天竜川を越えれば、そこには素晴らしいフットボール専用スタジアムが待ち受けていた(JAPAN RUGBY LEAGUE ONE Div.1 第5節・静岡ブルーレヴズ対東京サントリーサンゴリアス)
天竜川と、8年の月日を越えて
天竜川。古よりあばれ天竜としてその名を馳せてきた、遠州――静岡県西部に生きる民では、知らぬ者はいないであろう大河。
サッカー的に言えば遥かJリーグ創設以前、JSL(日本サッカーリーグ)時代。この川を挟んで本田技研工業サッカー部(現Honda FC)とヤマハ発動機サッカー部(現ジュビロ磐田)が、「天竜川決戦」というおそらく日本で原初のダービーマッチを繰り広げたことでも一部では知られている。
今回筆者は、この天竜川を越えてヤマハスタジアム――サッカー的に言えばジュビロ磐田の根城(今なお天皇杯では天竜川決戦が実現することもある。過去2例あり。なおHonda FCの2戦2敗である……)――へと向かった。
しかし目的はサッカーではない。2015年ワールドカップでの南アフリカ戦勝利以降、2度のワールドカップを経て興味のあった、ラグビーの公式戦を観に行ったのである(踏ん切りがつかずになかなか観に行けなかったのはご愛嬌……)。
流石に8年の月日は長く、当時のメイン選手のほとんどは引退し(リーチ・マイケルは凄いと思う)、ラグビーの社会人リーグもトップリーグからリーグワンに改組されてしまった。そして磐田に本拠地を置くチームも「ヤマハ発動機ジュビロ」から「静岡ブルーレヴズ」へと発展的変化を遂げている。とはいえ、実際に観に行くのは初めてのこと。私は興味深くJR御厨駅を降りた。
ラグビーといえば……
筆者とラグビーの関係性でいうと、やはりどうしても断片的な認知にとどまってしまう。少し昔だと「怪我した時のヤカンと、キックの時の盛り土」なんてイメージがあったほどだ(当然現在ではそんなことはなく、キックティーもあれば応急処置もある)。
後はまあスクラムが危ないとか、生身でぶつかって危ないとか(だから危険なプレーには制裁があるんだろうけど)、よくゲームが止まるゲームだ(アメフトほどではないにせよ)という印象がある。そして、アディショナルタイムはないがサヨナラゲームは起こり得る(終了の合図後、プレーが止まるまでは戦える)というのも印象に根強いだろうか。ついでに、前へ投げたら反則になるらしい、という認識も付け加えておこう。
ともかく。筆者にとってラグビーは現在に至るまで「画面の向こうの競技」だった。その程度の知識で現地観戦に向かうなんて、と思われるかもしれない。だが最初は誰もが素人、覚えていたところで机上の生兵法である。だから多分、はじめの一歩はそのくらいでいいのかもしれない。
いざ行かん、ヤマハスタジアム
さて、話を本筋に戻そう。御厨駅からおおよそ20分近くも歩くと、ようやくヤマハスタジアムへとたどり着く。少々遠い気もするが、まあ運動の範囲内だ。周囲にはもちろんヤマハの施設が多く、否が応でもここがヤマハ発動機の根城であることを痛感させられた。
開場前だったのでわずかに並んだ後、開門に合わせて入場する。スタジアム前には広場があり、イベントやグッズ、スタグルの販売があった。この日はいわゆるZ世代、U-29向けのイベントがあり、アーティストなども呼んでいたようだ。なお筆者は30代ゆえに刺さらず、ラグビーを観に来たのでその辺りの感想を述べることはできない。悪しからず。
ともかく筆者はスタグルとしてラーメンとおにぎりを喰らい(ダイエッターとしてはあるまじき行為)、日常使いできる程度の公式グッズを購入してスタジアムへと入場、事前購入していた指定席に着座した。すると。
まあ見事に立派な光景が広がっているではないか。流石現在はラグビーとの共用であるとはいえ、かつてはジュビロ磐田の、サッカー専用スタジアムだっただけはある(昔からラグビー共用だったら申し訳ない限り……)。陸上トラックがないスタジアムは、やはり良いものだと、改めて実感した。
そこからは少々時間があったので、まあ寒い中ではあるのだがマッチデープログラムを読んだり、グッズ売り場で配布されてたNumber(スポーツ専門誌的なもの)のリーグワン特集号みたいな冊子を読んだり、事前練習の風景を眺めたりしつつ時を過ごした。無論少しずつ人も入って来て雰囲気が高まり、メンバー発表や応援練習なども経て、徐々にスタジアムは戦場へと変わっていく。私も素人ながらにその空気を楽しんでいた。あと、選手、マジでデカいっすね(重要)。
さあ、肝心の試合は?
さて、いかにスタジアムの雰囲気とか歴史とか交通の便とかを強弁したところで、中身の試合が伴っていなければ話はご破産である。なぜなら筆者は、ラグビーを観に来たからだ。てな訳で、結論から申し上げよう。
結果。25-29。静岡ブルーレヴズは敗北した。
と、だけ書けば簡単な話ではある。だがしかし、静岡ブルーレヴズは健闘した。2023年ワールドカップ日本代表にも名を連ねた選手を保有するタレント集団相手に、見事な戦いぶりを繰り広げた。特に前半はスクラムで優位に立ち、相手の反則を誘ったり、逆に攻撃権を奪い取ったりまでしていた。前半を終わって15-5。風でキックが入り難いとはいえ、2トライ差を付けて優位に立っていた。このままなにもかもが上手く行けば。そう思わせるだけの流れはあった。
しかし相手は強豪。そして重ねて言うがタレント集団。後半次々に出て来た交代メンバーを前にいつしか押され始め、スクラムでも勝てなくなり、最後の最後、残り2分ぐらいで遂に逆転のトライを決められてしまった。
後がなくなった静岡ブルーレヴズは声援の中必死に攻撃権を奪わんとしたものの、結局無情の合図が鳴り響き、ボールが外へと蹴り出されて試合は終わりを告げてしまった。
後数分粘れれば。後1トライ入れていれば。こう書けば、簡単な話ではある。しかしながら、この後少しがどれだけ遠く、厳しいものか。素人ながらに推し量っても、想像がついてしまう。そのために使われる体力、攻撃力、守備力は、とてつもないものになってしまうと。すなわち、両者の差は無いように見えて、確実に存在するのだ。だが、いつの日か埋められる日が来て欲しい。歓喜の日が来て欲しい。そう思わずにはいられなかった。
それで、感想は?
そろそろ長文になってきたので目処を付けたいところだが、最後に感想だけは記したい。総評すると、「また来てみたい」というのが最大の印象だった。
スタジアムは6000人以上を迎え入れても混雑に感じなかった(バスケットの時は4000人でそれなりに混雑を感じてしまった)し、なにより高さ的にも観やすいスタジアムだった。
試合も最後惜しくも敗れてしまったものの、山あり谷ありの好ゲームだった。正直に言えば次は勝利を見たいと実際に思ったほどである。
最後、スタッフ(ボランティアの方も含むのだろうか)の方々が掲げるフラッグに見送られながら、そんなふうに感じつつ、また御厨駅へと戻っていったのでした。
ただ……これからHonda FCのシーズンも始まるし、仕事との折り合いも考えるとラグビー観られるのは本当に来シーズンになってしまいそうな予感がしているのでした……。終われ。
ビギナースポーツ観戦者が天竜川を越えた話・完