【インスタントフィクション】 見守りたい
「元気ないなあ。大丈夫かな」
「大丈夫、大丈夫。ぼくらは見守るのが仕事だから」
「そうだけどさあ。なんにもできないのって、つらいよね」
「なんもしてないわけないじゃん。存在することに意味があるんだよ」
「いつもいつも顔をあわせてるけど、こっちからはなしかけられないしね」
「いやいや、おはなししちゃったら、いっしょに遊ぶときに困るでしょ」
「ちゃんと学校行って、お勉強して、いつもにこにこしてるけど、つらいことないかなあ」
「学校は勉強するところでしょ。なら、つらくて当たり前。子供の仕事は勉強なんだから」
「動けないのがつらい」
「え、動けないの」
「ちょっと待って。きみは動けるの」
「うん」
そういって、とことこ歩きはじめた。
「嘘でしょ」
「練習すれば、きみにもできるよ」
「できるかなあ」
「まだまだ時間あるし、やってみよう」
「そうだね。がんばってみる!」
「ただいまー」
「おかえり」
「お母さん。私のぬいぐるみ、動かした?」