蓮華山麓(7)─スズキ荘
静大の合格通知を受け取った後、私は大学の寮に申し込んだ。その方が父親の年収から言っても住宅ローンも残っていたし、安く暮らせるのが良いということで。
ところが審査に通らなかった。わずかに年収が基準を越えてたらしいのだ。その知らせがきてから慌てて母親と下宿探しに静岡へいったが、大学近くの下宿屋はもう全てうまっていて、残りは大学から離れたものだけだった。
しかし、残り物には福があるのである。少なくとも、今から思えば、あのスズキ荘は福だった。
四畳半、台所風呂便所は共同、家賃ひと月9000円、今じゃ破格だが当時でも最安値だ。大家さんは農家、アパートは駿河湾に近い久能山の斜面にあって南にはミカン山が広がっていた。
大学へは坂を下ってまた登るという、サボりやすい環境だった。私がいた頃そこには留年した上級生が3人おり(その後私も仲間に加わったが)、内先輩は一浪二留、福先輩はインドに旅した後留年し中退してしまった。もう一人の福さんは留年したあげく授業料未納で除籍となった。
そういう先輩方に恵まれたスズキ荘の生活だった。