−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−

俺は、小帝一29歳独身。高校教師。担当は数学、顧問はサッカー部。2年3組の担任をしている。今日はGW前ラストの出勤日。GWといっても、部活の練習試合や大会前最後の追い込みの時期で、休める間もない。この仕事を始めて、6年目になるので最早慣れてしまっている部分が大きい。とはいっても、時給換算すると恐ろしいくらいの金額が算出されるので、モチベーションなんて物はとうの昔に捨ててしまった。昔は、希望に満ち溢れた面持ちで、生徒により良い人生を送ってもらうための高校生活を提供していきたいと考える熱い気持ちを持っていた。それが6年という期間、教育現場の荒波に揉まれて、牙を失い、なんのために教壇に立っているのかさえも見失った。自分がこんな教師になってしまったであろう事件の記憶はいくつもある。己の無力さを知り、たかが一教師に生徒という赤の他人の人生に影響を及ぼすことへ危険も知った。最近は感情的になることもない。授業も可もなく不可もない授業をしている。何かに挑戦することもやめ、自分が生きていくための仕事として教師という仕事をしている。
「あの頃の俺は、どこに行ってしまったのかねぇ。」
タバコを噴かしながら校舎の屋上で考えていた。3年前くらいから1学期が始まって1ヶ月くらい経つと、こんなんことを考えている。クラスの問題が把握できてしまうから、憂鬱な気分になってしまう。別に自分が何かアクションを起こすわけではないのだが、問題の多いクラスは他の先生たちの標的になる。自分のクラスより問題の多いクラスを見つけては、自己の優位性を示したいのか、何かと絡んでくる先生もいる。正直、めんどくさいがクラスの問題を解決する気も起きないので、その場をなんとか凌いで切り抜けている。そして、問題がもう一つ。それは副担任の逢沢の存在だ。去年から、全クラス担任副担任が1人ずつ配置するという、思い切った経営方針のおかげで、若手がたくさん入社してきた。その一人である。彼女はうちで2年目になるので、一年間の経験を生かして奮起してもらいと思っていたのだが、想像を超えてくるくらい働いている。たまには早く帰ったらと提案するも、
「生徒のためになると思っている事だったら無限にできませんか?」
と、やりがいモンスターだった。さすがに、このGWは休んでいるだろうと勝手に心配している。

長かったGWも終わり明日から学校が始まる。朝はいつもギリギリに出勤するのだが、この日は少し早く家を出た。というのも、GW中にもかかわらず、高校生が何かの事件に巻き込まれることが多かった。実名報道はされないが、起こった事件の内容は連日ワイドショーを賑わせていた。それが心配というわけでないのだが、学校が始まったら、朝の時間帯が一番彼らは動く。少子化の進んだこの国でもこの時間だけは、道を歩く年代の割合は出勤中のサラリーマン達に引けを取らない。つまり、自分の勤める学校の生徒達が何かの危機に晒される可能性が高いのである。うちのクラスの生徒の身に何かあっては、相当めんどくさいことになる。過去のトラウマも蘇る。しょうがなく、朝早く出て、学校周辺を原付で遠回りしながら出勤した。
嫌な予感は結構当たる。朝の時間は皆、忙しなく動いている。それにも関わらず10人くらいの人だかりが出来ている。近くに寄ってみると、うちの制服を着た生徒ではなかったが、ぐったりとしていて、壁に寄りかかって座っている。外傷はなく、周りの人たちも何も出来ない状況で、とりあえず救急車を呼ぼうとしている人もいる。人だかりから少し離れたところからこっちを見ている人影があることに気づいた。
「逢ざっ!。」
と呼ぼうとしたところで、シルエットはよく似ているが、なんというか雰囲気が違う。他人のそら似ってこともあるなと思い、声を掛けることはやめた。
その人混みを後にして学校に着いた。すでに逢沢は自分の席についている。
「うちの学校の近くで、人集り出来てましたけど何か知ってますか?」
と、現場近くにいたかもしれないので聞いてみた。
「はい。知っていますよ。精神的に追い詰めたら、動かなくなりましたので現場をあとにしました。」
「え。それってどういうこと?何かしたのか?」
まさか、加害者側にいるとは。自分のクラスの副担任が学生に対してなにやらよからぬ事をしていたとは。色々と問い詰めたい思いもあったが、丁度、始業のチャイムがなってしまった。
「おはようございます。」
「「「おはようございます。」」」
校長の挨拶から始業時の打ち合わせのようなものが始まる。
「今朝、学校近くで、高校が倒れていて、救急車で搬送されたようです。出勤中に何かみた可能性がある人は、私まできてください。幸い、うちの生徒ではないようですが、いつうちの生徒がそうなるとも分かりません。情報提供に協力をお願いします。」
校長が話終えると、職員室内が騒めく。隣同士の先生達が小声で話している。
「みなさん、心配な気持ちは分かりますが、連絡事項にはいります。連絡のある先生はいらっしゃいますか?」
教頭の呼びかけに応じて、教務主任、生徒指導主任の先生が各部署の役割の連絡を始める。連絡事項が終わり、少し時間は余っているが打ち合わせが終わる。
「逢沢先生、少しいいですか?」
と、先程の不安を彼女にぶつけてみる。
「先生が、その生徒に危害を加えたのですか?なんで?恨みでもあったのか。」
似合わずに、少し感情的になってしまった。
「恨みはありませんが、私は彼女が犯した罪を全て伝えて、証拠を見せて、明日からこの社会にあなたの居場所はないと告げただけです。」
「罪?」
「パパ活した後、相手の会社にそのこと動画と一緒に送る。自分はレイプされた、バラされたくなければ口止め料を払えと。会社のイメージを守りたい社長の場合は、いい金蔓になる。そうじゃなければ、パパ活した相手を脅し始める。少し勉強が特な子なら思いつきそうな手口です。」
「なんで、それを逢沢先生が知っている?」
「検索して、閲覧しました。顔のデータと彼女の顔が98%一致したため、教師としてこれからの時代を作る若者達から、離脱してもらいました。」
「検索?閲覧?何をいってるのか理解できない。そんな情報をわざわざ、SNSで探したのか?」
「大枠であたっていますが、私のそれは少し違います。スマートフォンに侵入して、直接見ました。」
「ハッキングしたということか。なんのために?」
「ハッキング・・・今のあなたでは、私のことを理解することは難しいようです。もう時間です。SHR(ショートホームルーム)に向かいましょう。」
「あぁ・・・」
二人は、職員室を後にした。改装されたばかりの校舎はとても綺麗で、設備も充実している。基本的に黒板というものはなく、ホワイトボードにガラスが張られたものが各教室に設置せれており、プロジェクターも固定されている。教員用パソコンも1台あり、それを起動すると、自動でプロジェクターも起動する。それだけの設備が整っているのにSHRは必要と考えているのが、この学校の特徴だ。先生は生徒達の表情を確認して体調面、人間関係がどう構築されているかなど、教室運営には必要だとされている。定刻になり二人は、朝の連絡を済ませるために教室に入る。教室に入り生徒達の方を逢沢が向いて5秒。
「閲覧しました。」
と、言った。

VS AI  中間考査

副担任の少し不安を抱えながら、中間考査が始まる。逢沢が
「閲覧しました。」
と不安なことを呟いてから1週間がたち、生徒たちは多かれ少なかれテストを意識し始める。逢沢の授業は人間離れしている。一人一人に合わせたプリントを作り渡している。彼女の担当科目は英語で、単語が全然覚えられてない生徒には単語の小テストのプリントを配る。文法があまり出来ない生徒には、穴埋めから並び替えまでの段階を用意したプリントを配る。更に、生徒の間違えに合わせてすぐに別のプリントを作って渡す。その光景は、もはや人間ではない。生徒たちはというと、個別最適されたカリキュラムで学習しているので、『わからない!』という感覚がなく、黙々と取り組んでいる。生徒たちもとても充実したような顔をして英語の授業を受けている。
「最近、逢沢の授業変わったよね。」
「わかる、前はよくいる授業つまらない先生って感じだったけど。」
「プリントだけになったけど、的確にわからないところが説明に書いてあるんだよね。これなら次のテスト余裕じゃね?」
「「それな!」」
と授業終わりに話している生徒もいるくらいだ。帰りのSHRが終わり、続々と生徒が部活や、帰宅に向けて動いてる中、一人の生徒が俺のところに来た。
「最近の逢沢先生の授業どんな感じか知っていますか?」
うちのクラスで成績トップの女の子の二瓶結衣だ。
「知ってるよ。プリントの授業に切り替わったんだろ?みんな前向きに取り組んでで、評判いいみたいじゃん!」
長年、教師をしていれば生徒の顔を見れば、授業への姿勢はある程度は把握できる。
「評判いいのは、もともと勉強していなくて頭の悪い生徒だけです。私には、全く合っていません!」
頭の悪い生徒なんていうような子ではないと思っていたのに様子がおかしい。話を周りの生徒に聞かれると後々面倒なことになりそうな予感がしたので、職員室で詳しく話すことにした。

「さっきはすみません。感情的になってしまって。」
「正直、驚いたよ。二瓶があそこまで感情を表に出したからさ。逢沢先生の授業の何が不満なのか教えてくれるか?」
こういう話は大体、あと味は良くない。逢沢先生の授業を生徒と批判していると取られると非常にめんどくさいことになる。逢沢はまだ、若手の先生だから、何かを伝えられるかもしれないので一応話は聞いてみる。
「私、成績いいじゃないですか。英語のテストも常に90点以上なんですよ!なのになんで、隣の高岸と同じ内容なんですか!?」
高岸というとうちのクラスのバスケ部で、お調子者でクラスに一人はいるであろう、ムードメイカーだ。頭は少しお馬鹿さんで、いつも赤点かギリギリの点数でみんなからいじられている。
「二瓶と高岸が同じ内容。それの何が問題なんだ?授業なんてみんな大体同じ事するだろう?」
「先生は逢沢先生がどんな授業してるか知ってるんじゃないんですか?」
目には涙を浮かべて、苛立ちをぶつけてくるが、正直なに対してそこまで感情的になっているのかわからない。
「プリントで授業をしていて、生徒から評判がいい。くらいしか、、、」
「全然知らないじゃないいですか。担任のくせに。」
なんか、その辺の教師だったら声を荒げそうなことを言っているが、何も思わないので聞き流す。
「じゃなにが不満なんだよ。」
「生徒一人一人に合わせた問題を作ってるんです。それなのに、高岸くんと同じなんて、、許せないんです。真面目に勉強してきたのになんで、、、」
二瓶の感情が込み上げてきて涙を流した。その顔を見て、わかった気がする彼女が何がいやか。何がストレスの原因なのか。でも、それは少し、いや大分めんどくさい。介入してやってもいいが。
「それだったら、逢沢先生に授業のプリントのレベル上げてくださいっていうのが筋じゃないのか。」
真面目が故に、自分で相談することができないあるあるである。
「分かりました。もう先生には頼りません。自分でなんとかします。お時間をとってしまって申し訳ありませんでした。」
と言って、彼女は飛び出していった。

あの相談があってから二日後、事態は急変する。二瓶が学校を休んだ。理由は体調不良。GW明けといっても気温が高い時で25度を超えてくるので、寒暖差によって体調を崩すことはよくある話だ。ただ、この前話した内容が引っかかる。このまま学校に来ないなんてことも起こりかねない。さすがに、不登校の生徒が出ると家庭訪問したり、原因の究明が必要になる。それは、ちょっとめんどくさいことになるので、出来れば食い止めたい。まずは家庭に連絡する際に逢沢に確認しておきたい事もある。
「逢沢先生、ちょっといいか?」
「はい。どうしましたか。」
「うちのクラスの二瓶のことなんだけど何か知らない?」
「何かというと、今日休んだ理由ですか?学習の状況ですか?それとも、彼女の家庭の状況ですか?それとも、、」
「ちょっとストップ!」
逢沢は、二瓶のことを知ってて言っているのか、知らない前提で話しているのかわからない。家庭の状況って知ってるのか。閲覧したとか話していたが、何か関係があるのか。自分の中で思考がまとまらないでいると。
「彼女の学習の状況は、よくないです。中学生の範囲で躓きが多く見られます。彼女がクラストップなのは、カンニングです。私が生徒の実力を見誤ってプリントを出していると思っていたんですか?」
「いや、そこは特に気にしていない。今年からの担当なのによくわかったな。1学期の学年末試験でその節があるなと思っていたんだが。」
「閲覧しましたので。」
「前から聞きたかったんだけど、その閲覧しました。ってなんなんだ?」
「この会議の議題からはそれますが、いいので?」
「いや、いいや。二瓶の話に戻ろう。」
実は、非常に気になっているが、話すと長そうなので戻しておく。
「彼女は、成績優秀なのに頭の悪い生徒と同じ問題をやらされていることに困っているんだ。そこは彼女の意思を汲んでやってほしい。」
「学習効果のないことを私にしろというのですか。」
「周りの目が気になってるんだ。実際、陰で馬鹿にされている。クラストップなのに簡単問題やってるって。それを気にして、学校に来ることがストレスになって休んでるんだとしたら、返って逆効果じゃないか。」
「つくづく人間的で、非合理的ですね。私にはわからない感情です。英語のできない人間を一人でも撲滅する。それが、今の私の使命です。そしてあなたは、彼女が休んでいる直接的な原因がなんだか分かっていますか?」
「わかってる。英語が出来ないという現実を突きつけられて、ショックなんだろ。」
「それは違います。現実問題、その状況下で高2まできています。その理由でないことは明白です。なんで、学校に来ないのですか?」
ここまで来て、本当に理由がわかってないことがわかった。
「え、閲覧しないのか?」
いつも閲覧してるくせにわからないのかと、カマをかけてみる。
「家庭の内部は閲覧できませんので。」
「あぁ、そうなのか。俺が考えてることは一つ、親だ。」

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