【昔話SF】 四人の音楽家

ああ、頭が痛い。

いえいえ、いつものことなので、気にしないでいただきたい。

ええと、私が話すのは、とある四人の音楽家たちの話です。

彼らは、有名だったのですが、なぜだか、無名にもなるのですよ。

いかんせん、私も伝聞でしか知らなくてですね。

風の噂というやつです。

まあ、話半分で聞いていただきたい。

四人の音楽家がいたらしいのですがね。

この四人の音楽家は、どうがんばっても、一人の歌姫に勝てないのです。

そう、どうがんばっても。

というのもですね、四人の音楽家は、いささか虚栄心があったのですよ。

つまりは、我が強かったともいえます。

ですがね、それは非常にいいことでして。

我が強いということは、それだけ向上心もあるのですよ。

ただ、感情的になりすぎるところがありまして…。

ああ、すみません。

どうも、酒で頭が朦朧としていましてね。

あるところに姫がいましてね。

こいつが、まあ、やけに口の悪い姫で。

けっこうなやつらが、嫌っていたのですよ。

なんだ、傲慢なこの姫は。

断頭台送りにしてやると、息まく人間もいましたねえ。

まあ、殺せはしないのですがね。

なにせ、革命が起きるほど、民は税に苦しんでませんでしたから。

ああ、すみません。

つづきですね、はいはい。

それで、その傲慢な姫は音楽が好きだったのですよ。

ですがねえ、姫は歌が下手で下手で、聴けたものでもなかったのです。

しかたなく、姫は音楽を所望したわけです。

多くの音楽家たちが、姫に音楽を聴いてほしいと城にやって来ました。

そこには、本当に多くの人間がいました。

有名無名、関係なく、数多くの人間たちが、犇めきあう城のなかで、姫は言います。

御託はいい。さっさと、音楽を演奏しなさい。

いやあ、傲慢だ。非常に傲慢。

なぜ、革命にならないのか、私はいまだにわかりません。

まあ、数多くの音楽家たちのなかで、四人が選ばれました。

四人とも、大喜びです。だって、彼らは無名でしたから。

ところがねえ、姫はとある歌姫の歌にご執心しておりまして。

四人の音楽家たちをほっぽり出して、その歌姫の歌に夢中なのですよ。

まあ、四人の音楽家たちは、その歌姫に嫉妬しますねえ。

それはそうです。

プライドが傷つけられたら、だれだって、そうなる。

四人の音楽家たちは、とにかく研鑽を積みました。

だれからも認められずとも、姫にだけは認められたい。

いやいや、業が深い。

ところが、あるとき四人の音楽家たちは、なぜ歌姫だけが優先されるのかを知ります。

歌姫がね、努力家だったのですよ。

あの歌姫は、本当に歌が好きでして。

なのに声に劣等感を持っていたのです。

四人の音楽家たちは、不思議に思います。

どうして、姫に選ばれたのかが、まるでわからないのです。

そうして、月日は流れていきます。

あるとき、姫は四人の音楽家たちを城に呼びました。

姫は言います。

私は耳が良い。

どんなきれいな音楽を聴いても、同じ音にしか聞こえないことがある。

声に個性がないのだ。

特に、有名とされている人間の声を聞いても、私は同じようにしか聞こえない。

私は自分自身の声をもたない。

私の声には個性がないのだ。

高かったり、低かったり、本当にいろいろで。

あなたたちの声はとても個性的だ。

きっと、あなたたちは自分の声が嫌いなのだろう。

それでも、音楽をしている。

私が歌姫の歌ばかり聴いていても。

それでも、あなたたちは、研鑽を積みつづけた。

さあ、私にその成果を聞かせてくれ。

待っていた。

あなたたち四人が大成するのを待っていた。

あなたたちは、少し人情家すぎるところがある。

だが、それを最後まで捨てなかった。

私に歌を聴かせてやりたい。

私がよろこぶ姿が見たい。

さあ、私に音楽を聴かせろ。

今までの研鑽のすべてを私にぶつけろ。

生半可な歌には興味がない。

さあ、私に歌を聴かせろ。

今までのすべてをぶつけてこい。

これを聴いた音楽家たちは、自身の勘違いを大いに恥じて、さらなる研鑽を積み。

もう、名前を出すだけで、だれにでも知られる存在となったそうです。

ところが、おかしなことに。

彼らは有名なのですが、無名だったりするんですよね。

いやー、おかしな話もあるものです。

なにせ、昔の話ですからね。

きっと、嘘も大いに入っているのでしょう。

人は話を盛りますから。

さてと、ああ、一巡しましたか。

では、最初にもどって。

夜はまだまだこれからです。

けど、ちょっと酒を飲むのはやめておきますね。

頭が痛くてねえ。

これを機に酒でも控えましょうかね。