【小説9】勘違い女神の弊害(異世界転生したオレはスキル<コピペ>で人生を謳歌する)
9 更に事件だぜ
朝、逃げないって言ってんのに、俺は腰ひもを付けられて冒険者の青年に引っ張られてる。
〔シンジラレナイ〕とイブキが日本語で言った。
だよな、これは虐待だぜ。
冒険者たちはガウロの正体を知っているのだろうか。
もし加担しているとしたら、この5人も許せない。
「ごめんな。」と言いつつ紐を握ってるのは冒険者のカイン。
再び幌馬車に乗せられる。
さらに事件は続く。翌日の早朝に悲劇は起こった。
前夜は野宿をしたのだ。
ここから先に街があるらしいが────
従者 「祭りがあって宿の予約が取れませんでした。」
それで、街道に近い森の中の木々が伐採されている場所に陣取った。
街に近いためこの辺りは魔物もあまり出ない。
それで皆気が弛んでいたんだろう。
朝起きた俺とカインは離れた場所に行き、2人揃って立ションをしていた。
すると焚火をしていた辺りが騒がしい。
カインは持っていた紐を手放し「何かあったようだ、ここでじっと隠れてるんだよ。」
俺を茂みに押し込み、隠れながら戻っていった。
<透明化>してカインを追う。元居た場所は悲惨な事になっていた。
冒険者4人とガウロの従者も倒れて動かない。
盗賊の頭とその相棒らしき女がふんぞり返って立っている。
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ゴードン<盗賊>男
職業レベル 264
属性 基礎 火
特性スキル *奇襲 リッパー
シークレットスキル<xxx>
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ロキシー<シーフ>女
職業レベル 198
属性 基礎 水
特性スキル *変貌 盗み
シークレットスキル<xxx>
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「GR凶悪団だ、警備隊を・・・」カインはその場を離れていった。
奇襲をかけられたのだろうか?簡単にAクラス冒険者PTがやられるなんて。
シークレットスキルが凶悪なのかもしれない。
恐ろしく手慣れた凶悪コンビだ。俺はただオロオロした。
少し離れた所でイブキは縛られて転がされている。
ロキシーが叫んだ。
「坊ちゃんがいないよーー。探し出せ!!ー 見つけないとお前ら殺すよ!」
俺とイブキがいつからか盗賊団に狙われていたのか。
手下どもは四方に散らばっていき、イブキの周りに賊はいない。
俺はイブキに近寄り<睡眠>をかけログインした。
「おかえりなさイ。少女縛ル 何故?」
「盗賊に襲われたんだ。」イブキの縄を解く。(逃げようか?)
いや、冒険者に生存者がいるかもしれない、やはり戻ろう。
便箋と万年筆を出して〔ここは安全。大丈夫。〕と、へたくそな日本語で書き、コアにイブキを[敵]じゃないから世話するよう命令し、盗賊団の所に戻った。
「まだあるだろう? ああん 命が惜しくねぇのかよぉ!」
地面には亜空間収納から出されたガウロの荷物が散らばって
ガウロは所々ゴードンに剣で突かれて出血している。
「これだけです! 信じてくださいよぉぉ!」
「そんな荷物より坊やだよ~ どこに隠したんだよ!」
ロキシーがガウロをガシガシ蹴り飛ばし、ガウロは悲鳴を上げた。
「ひぃぃぃ知りません、きっと逃げたんだ。もう許してくださいよ~」
ゴードンが「ああそうかい、じゃぁもうお前いらねぇ。」と言うや否や
ドサッとガウロの首が落ちた。
これがこの世界・・・・・あまりの衝撃に身震いした。
ガウロ達も悪党だったけど、同じくこんな奴ら生かしておいてはダメだ。
どうする? <バインド><気絶> いや眠らせる?
悩んだ結果俺は茂みから<超猛毒>を唱え、様子を見る。
極悪人2人が倒れたので俺は飛び出して、ゴードンの剣を取りあげた。
(止めを刺すんだ。殺せ・・・・・)
俺は殺せなかった。青紫に腫れ上がった顔、口から泡を吹いてる。
手下が気づかない限り2人は間もなく死ぬだろう。冒険者、従者達も息絶えていた。
地面に散らばったガウロの荷物を収納してカインを追った。
<レーダー>で調べると道に出た所で3人争っているのを探知した。
カインかもしれないと思い急ぐと新たに4人参戦を探知。
味方だろうか。最後は2人消えて5人残った。
現場に到着し、木の陰から覗くとカインと冒険者らしい4人がいた。
<コピー>でステータスを見ると B級冒険者のようだ。
リーダー格の男が「よっしゃ!任せろ!」とカインが止めるのも聞かず駆け出していく。
ゴードンとロキシーの反応は・・・まだ生きている。
(どうしよう)
そう思った時、ドクンドクンとレベルが上がったのを感じた。
あの二人が死んだ、俺がやった。俺は人を殺したんだ。
走り去るカインの背を見送る。
木陰に座ると盗賊の2人が血溜まりの中で死んでいるのが見えて何度も吐いた。
ガウロ達を始末してやると息巻いてたクセに俺は結局 ≪死≫ が怖い。
ボスが消えたなら、あのB級の4人でも多分大丈夫だろう。
ログインしたとたんに俺は芝生に倒れ込んだ。
***
閑話 ワイルナー伯爵家
前代未聞の騒ぎになっていた。ダンジョンが消失し宝物庫がカラッポだ。
ロスはシェルの死を翌日確認に行った。
<バインド>と共に、ごく微量の<毒>も流しておいた。
直接手をかけてもよかったが、主人からの命令はシェルの自然死。
あの意気地なしが奥に進むとは考えられない。
体が衰弱して翌日には入口付近で死亡しているだろうと考えていた。
ダンジョン入口の岩を砕くと、入り口は消えていた。
ダンジョン自体が消失していたのだ。
ダンジョンと共にシェルも消失したとロスは理解した。
王都から帰宅したケビン ワイルナー伯爵は驚いた。
まず、管理していたダンジョンが消えた。国に報告せねばならない。
邪魔なだけのダンジョン、シェルと共に消えたらしいがどうでもよかった。
次に宝物庫がカラッポ。
最初妻のマリアンヌを疑った。
散財癖があり王都で生活させられない馬鹿な女。
しかし妻は犯人では無いだろう。冷静に考えれば馬鹿には無理な仕事だ。
そして疑われたのが執事のロス。
彼のスキルを持ってすれば至極簡単な事だ。
ロスは先代から仕え、冷酷であるが忠誠心の厚い男だ。彼の筈がない。
腕の良い盗賊が侵入したのだろう。大した損害ではない。
だが、1点だけ二度と手に入らない ≪家宝≫ があった。
残念でたまらずロスに怒りが湧く。万能なロスも老いて鈍ったか。
GR凶悪団が近辺で見かけられたと報告があった。
きっとヤツらに違いない。そう伯爵は理解した。
チネットは顔には出さず恐れていた。
シェルはロス執事に間違いなく殺された。
決して誰にも言えない。いえば自分が殺される。
シェルの亡霊が彷徨っている。部屋にあったものが無くなっている。
片付けた物の位置が違っている。
夜中にシェルの姿を見かけたと警備の騎士が言っている。
昼間も見かけたがすぐ消えたとメイド仲間が不思議がっている。
街でシェルそっくりな少年を見かけたと下女達が噂している。
ロスとシェルの亡霊に怯えながら、チネットは無表情を貫くのだった。
実はうっかり、いろんな場所でシェルは目撃されていた。
部屋の置物の配置が違っているのはクロが跳ね回って、位置ずれを起こしているのをチネットは知らない。