蓮華山麓─ブラック職場か?

  営業部希望となったので、今度は営業部長と営業担当常務が会ってくれた。常務というのは社長の義理の弟である。
「あんた、麻雀知っとるかね?」
  常務の質問はそれだけだった。
「へい、多少はできますが」
「ほりゃええわ、しっかりやってちょーよ!」
  それで採用は内定した。
  翌春、営業部に新入社員としてはいったのは私とタガミの二人だった。ただこの年は文部省の指導要領の改定にともなって教科書の全面改訂があった。それにともなって副教材も大幅に改訂することになり、編集作業が忙しいので私もタガミも一年だけ編集部を手伝うよう言われたのだった。
  編集部、いかにも知的な仕事と思っていたが、これが私には全然合ってないことをそれから一年で思い知らされた。私は理数班で中学の数学問題集を作るよういわれたのだが、あとで聞いたら間違いだらけだったそうだ。
  毎日残業だった。追い込みの終盤の頃は、みな夜10時過ぎまで会社の机にはりついていた。たいてい「もう終電がなくなるから、みな帰ろう」とエライ人が言い出して帰ることが多かった。
  今ならすぐブラックといわれそうだが、さすがに新人はみな嫌になっていた。

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