モントレーの山奥から心の叫び 36
36--「日本人に生れてよかった」 2040字 6-18-2007
「アメリカ人の適当さについて行き難い」。
アメリカでプレーした野球の新庄選手が言っていた。
ほんまにそうやと思う。
道をたずねたり、探している店をたずねると、愛想よく、すぐに親切に教えてくれる。
その通り探して見るが、探し当てることはまず少ない。
また他の人に聞いても同じことが多い。
ほんまに適当なもんや。
これはどうもアメリカ人は知ったかぶりの人が多いのか、人よりものを知らんというのは恥じに思う人が多いのか、アメリカ人の義務みたいなものか、さっぱりわからん。
私は今、自分で家を建てているので建築材料、電気屋、金物屋探しが多い。
山の中に住んでいるから、一度町へ出たら、ついでに必要なものを何軒もまわってまとめ買いをする。
先日は ドゥ、イット、ユアセルフの大きな店へ袋入りのミックスコンクリートを買いに行った。
セメント売り場に行き、若い男の店員にこのミックスコンクリートひと袋は体積いくらあるんですかと聞いた。
袋にちゃんと書いてあるはずなのだが、ややこしい専門用語の英語で書いてあるからわかりにくいので聞いた。
彼は袋に書いてある説明をそれはもう、あきれるほど時間をかけて読んで、ついに、2、5キュービックフィートですと自信ありげに宣言してその場を離れて行った。
私が知っていた大体の体積の8倍もの数字だ。
私は彼の言葉を信じる事ができなかった。
しかたなく、小さな字で書かれた説明を念入りに読んでみたら、彼の言った2、5キュービックフィートという文字はどこにも見つけられなかった。
もうあきれてものが言えなかった。
この頃は店の店員の質が落ちた。
次の買い物、電気ワイヤや電気部品を買うのも面倒になったが、行かねばならぬ。
電話帳で3軒の電気工事材料店を見つけて2軒ほど回ったが、どうも説明に信用がおけない。
この部品は合いそうだから、買って行って、合わなかったら返品したらエエと言って売りつけようとする。
あまりにも自分の扱っている商品知識がないのにまたうんざりした。
小学生の店員の方がまだいいと思った。
今日はついてない日やのう。
難儀な日やのうと、うんざりしながら最後の店に向かった。
60歳代の優しそうな白人の店主と顔が合ったとたんにふと安心した気持ちになった。
この親父さんは私の質問に、実にてきぱき、正確にやさしそうな顔で答えてくれる。
よく知っている。
どうも、元電気屋さんだったみたいだ。
そして、私の欲しい製品の値段を全部出してくれた。
親切に教えて頂いたら、いくらか授業料を払う気持ちにまでなった。
そして口から出た言葉が私を感激させた。
「他にもっと安い店があるかもしれんよ、探して見てください」と言う言葉は殺し文句だった。
これがほんまの商売人や。
感激屋の私は多少高くても彼から買う気になった。
ところが世の中裏表があるもんや。
やはり大変な事が起きた。
前の2軒で買いたいものの大体の値段はわかった。
彼の出してくれた値段も同じだろうとよく見ないで買うことにした。
地面に埋める太い電気のワイヤ全長450フィート(137メートル)は一人で持てない重さなので三つに切ってもらった。
親父さんはワイヤを切るのは店員に任かせて外へ配達に行ったらしい。
支払いの段階になって、伝票を見て目を疑った。
800ドル(8万円ぐらい)ぐらいと思っていたのがなんと1500ドル(15万円ぐらい)以上になっているではないか。
予算の2倍近い金額ではないか。
「オーノー、これは間違いではないですか」と聞くと、間違いないという。外に出ている親父さんに携帯電話で確かめてもらうと間違いないという。
少ない身体障害者年金で生活している私には払える金額ではない。
でもワイヤはもう三つに切ってある。
これはえらいこっちゃ。
どないしよう。
でも、どうにかしてもらわないといけない。
「50ドル迷惑料払うから勘弁してください」と思い切って言ってみた。
なんと親父さんの奥さんは、切ってあってもまた売れるからかまわないと言うではないか。
今度は涙が出るほど感激した。これには恩返しをせんならんと言う気持がもりもりと湧いてきた。
こんな時は金のない私でも昔の景気がよかった頃の懐具合のええ、調子のええ徳さんに戻る。
さっきは50ドルと言ったが、ふと現実の徳さんに戻って、10ドル値引いて店員さんに40ドル握らせて倉庫の後ろのパーキングへ向かい、車に乗って、ゲイトから、道に出ようとすると、店の入り口から、私の車に向かって手を振って慌てて走ってくる白人の奥さんがいた。
車を止め、彼女を待っていると、さっき渡した40ドルを握って、「主人に電話したら、返しなさい」と言われたという。
またしても私は感激した。
「受けとれん、受けとって欲しい」の押し問答をくり返して、「では皆さんでハンバーガーでも食べてください」とやっと20ドルを受け取ってもらった。
その時にその白人の奥さんの口から出た言葉が、忘れる事の出来ない、値打ちのある言葉だった。
「だから、私は日本人が好きなのよ」。日本人に生まれてよかった。 6-18-2007 フリムン徳さん