見出し画像

タイムマシン

「ついにタイムマシンが完成しましたね博士」
「これで未来を見ることができるのですね」

助手は飛び跳ねながら嬉しそうに言う。

「いや これも失敗じゃろう」

博士は肩を落とし残念そうに言う。

2人の目の前には様々な装置が取り付けられた自転車がある。
いろんな形の装置が複雑な配線で繋がれている。
知らない人が見てもタイムマシンとはわからないかもしれない。

博士は稀代の天才だった。
もっともタイムマシン発明に近い男として長年持て囃されてきた。

しかし、いかに天才でもタイムマシンというのは簡単に作れるものではなかった。
次元の壁に穴を開け、次元の道なき道を進む必要がある。
さらには座標の特定と固定が必要であり、それには膨大な演算とエネルギーが必要だ。

博士はそれらの課題に真摯に打ち込んだ。
試行錯誤を繰り返し、実験に明け暮れた。

そんな博士の口癖は「なぜこない。こんなに困っているのに」だった。
そして手帳に現在どういう事に行き詰まっているのか細かくメモをしている。

助手は良いアイデアが浮かばないのだろうとその都度励ました。

そうして長い年月を掛けてついに完成したタイムマシン。
しかし博士は言う。
「失敗だろう」と。
タイムマシンを起動もさせずにそう決めつける。

設計者にしかわからないことがあるのかもしれない。
でも助手は提案してみる。
一度は試運転をしてみましょうよ と。

博士は力なく首を左右に振り

「わしが来ないから意味はない」

と小さな声で言う。

「わしはタイムマシンができた時、未来ではなくこの困ったメモのタイミングにタイムトラベルするつもりじゃった。わしに助言をするために」
「しかし待てど暮らせどわしは現れない」
「なぜなら、このタイムマシンは失敗作だからじゃ」

博士は一気に説明する。

「電源を入れていないから過去へいけないのではないですか?電源を入れていないから いつまで経っても未来の博士が来ないんですよ。私がスイッチを入れてみましょうか?」

助手は博士のもどかしい態度を見て我慢出来ずに言う。

「好きにすればよい。自転車にまたがりペダルを漕げば無限のエネルギーが生成され電源が入るはずじゃ」

博士は呆れたように言い残しその場を去ろうとした。
助手はワクワクした様子で自転車に跨る。

「では私は未来の息子に会いに行ってきますね」
「会えないと思ってたいたので嬉しいです」


その時、激しい閃光と轟音と共にひとりの男が合われた。
なんと男は自転車型タイムマシンにまたがっている。

「その自転車を漕いじゃだめだ。すぐに降りて!」

男は強い口調で言ったかと思うと、手に持っていた見たこともない銃のような物を博士に向けた。

その銃からは光線のような物が放たれ博士を直撃した。
博士はその場に倒れる。

助手は呆然とその様子を眺めている。

「良かった間に合った」
「すぐにその殺人マシンから降りて」

男は安堵したように言う。

「え?殺人マシン?いえ、これはタイムマシンよ?」
「は、博士!大丈夫ですか!?」

助手はタイムマシンから降りて博士に駆け寄る。
うつ伏せに倒れている博士を仰向けに転がす。

「し、死んでる…」
「人殺しー!」

助手は男に向き直り大声で叫んだ。

「まぁ落ち着いてよ。あなたは危うく殺されるところだったんだから」

男は悪びれる様子もなく微笑みながら言う。

「そのタイムマシンには決定的なパーツが欠けているんです。そのパーツがあなたです」
「あなたが自転車を漕いだが最後、人間電池としてタイムマシンのエネルギーとして循環するところでした」
「僕のこのタイムマシンもあなたの犠牲があったからこそ完成したのです」

男はよくわからないことを言う。

「そんな…博士が私を殺そうだなんて…」
「そこまで追い詰められていたのね」
「わたしのせいで…」

助手はうつむき唇を噛む。

「でもあなたが無事でよかった」
「母さん…会いたかったよ」
「未来で博士を捕まえ全て吐かせた後、この銃で殺してこの時代に助けにきた」
「一緒に未来へ行こう」

男は助手に手を差し伸べる。

「坊やなの?まだ赤ちゃんなのに…そういえば面影があるわね」
「こんなに立派になって」

助手は嬉しそうに呟きつつ、現代のタイムマシンに乗りペダルに足をかける。

「母さん!危ないよ!すぐに降りて!」

男は近づいてくる。

「止まりなさい」
「あなた物理の成績悪かったでしょ」

助手はフフフと笑いながら言う。

「あなたが無事に元の時代に帰るにはこうするしかないの」
「助けに来てくれてありがとう」
「その気持ちとっても嬉しかった」

助手は静かにペダルを漕ぎ始める。

「その銃は電気を射出しているの?」

徐々に自転車を漕ぐ速度が早くなる。
タイムマシンの機器が動き始める。

「母さんダメだ!死んでしまうよ…」

男は必死に訴える。

「私が生きているとタイムマシンは完成しない」
「するとあなたはどうなると思う?」
「未来に帰って考えてらっしゃい」
「私は過去へ行って博士の白衣を絶縁素材の物にすり替えて来るわ」
「フフフ…あの時、デスクに走り書きのメモが置かれていたのはこういうことだったのね」

助手は微笑みながらペダルを漕ぐ。
タイムマシンはエネルギーを充填していく。

「大きく立派になったあなたに会えて本当に嬉しかった。未来で物理の勉強 さぼるんじゃないわよ」
「……あなたは優しい子ね」

そう言うと助手は閃光と轟音と共に消えた。
男はしばらくその場で考えた後、さらに過去へ戻って母親を助けようかと思ったが、母親のいいつけを守り未来へと帰っていった。



誰もいなくなった研究室。
博士はむくりと起き上がった。
博士はその場で絶縁素材の白衣を脱ぎタイムマシンが帰ってくるのを待った。

しばらくすると閃光と轟音と共にタイムマシンが帰ってきた。
運転席に座っている助手は息絶えている。
その顔は安らかだった。

「わしには演技の才能はないようじゃな。おまえは薄々勘づいておったようじゃ」
「しかし、おまえの残りわずかな命で成長した息子に会うにはこれしか方法はなかった」
「エネルギー問題だけは人間を使うしか方法はない」
「わしも現代と未来で2度も殺されたんじゃ許してくれ」

助手の生体エネルギーはタイムマシンの半永久的エネルギーとして循環していく。
このタイムマシンは助手そのものといってもよかった。
博士はタイムマシンを倉庫の奥にしまい込んだ。
将来、男が博士を殺して奪いにくるまで大切に保管する必要がある。


「わしたちの息子には物理の勉強はさせないでおくよ、親子再会のために」





いいなと思ったら応援しよう!