東京事変「私生活(新訳版)」新旧考察
歌詞考察4弾目です。
この曲は2007年リリースの「私生活」と2022年にリリースされた「私生活(新訳版)」の2つがあります。
新訳版とありますが歌詞は全く一緒です。
<こちらが2007年の原曲>
<こちらが2022年の新訳版>
2007年版は自分語りのような歌い方が特徴です。溢れ出しそうな感情の抑揚をつけた歌い方で、ストレートに心に響き、共感した人は涙を堪えきれなくなる経験をしたのではないでしょうか?
グッと胸を締め付けるような感じを覚えます。
それに対して"新訳版"は歌い方はスッキリしており、演奏からもスマートさが漂い、原曲が大好きな人が一度聴いただけだと、なんだか物足りなく感じるのでは?と思います。
洗練されていてカッコいいんですが、あの熱情がこもった自分語りはどこへ?と私も最初は思いました。
どちらが好みかは置いておいて印象はそのように受け取った人が多いのではないでしょうか?
そこでなぜ15年経ってから新訳版として再構築したのか?を考察していきます。
誰に向けて新訳版を歌ったのか?
誰に向けて歌ったのか?それが新旧の最大の違いだと思います。この歌詞には"僕"と"あなた"がでてきます。2007年の方は"僕"自身として一人称で歌っていると感じられます。
当たり前ですが、僕の人生の主人公は僕ですので、原曲では僕自身の内面を歌っているという解釈です。
曲全体から受ける印象として、そう感じる人が多いのではと思います。
それに対して新訳版は、"僕"でも"あなた"でもない、三人称視点で歌っています。名の通り翻訳しているのだと捉えてみます。
つまり、新訳版では椎名林檎(敬称略)はもうこの曲に出てくる"僕"ではないのです。
人生と言う舞台の主人公を、ある意味一段降りた場所に居て…すなわち"親"になったのだと捉えてみます。
もちろん2007年時点でも椎名林檎には子供がいたのですでに親でしたが、それは子育て真っ最中の親であり、"親なんたるか"はまだ語るに早い状態で。
そして2022年時点では椎名林檎の息子はもう大人になっています。子育てをやり遂げ、息子も大人になり対等になったことで、初めて親を語れるようになったのだと思います。
以上より新訳版では、親として大人(社会人)になった息子に向けて歌っていると考えました。もちろん曲を世に出すことから、椎名林檎の息子だけというよりも、これから社会人になる人全てに向けての応援ソングだと思います。
そう考えてこの新訳版を聞くと、深みや温かみを感じられるのではないでしょうか?
新しい"僕"たちが社会に出る一歩目を、そっと後ろから送り出してくれているのです。
ここで言う親とは子供の有無というより"未来を繋げなければならない"と考えている人を指すと考えます。
自分に子供が居なくても、未来を考えられる人は親であり、逆に未来なんて関係ないと思っている人はたとえ40歳であってもいつまでも子供と変わらないと言うことです。このように親を広義で捉えたいと思います。
東京事変「緑酒」の歌詞を借りると"扶養側"とも表現しております。
新訳版は"僕"が"あなた"になった未来
新訳版の"僕"は新人社会人たちだと考察しましたので、次は"あなた"についての解釈です。
"あなた"は手の届かないような憧れの人として歌われています。
そこで"あなた"を"昔は僕だった人"と捉えるとまた面白いのではないでしょうか?
ちょっと複雑ですが、2007年当時"僕"であった人たちは2022年には"あなた=親"の年齢になっています。
もう一度繰り返しますが、"親"とは子供の有無は関係なしに未来を繋げなければならないと責任を持って考えている人です。
15年経った2022年、僕たちは親になり、自分自身が憧れの対象となっていくべきだと考え始めます。
歌詞の最後の言葉と繋がると、"生かして"もらっていた側は卒業して、次の世代の"僕"たちを"生かす"側です。
そうやって、僕たちみんなが親になり、後に続く子供の憧れであろうとする。それが幾重にも引き継がれていく。
その憧れのサイクルで未来を築いていく人間社会の尊さこそが「私生活(新訳版)」のリリースで伝えたかったことなのでは考察しました。
新訳版まとめ〜15年の成長を見つめよ〜
まとめると、新訳版は
「これから社会人になる人全てに向けての応援ソング」
であるのと同時に、2007年から聴いていた人には
「15年間という成長の期間で、憧れとなる"あなた"になれたでしょうか?」
と問いかけてくれる曲であると解釈しました。
私個人としては子供もいて生物的には親となっていますが、憧れの存在か?と言われると自信はないです。
少なくとも"親として恥ずかしくない存在になるための努力をしないとな"と気を引き締められました。15年経った私へも応援ソングとなっているのだと考えさせてもらいました。
以上が考察で、あとは余談です。
「私生活(新訳版)」は2022年5月1日にリリースせれており、つまりその日はメーデーです。
労働者が団結して権利を要求する日です。新社会人の応援ソングであるという所に繋がっているのかな…と想像しました。
また、私生活を英訳すればprivateとも訳せると思いますが、シーナリンゴとして広末涼子に提供した「プライベイト」と言う曲もあります。今回の考察とは繋げてはいないですが、個人的に好きな曲ですのでとりあげました。
当時のアイドルとしてのヒロスエに提供したくなったのがわかる良い曲です。
<椎名林檎と東京事変の探求>
第1回:椎名林檎「依存症」の探求
https://note.com/clear_yucca9437/n/n021a0e5712bd
第2回:東京事変「生きる」の探求
https://note.com/clear_yucca9437/n/nf7de00f93467
第3回:東京事変「新しい文明開化」の新しい考察
https://note.com/clear_yucca9437/n/n55891e0dd045
第4回.東京事変「私生活(新訳版)」新旧考察
https://note.com/clear_yucca9437/n/naa1baf355d70
第5回:東京事変「群青日和」の探求
https://note.com/clear_yucca9437/n/n9b6fc15b22fe