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78--「ジーパンの似合う女      モントレーの山奥から心の叫けび」

(天国旅行の費用は66万8千円)1790字 12/15/2012
「1度で払えと言うなら、私をこの病院から退院させないでくれ、アメリカからの旅行者で、そんな大金はない、月賦払いにしてくれ」
私はアメリカに住んで40年近くなる。
アメリカの保険、メディケア、メディカルもある」。
この交渉をしている私は病人ではなかった。
昔の叩き売り”男前の徳さん”に戻っていた。
「さー、買うとくんなはれ、買うとくんなはれ。
大阪で1番安い値段や、安い、安い。
「ワイに、手握らせた別嬪さんは、タダにしたる」。
こんな調子で大声で叩き売りしていた。
 退院前日である。
会計担当の男性が病室へやってきた。
その会計担当の人は、日本のアメリカ領事館に問い合わせて、調べてくれたという。
アメリカのメディケア保険がカバーするという。
私は、胸をなでおろして、ほっとした。
(だが、アメリカに帰って、メディケアに電話すると、外国旅行の際はカバーしないという。
外国旅行の際は旅行保険加入をお勧めする)「66万8千円という大金をどうして造るか、どうして払うか」という重さに、ベッドの上で、寝ても覚めても押さえつけられていた。
「徳さん、66万8千円の重さは何で量るのや」、身長計か、体重計か、聴診器かどっちやねん」。                               
この病院では私のようなケースは初めてなので、アメリカのメディケアやメディカルへ英語で申請して、入院費を取るのは面倒で難しいという。
第一、英語で交渉が出来ない、英語の請求書が作れない。
彼の顔にはそう書いてあるようだった。
 入院費用12日間で66万8千円(約8千ドル)。
日割りで計算すると、1日約5万5千円(約690ドル)である。
誰でも、そう簡単には経験できない天国旅行の費用である。
いや私の身体の修理代や。
中古の車1台代えるわ。
ちょっと、待ってくれ、66万8千円($8千ドル)、ゆうたら、私が乗っている中古車(KIA・メイドイン・コーリア)と同じ値段ではないか。
とすると、フリムン徳さんの修理代はは中古車KIAと同じ値段である。
フリムンの修理代でも車の値段よりは高い。
トホホや。
 人間には簡単に値段はつけられない。
だが、天国帰りのフリムン徳さんには金で簡単に値段がつけられた。
宇宙から帰還した宇宙飛行士よりも天国帰りの私がえらいと思うのだが、世の中の人の判断は違うようだ。
「徳さん、人間いつかは誰でも天国に行けるが、宇宙へは特別の人しか行けないのだ、よく考えてみろ」。
天国旅行の費用にしては安いが、年金生活で生きるのが精一杯の私には胸も頭も痛くなるような大金である。
 退院の日(11月3日2012)、私は重たい大金に打ちひしがれた顔で4階病室から窓の下の駐車場を見ていた。
病院の玄関に向かって歩く1人の女性を見つけた。
ジーパンの似合う中年女性の素晴らしい姿だった。
服装雑誌に見るようなジーパンの似合う足の長い女性であった。
それは着物姿の似合う綺麗な舞子はんの姿を見た時の感動に近かかった。
薄青色の着古したようなジーパンの色だった。
バランスが良い、スタイルがいい。
思わず私の目はその女性の顔に行った。
目を疑った、私の妹であった。
そうか、今までの69年の私の人生で、妹が一人歩く姿を高いところから見下ろして眺めた事がなかった。
 ジーパンの似合う妹に、「月賦で払うように話をつけた」と、誇らしげに告げると、「現金で払おう、アノ男の人がかわいそう、彼の仕事の成績に響きそう」という。
やはり私の妹や、俺と似て親切な人間や。
「なんで、アノ人がかわいそうなんや。
自分の入院費も払えない俺がもっと、かわいそうなんや」。
「現金払いやったら、もっと安うしてもらおう」と、私は元の商売人になっていた。」
よう考えてみると、病院日を値切った人の話を聞いたことがない。
私はやはりフリムンである。
 大阪で商売をしていた頃を思い出した。
集金に行って「もう少し待ってくれ、来月には必ず払うから」と、普通の顔で言われると「そこを何とか、お願いします」とが決まり文句だったが、本当に悲しい顔、かわいそうな顔、困った顔で言われると、「では、来月は必ずお願いします」とお客さんの顔に負けたのであった。
言葉よりも顔が説得力がある、ホンマである。
 妹と一緒に来た嫁はん言わく、「アノ人はあんたに逃げられんように、病院の玄関横にある会計課の受付でうろうろしていたよ」。
ホンマやろうか。
天国帰りの私は妹に助けられて、66万8千円の保釈金で、無事退院できた。
世界中で一番ジーパン姿の似合うのは私の妹である。

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