【小説】私の高校生活Part2(四)
下校。
日が傾き遠くの山へとその姿を隠そうとしていた。
私はそのオレンジがかった陽光に目を細める。
校門周辺には既に多くの生徒がゾロゾロと群れのように動いていた。その群れは校門を出てからの道においても、長くヘビのように連なる列を作っていた。
私もその流れに紛れて家路につく。
多分傍からみれば一塊の集団なのだが、中にいる人間達からすれば、確実な境界線が存在する。
例えば前行く二人と私。その間二メートルほどだが、同じ制服姿出会っても異なる集合だ。さらにその前三人組。彼らと、私の前の二人と私。それぞれは別の集合だ。
同じ高校という集合に含まれていても、それは客観的事実でしかなくて―、中にいる私達からすれば、友達とか教師とか赤の他人とか、そういった集合でしか他人を見られない。
だからなんだと言われれば、確かにそうなのかもしれないが、私にとってそれは孤独を意味する。
私のいる集合の中には私しかいない。周りの集合には複数人いるのに、私のは私だけだ。
今日お昼を一緒にした彼、もとい山田さんが同じ集合に含まれるかと言われれば否だろう。
彼とは、授業でたまたま教科書を貸して、お昼に彼がたまたま友達とご飯を食べないで、たまたま私に声をかけてくれて―。それ以上でもそれ以外でもない。結局あの後は話していない。
それで私と同じ集合にいるかと言われればそんなことはない。まだ私のクラスにいる他の孤独人間達の方が、同じ集合だと言われても違和感がない。
と、赤信号で私は足を止めた。
私の他に5人ほどが青に変わるのを待っていた。
ゾロゾロと連なっていた人のヘビは、途切れ途切れになって、別の小さなヘビができていた。
「えー、嘘だぁ」
「ホントなんだって」
信号待ちする中で、私の目の前すぐに立つ二人。
男女が指を絡めて手を繋いでいた。
夕日を背に私の長い影を踏む二人に、私は少し怒りを覚えた。
ただの嫉妬心だと思う。
三十路にもなって一人も恋人がいたことのない私にとって、その光景は妬むのに十分事足りた。
今どちらかの背を押せば、目の前を走る車に轢かせられる。どうせだったらトラックがいい。
こいつら一緒に逝くのかな。それともどちらか手を離すのかな。
どーなんだろう。
教えてもらおうか。
私はいつの間にか口角を上げていた。それを自覚してはっとすると、視界から二人が消えていた。
はっと心臓が止まり軽く落としていた視線を上らせると、信号が青になっていた。
恋人二人は仲良く手を繋いだまま、私の数歩先を歩いていた。
その姿に胸を撫で下ろし、私も横断歩道の線に足をかけた。
縞々の白線が柔らかに朱色を帯びて、所々小さな輝きを発していた。
さっきまで春に似つかない寒さがあったのだが、今はこころなしか温もりを感じた。
横断歩道を渡った先、フェンスの向う側にある桜はその花びらを散らして、そこを通る人々を祝福しているようだった。
けれど、私の体に降るそれは、痛く、槍のようで、敵意を剥き出しにされていた。
さっきの私の心の中が読まれたようで、私はそいつを思い切り睨みつけた。