蓮華山麓(3)─鈴鹿山脈の夏
初めて一人で登ったのは二年生の春休みだったか4月だったか、鈴鹿の御在所岳に行った。
通学に履いている運動靴で登っていくと、頂上近くの急斜面に雪が残っていて滑って怖い思いをした。登山靴が欲しいと思った。
その年の夏には鈴鹿の最高峰雨乞岳をめざして、湯の山温泉から武平峠に向かった。しかし私は前夜、興奮と緊張でろくに眠れず武平トンネルについたころには完全にバテた。トンネル内でゲロを吐き、寝転がってしまった。
小一時間もするとスッキリしてなんとか歩ける気がしてきたが、もう雨乞岳を目指す気は失せた。トンネルを滋賀県側に出て、登山道を愛知川源流方面にとった。
これは計画にないコースだったが、当時湯の山温泉では御在所岳周辺の地図が売られていて(手書きの青焼き詳細図だった)、私はこれを見ながら笹薮に分けいった。
炭焼き窯跡もあるような、むかしから人の出入りがしのばれる沢筋をすすむと水量も増えてきて、実に美しい渓流となった。こんなにきれいな場所があるのかと高校生でも感動して、しばらく流れに足をひたし座り込んでいた。最近知ったのだが、近年そこは「鈴鹿の上高地」という札が立っているという。
頂上には達しなかったが十分満足した私は、峠を登り返して朝明渓谷にでてバスで帰った。
鈴鹿山脈といえば、この日のことを思い出す。