カブト虫のSOS?
娘が幼稚園の頃、主人にカブト虫のつがいを買ってもらい嬉しそうに持って帰ってきました。名前はオスとメスです。
虫が苦手な私は「お世話しないよ~」と宣言しておきました。
以前は金魚を飼って、生き物を扱うのは大変だと分かっていました。
娘は案の定1週間もしないうちに飽きて放置。
主人が仕事から帰るとエサの取り換えなどやっていましたが
連日帰りが遅いとやはり私がお世話しないといけません。
カブト虫の寿命は短く、やがて先にメスが死んでしまいました。
マンション内ある緑地に主人と娘がメスのお墓を作っているのを5階のベランダから私は見ていました。
その後すぐにオスも死んでしまうだろうと思っていましたが、なかなかその気配がありませんでした。
ある日、洗濯を干しながら虫かごの中で死んでいくのが可哀そうに思いフタを開けてベランダに出しておきました。
昼過ぎに洗濯を取り込むとオスは居なくなっていました。
主人に「逃げた」と言うと
「そうか」とだけ。
もうそれでカブト虫の記憶は消えてしまうはずでした。
虫は嫌いだし、多分一生思い出すこともなかったでしょう。
しかし、その夜寝ていると「ギャッギャッギャッ」と小鳥が苦しんでいるような鳴き声が聞こえました。
主人も起きて、二人でベランダに出ると「ギャッギャッ」と聞こえます。
「鳥・・・いや、オスか?」と主人はパジャマのまま外に出て行きました。
ベランダの5階まで聞こえる大きな鳴き声です。
「ギャッギャッギャッ」とまるで助けを求めるような声。
わたしは絶対オスだと思いました。
自分で逃がしたくせに
「お父さん早く助けてやって」と祈っていました。
暫くすると鳴き声が止んで、主人が戻ってくると
その手の中にはオスがいました。
「街灯の下で猫に虐められていたよ」
「あんな声が出るの? 悲鳴に聞こえたわ」
再びオスはかごに戻ってエサのぜりーにしがみ付いていましたが
数日後にはメスのお墓の隣に埋葬されて
虫嫌いの私の記憶にカブト虫のオスは刻まれたのでした。