[ナマリエ] Happily ever after:8話

ナマリエはすっかり気力を失い、地面にへたり込んでしまった。
森に入った後、再び抜け出す道を探そうと歩いたが、いくら歩いても同じ場所をぐるぐるとさまよっているような気分だ。
そんな彼女の様子をフィルモが察したのか、彼は座れそうな空き地が現れると同時に、休憩しようと提案してくれた。

固執する気力もなかったので、ナマリエはただ頷いた。
冷えた空気と海水に濡れた服が肌へ当たり、急激に体温が下がり始め、肌は青白く冷え切っていた
フィルモは心配そうに言った。

『火を焚いた方がいいと思います』

ナマリエは辛うじて頷いた。
動くのもやっとの彼女のために、フィルモは周囲から小枝や落ち葉などを拾ってきてくれた。
少し湿っていて焚き火に適したものではなかったが、周囲が霧に包まれていたので仕方がない。

彼女は革の鞄に入っていた物を全て吐き出した。
船員を救い、受け取ったわずかな食料と短剣、その他雑多なものがあった。
ナマリエはその中から小さな石ころのようなものを一つ手に取った。火打石だった。

『使い方は知っていますか?』
「小さい頃……教わった」

父から。
後ろの言葉を吐き出すことはなかった。ナマリエは震える手で濡れた木の皮を削った。
薄く削って広げてみると、木の中身が脂っこかった。不幸中の幸いだった。

彼女は短剣と火打石を手に取り、木の芯を削るが、手はかじかんでいて火をつけるのは容易ではなかった。
結局、ナマリエの様子を見ていたフィルモが火打石を取り、やっと火をつけることができた。
彼女はその火種を丁寧に育てた。

更に枝と落ち葉を拾ってきて入れていくと、なんとか焚き火のような形になった。
ナマリエはやっとのことで手足を温め、膝を抱え込みながらぼんやりと火を眺めていた。
寒さは少し和らいだが、凍りついた頭の中はそのままであった。考える力も残されていなかった。

フィルモは傍らで荷物や武器の状態を確認していた。
彼がいなければどうなっていたのか想像もしたくない。
ナマリエは再び流れる涙を拭いながら言った。

「ごめんね、フィルモ」
『えっ?』
「あたしが……」

ナマリエは涙で詰まった喉を辛うじて整えた。

「何も対策もせずに、こんなことに巻き込んでしまったわ」
『巻き込むって、契約者と一緒に冒険するのがグランウェポンの宿命ですからね。亡霊だらけの島ではなく、もっと凄い場所へ何度も行きましたよ。ナマリエさんのお父さんはなんというか……自由奔放なところがありましたね。どこへでも探検しに行かないと気が済まなかったんです』

フィルモは意気揚々と語った。ナマリエは焦点の定まらない目で彼を見つめた。

「恨んでないの?その自由奔放さのために、あなたを捨てて行ったでしょ」

フィルモは一拍遅れて答えた。

『捨てたわけではありません。ナマリエさんに僕を託したのです』
「あたしがあなたと契約できるなんて、どうやって知ったの」

フィルモは何も言わずにこちらを見つめた。ナマリエは彼の眼鏡に映る焚き火と、みすぼらしい自分の姿を見つめた。
何もかも、全て台無しに見えた。
なぜあの船に乗ったのか?なぜいつもこんなことが起こるのか?いつからこんなにも全てが苦しくなったのか?理解することは難しかった。

カナリエが病気になった時から、母が亡くなった時から、父が去った時から、ハーフエルフとして生まれた時から……全ての苦痛が果てしなく過去へと続いていた。
それでも、父が去っていなければ、こんなに辛くはなかったと思う。

「母は、父が世界のために戦いへ向かったと言ってたけれど、あたしは信じていない。戦う人が自分の武器を置いていくことができるのかしら?父はただ逃げ出したのよ。母と、あたし達と、うんざりするエルフ達から」

しばらく沈黙していたフィルモは静かに立ち上がり、ナマリエの傍に座った。
彼は首から下げていたペンダントを取り出し、彼女に見せた。ペンダントを開けると、その中には写真があった。

『見えますか?』

フィルモに似た人々が写っていた。彼は微笑みながら話した。

『僕の家族です。冤罪で亡くなりました。もし、このことがなければ、僕が銃を作る工房に入ることはなかったでしょう』
「……」
『この時のことは、今でも僕にとって辛い過去です。でも、その後に銃器開発が好きになった僕の気持ちも確かに本物です。だから、痛みから始まったことは、必ずしも不幸なことばかりではないのです』

フィルモは再びペンダントを胸にしまった。

『あの人が僕を置いていったからこそ、今、ナマリエさんと一緒にいられるのです。僕は良い人に出会うのがどれだけ難しいことかを知っています。そして、ナマリエさんは良い人であることは間違いありません。だから、ナマリエさんと契約したことも、あの人と契約したことも、後悔はしていません』

こんな状況だとは思えないほど、穏やかな声だった。ナマリエは再び流れる涙を拭き取った。
声が震えた。

「あなたはとても優しいのね」
『ナマリエさんもです。本当に良い子に育ちましたね』

フィルモだからこそ言える言葉だった。父親の契約者であった彼は、ナマリエの幼少期を見守ってきた。
フィルモの立場からすれば、しばらく眠っていたある日、その幼い子が自分を起こして新しい契約者になったということだろう。
そう考えると、少し笑みがこぼれた。

「眠たいわ」
『今は眠ってはいけませんよ、ナマリエさん』

フィルモが心配そうに言った。ナマリエは頷いて答えた。
体温が下がっている状態で寝てはダメだ。
彼女は再び膝を引き寄せて、抱きしめた。


ある程度の体力を取り戻したナマリエは、再び立ち上がった。
このまま森の中に閉じ込められているより、今まで来た海岸にでも戻るべきだった。
もしここが島だとしたら、抜け出すには再び船に乗るしかない。

彼女は焚き火を消し、荷物と銃を担いで森の道を歩いた。森はいくら歩いても同じような道に思えた。
どれくらい歩いただろうか、いつしか雪が降り始めた。
小さな雪の結晶がだんだん積雪になり、少しずつ足元に積もり始めた。

ナマリエは凍えそうな耳をフードで覆った。景色が真っ白になり始め、足跡が雪の上に刻まれていく。
乾ききっていない髪の毛が凍りつくような感覚だ。
雪の降る風景には嫌な記憶がある。彼女は機械的に動く足元をぼんやりと見下ろした。

ラグナデアへ移住してから数ヶ月が過ぎた頃のことだ。
ある日の昼下がり、カナリエがいくら呼び掛けても起きなかった。
母を土に葬ってから一年も経たないうちに起きた出来事だった。

恐怖に駆られたナマリエは、意識を失ったカナリエを背負って無我夢中で外に飛び出した。
その日はラグナデアのお祭りの日だった。食堂を除き、ほとんどの店が閉鎖され、休業していた。
診療所も同様で、王国が運営する無料診療所は開いていたが、そこも祭日ということもあり、人で溢れていた。

黒き龍を倒して取り戻した平和を記念して、人々は盛り上がっていた。
ナマリエは医者がいる場所を探すため、必死に走り回った。
平和を祝うかのように白い雪が降った。涙が凍りつくほど寒い日だった。

これ以上行く場所がなくなり、結局、医療院までたどり着いた。
その日、帰宅途中のヨハンに出会えたのは、まさに幸運だ。
エルフィンは目立った症状や痛みが出にくい。
診断できる医者も少なく、病気が原因で苦しむことが多い。

意識はあっても周囲を認識できない、あるいは睡眠時間が極端に長い、または短い失神をただの居眠りだと思い込んでいたり。
そうやって意識を失うことが増え、やがて眠るように死んでしまうのだ。嫌になるほどよく知っていた。
母が、そうやって死んだからだ。

カナリエは誰から見ても母にそっくりな子だった。
白い肌に、華奢な肩の下には、太陽のような金髪が波打っていた。
愛らしく輝く瞳は好奇心旺盛で、読書と空想が大好きだった。
母の幼少期をそのまま写し取ったかのようで、まさか母の病気まで受け継ぐことになるとは夢にも思わなかった。

純血種だけがかかる病気だと言われていたが、全て嘘だった。
こんなことなら、なぜハーフエルフとして生まれたのか。
半端者だからとエルフからも蔑まれてきたのに、健康にも恵まれないとは。

母は一体なぜ、父のような人と結婚したの。
名だたる小説家なのに。一生涯、幸せな話ばかり書いてたくせに。
せっかく結婚したのに騎士様から見捨てられ、不治の病にかかって死ぬお姫様なんて。
本物の恋愛小説だったら、抗議の手紙が何千通も届いていた結末だろう。

母は馬鹿だ。あたしは絶対に母のようには生きない。永遠の愛なんてこの世にあるわけがない。
ナマリエは歩みを止めた。手足が凍りつき、これ以上歩くことができなかった。ふと空を見上げた。
説明のしようのない光が、空の上で幕のように広がっていた。天の川ではなかった。
それよりもはるかに近く、輝かしい、巨大な光の流れだった。ナマリエはぼんやりとその光の群れを眺めていた。

「虹……?」
「オーロラよ」

ナマリエは驚いて振り返った。
長い金髪を垂らしたエルフが、彼女を見つめていた。懐かしすぎて涙が出そうになる。
ナマリエはぼんやりと口を開いた。

「……お母さん」
「まだ気が済まないの?」

母は困ったような顔で微笑みかけてきた。
ナマリエは思わず一歩後ろに下がった。

「お母さんは、どうしてここにいるの?」
「何を言っているの?夢でも見たのかしら?」
「……夢?」
「家に入りましょう。こんな寒いところにいたら風邪をひいてしまうわ」

母が手を差し伸べた。ナマリエは茫然とその手を見下ろした。
母の背後には、見覚えのある風景が広がっていた。
一年前に出て行った、あの家だった。


到着した島は、記憶していたよりもずっと濃い霧に包まれていた。
空気の流れから感じる圧迫感が、あの時とは違っていた。

ルドミラは記憶にある場所に船を停泊させ、島の中へと入った。ナマリエの痕跡は見当たらなかった。
たびたび出くわす亡霊を一体ずつ倒しながら、一歩を踏み出すたびに後悔が押し寄せてくる。

なぜ突然、銃を持って現れた時、不思議に思わなかったのか。
なぜ海の話を持ち出した時、疑わなかったのか。以前の自分ならあり得ないことだ。
考えたくなかったからだ。残された時間が少ないという理由で、余生を安穏と過ごそうとした。
生きてきたのだからそれでいい、という言い訳をしながら。

島には無事に辿り着いたのだろうか。島に引き寄せられる途中で座礁する船も多かった。
もし島に辿り着けなかったとしたら、辿り着いたものの、既に亡霊に襲われた後だとしたら、あるいはあの魔女の手に落ちた後だとしたら……。

『おもしろいお客さんが来たわね?』

聞き覚えのある声が聞こえた。
ルドミラはしばらくその場に立ち止まり、深呼吸をした。胸が締め付けられるほど懐かしい声だった。
しかし、本物であるはずがない。
ゆっくりと後ろを振り返った。白く立ち込める霧の向こうに、人のシルエットが見えた。

「ローレライ」
『その名前で呼ばなくてもいいのに』

愛する人の姿で現れるという霧の魔女。
ルドミラは昔、彼女の幻覚を見抜いていた。今、再び惑わされたということは、二つのうちの一つを意味する。
相手が強くなったか、ルドミラが弱くなったのか。あるいはその両方かだ。

どこからか低い笑い声が聞こえた。ルドミラは銃を握った手に力を込めた。
笑い声が風のように散っていった。目の前の霧が愛らしく笑った。

『久しぶりね、ルドミラ』


「ナマリエ、銃をこちらによこしなさい」

家の中に入ると、母が手を差し出した。ナマリエは、ペンを支える指にたこができた手を見つめた。
慣れ親しんだ母の手だ。

「いいえ、あたしが持っているわ」
「家の中で銃を持っていたら危ないわよ」

母が再び優しく言った。腕の中のフィルモは全く反応しなかった。
フィルモと契約したことも、全て夢だったのだろうか。
それでもフィルモを手放したくはなかった。ナマリエは抱えていた銃を背中に回した。

「それはグランウェポンなんだから、私では使えないわ」

母は仕方ないというようにため息をついた。

「なら気をつけて扱わないと。お父さんのものだから」

どうせ帰ってこない人を、なぜそんなに気遣うのか。
ナマリエは溢れそうになる本心を喉の奥に押し込めた。母を悲しませたくない。
父の話は、いつも話さない方が良かった。

彼女は家の景色を見渡した。全てが記憶の中にあるままだった。
ふと、鏡に映った自分の姿が目に留まった。十四歳なのか、十五歳なのかわからない姿だ。

母は居間の窓の下に設置された机に近づき、座った。
いつものように紙を広げ、インクの染み込んだペン先で空虚な物語を紡ぎ出すのだろう。
絵にも描けるほどよく知っている景色だった。

「カナリエは?」
「部屋で寝ているわ」

ナマリエはカナリエの部屋のドアを開けてみた。ベッドの上には布団が小さく丸く盛り上がっていた。背後から母の声が聞こえる。

「寝ている妹を起こしちゃダメよ」
「なんで寝てるだけなの、病気じゃないの?」
「病気だなんて。本を読んでいたから疲れて寝ちゃったのよ」
「それでも診てもらいなさいよ。病気かもしれないじゃない」

その言葉に、母が心配そうな顔で振り返った。

「本当に悪い夢でも見たの?」

無言で立ち尽くしているナマリエに、母が近づいてきた。
幼い頃、雷の音に驚いて布団を被り頭だけ飛び出してた時、母はいつも彼女を抱きしめ、何度も大丈夫だと慰めてくれた。
あの時と同じ温もりが、ナマリエを包み込んだ。

「大丈夫よ。もう忘れてしまいなさい。ただの悪夢よ」

本当に全てが悪夢だったのだろうか。そう考えると、思い出せない部分も多い。
生々しい夢から覚めた時のような、経験した感情だけが残り、詳細な内容は思い出せないような感覚だ。
しかし、恐ろしいという気持ちだけは残っているので、ただの夢だったという言葉に涙が出るほど安心できた。

ナマリエは細い母の体を両腕で抱きしめた。そして、懐かしい家の様子を一つ一つ目に焼き付けた。
二度と離れたくない風景だった。


ルドミラは持っていた銃を肩に掛けた。
相手の姿は記憶の中の姿と瓜二つで、むしろ実感が湧かなかった。彼女は軽くため息をついた。

「正直、もう会いたくなかったんだけどねえ。でも、くだらない魔女のせいで、どうしても放っておけなかったのさ」
『ふーん、魔女なんていないけどね』

とても厚かましい返事だった。ルドミラは目を細めた。

「最後に会った時、命さえ助けてくれれば、もう二度と船を誘い出すことはしない、って言ってなかったかねえ?」

ローレライは薄ら笑いを浮かべた。

『約束なんて、あなた達の概念よ。私は今この瞬間を生きているだけ。まだ訪れていない未来のことを先に決めるなんて、何の意味があるのかしら?』
「相変わらず、言い訳がましいわねえ」

だからあの時、殺そうと言ったじゃない。
かすかな声が再び意識の中に忍び込んだ。ルドミラは下唇を噛んだ。古龍の興奮した心臓の音が耳元で鳴り響くようだった。
ルドミラが意識を取り戻す間、ローレライが首を傾げて言った。

『でも、おかしいわね。そんなに私が気に入らないのに、どうして以前のようにすぐに実力行使しないのかしら?私と会話がしたいの?それとも……』

一瞬にして姿を消したローレライが、ルドミラの目の前に姿を現した。彼女の手がルドミラの脇腹に触れた。

『戦えないのかしら?』

ルドミラは軽く飛び跳ね、ローレライとの距離を広げた。歓喜にも似た笑い声が耳に響いた。

『こんな日が来るなんて!ルドミラが!あのルドミラが!』

ローレライが指をさして笑った。よく知っている人物の姿でそうされるのを見ていると、愉快ではない。
ローレライは笑いすぎて溢れた涙を、長い指で拭き取った。

『龍の爪痕が見えるわね。黒き龍が姿を消したと思ったら、眠ったのではなくあなたが殺したのね?おめでとう!世界を救ったわね!たとえあなたの命はゴミとなったにしても!』

しばらく笑っていたローレライが、今度はとても悲痛な声を上げた。

『可哀想でもあるわ。昔だったらこんな霧なんて、一発の銃弾で全て吹き飛ばしていたのにね』

まるで懐かしく昔を思い出すかのような口調だった。
同じ過去を思い出したかのように、銃から振動が伝わってきた。

ルドミラは目を閉じた。もう二度とあの時のような力を出すことはできない。
もはや彼女の身体が、時間が、それを許さない。
だが、もし残りの力を全て燃やし尽くせば。

古龍の存在は、ルドミラの命を無駄なく利用してくれるだろう。
ローレライを始末し、島の亡霊を全て退ければ、少女が一人逃げ出す隙くらいは作れるか。
あとは救助船があの子を見つけ出すだけだ。

無口なルドミラを見ながら、ローレライは優しく語りかけた。

『私は未来を信じていないけど、過去は覚えているわ。あなたが私の命を救ってくれた借りがあるから、一つだけ話を聞いてあげる。戦うこともできない身体で何をしに来たの?私に会いたいから?』
「探し物があるからさ」
『それが何であれ、私が無傷で帰してやると思う?』

ローレライがからかうように言った。ルドミラはいつものように笑わなかった。
しばらく鼻歌を歌っていたローレライは、一度周囲を見渡すと、感嘆とともに言った。

『ああ、あなたが探しているのは、銃を持って私の島へ降り立った少女のこと?』

ルドミラは閉じていた目を開いた。
ナマリエが生きて島へ辿り着いたことを確認した瞬間、指はすでに引き金を引く準備ができていた。

「返してもらう」
『そんな力が残されているのかしら?』
「『私』に残された時間がいくらばかりだろうと、お前の歴史を終わらせるには十分だ」

まるで氷のような声だった。
ルドミラが一歩を踏み出した。彼女の周囲に気流が集まり始めた。
海岸の砂が吹き飛ばされ、霧が揺れる。嵐の兆候であった。
慌てるローレライが叫んだ。

『ちょっと待ちなさい!提案があるわ!』

四方に舞い散る短い黒髪が、かすかに銀色に染まり始めた。
ローレライは、ルドミラが完全に力を引き出す前に慌てて口を開いた。

『あなたはこの島に残りなさい。そうすれば、あの少女を無事に陸地まで送り届けてあげる!』
「約束など意味がないって、さっきお前さんが言ってたじゃないか?」
『私が守るつもりなら意味があるわよ!よく考えてみなさい、ルドミラ。今ここで力を使い切ったら、あなたも死んでしまうのに、あの子が無事にこの島を抜け出せるかしら?水も、食料も、航海術もない少女が?あなたと私が両方とも死んで、誰かがこの島にたどり着いたとしても、あの子はすでに死体になっているわよ』

ルドミラは答えなかった。ローレライは手を握りしめ、笑った。

『どうせ死ぬ気でしょう?あなたが私の傍にいてくれれば、あの子は自分の日常に戻れるわよ。どうかしら、良い提案でしょう?』