蓮華山麓(17)─俺がいなくても会社は回る
営業部での二年目。この会社の毎年3月、4月は新学期にむけて全国の学校へ教材図書の発送が忙しい。そのため営業部全員が倉庫作業員となって、各学校からうけた注文伝票をみながら図書の数をそろえ荷造りをした。
本は紙である。紙のかたまりは重たい。これはかなりの肉体労働であったが、編集部での頭脳労働のストレスに比べれば屁でもなかった。
その発送作業が終わると、また学校回りの出張旅が始まるのだった。夏の前、どの地方へ行ったか覚えてないが私は犬飼部長と一緒に出張にでた。その頃には会社を辞める腹がきまっていた私は、車での移動中に部長にきりだした。実は辞めるつもりですと。
犬飼部長は人物だった。その時の言葉ははっきりと覚えている。「ええよ、シバちゃん、あんたおらんでも会社は回ってくで」。
会社という組織は、ひとりふたり欠けてもどうということのないようになっている。まして私のようなまだ一人前にもならない若手が欠けても、問題ない。中小企業とはいえ浜島書店はその当時100人弱くらいは社員がいた。
部長の明快な返事に、私はすがすがしい思いさえしたのだ。