蓮華山麓(38)─十坪の家


  私が描いた図面は、東西四間(約7.2m)、南北二間半(約4.5m)の、畳でいうと20畳つまり10坪の小屋であった。風呂はない。便所は外。ほとんど山小屋。
  それでも水道と電気は引ける。ならば十分な文化生活だ。少なくとも原始生活ではない。暮らせるではないか。
  建築確認、当時そんなものが必要だということは知らなかった。とにかく「自分で自分の家を建てる、地主も許可している、何の不都合があろうか?ない!」という強い思いだけで、工事は始まった。
  まず必要な広さの整地。木を切り地ならしをざっとする。全部手作業。長さを測り直角を出し、バケツとホースで水平を計り、柱が立つところに穴掘って捨てコンを打つ。全部手作業。
  柱がのる独立基礎はコンクリートの沓石。これは市内の松本さんという、コンクリート製品を作っているおじさんから買った。
  材木はどうすればよいか。おやじさまに教わって、諏訪建材という市内の建材店に行った。なにしろ角材を買うのは初めてである。
「あのー角材が欲しいんですが」
プロが利用する店で素人が買い物するのは、勇気が要ることだった。とにかくこちらは何も知らない、いちいち聞いて勉強するしかない。木の種類、規格寸法の種類、呼び方、いろいろな専門用語を「それは何ですか?」と店主に聞いて覚えていった。
  足繁く通ったので、すぐに店の人とは顔なじみになる。自分で家を建てようとしている変わった兄さんだと、面白がってくれる。
  渡る世間に鬼はなしとわかると、度胸がついてくる。ますますやれそうな自信がついてくる。

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