親愛なる美紀さんへ④
10月25日 東京
フランスから帰国してすでに2週間経ちました。時差も体調も問題なく、元気にしております。ご心配くださりありがとうございます。美紀さんはお元気でいらっしゃいますか?面白そうなテーマのサロンレッスンを主宰されているのをインスタグラムで拝見しています。
義理の家族といるとアウェイ感があるという美紀さんの率直な気持ちを知って、西洋人は「フレンドリーだから義理の家族とも友達のように付き合える」というイメージがあるものの、義理の家族との関係というのは何かしら妥協やストレスを強いるのだなぁと思いました。またドメストル家に嫁ぐというのはフランスと日本の差のほかに、上流階級という要素が加わってくるのでさらに複雑なのでしょうね。
結婚すると少なからず相手の家の文化と向き合い、ときには葛藤することもあると思いますが、それでも妥協できるところは譲って上手くやっていく。そうして夫の家だけでもない、自分の家だけでもない新しい文化を作っていく気がします。美紀さんがどうしても「理解できなくて、ぐるぐると考えてしまう」ということは自分の考えとは違って葛藤しているということですか?センシティブなお話かもしれませんが、どんなことが理解できないのか教えていただけたら、と思ってしまいます。わかろうとしなくてもいいんだ、という境地に達したのにこんな質問ごめんなさい。でもとても気になります。
私の夫の母との関係はいわゆる日本の「嫁姑」とは違ったかもしれませんが、本当の母娘のよう、というわけでもありませんでした。フランス語にはtutoyer (友達口調)とvouvoyer(尊敬語)がありますが、義母と知り合ったとき私は若かったのでtutoyerしていました。でも義母が亡くなって少し経って考えてみると、tutoyerしつつvouvoyerの距離感は心にあり、特に彼女にとっての孫が産まれると、継承させたい文化や考え方について衝突することもありました。
例えば宗教のこと。「当然カトリック」という考え方と、クリスマスもお正月も祝い、ガレット・デ・ロワを1月に食べて、道端のお地蔵さんに手をあわせる日本の慣習。私たちはどちらかというと宗教を文化や教養として子供たちに伝え、それを選択するかどうかはそれぞれの判断という方法を取りましたが、義母にとってみたらそれは最適ではなかったでしょう。
美紀さんが息子さんたちに「これは日本式で行こう」と思って教育されたことはありますか?日仏カップルが集まるときに、フランス人から日本の教育システム(幼稚園から大学、特にお受験&受験)について批判を受けることがあります。システムには多少難があるかもしれないけれど、日本的な道徳や礼儀についての教育は、日本人が胸を張れるものだと私はいつも必死で言い返しています。
息子さんの18歳に350枚の写真でアルバムを作ったなんて。本当に素晴らしいプレゼントですね。確かに写真がデジタルになってから撮りっぱなしが増えていて、収拾がつかなくなっています。「ある時期の写真が見つからない」とか、「外付けHDDに取ってあったのに見られない」とか冷や汗が出るようなことがいろいろ。時間がかかる作業だからこそお金に代えられない良い贈り物です。私もそうしてあげたかったです。
東京は、朝夕の犬の散歩道で色づいた枯葉が見られるようになりました。こうして週に一回ゆっくりと往復書簡に向き合っていると、その時間だけが止まって心地よく集中ができます。そんな時間がないと、あっという間に今年が終わってしまいそうです。あと2ヶ月ほどの2024年。日々の暮らしを楽しんでいきたいです。
Avec toutes mes amitiés. 友情を込めて。
信子