藤が丘

同級生がケーキ屋さんでアルバイトをしていました。ケーキ屋さんが似合う子でした。かわいくて、純粋で、いつもにこにこしていました。女の子、って感じの女の子。
私がアルバイト先で見かけたときも、同僚の子と笑顔で何か話していました。たまたま通りかかって、ショーウィンドウ越しにそれを見ていました。とてもいい雰囲気でした。
恵まれていて、何でも持っているように見えました。明るい家庭に生まれて、のびのび育ち、清楚な服を着て、自分の部屋が当たり前にあるような。彼氏が切れ目なくいて。お金に困ったことなんかなくて。
片や私は教習所帰りに電車代をケチって歩いていました。帰りたくない家に寝に帰るために。
羨ましいとかは、思いませんでした。いろんな環境に生きる人がいることは、自分が不幸であることとイコールではないと、知っていたからです。それよりか、大学一年のときに内部進学の女の子たちがこれ見よがしにブランドのバッグを下げていた方が、隔たりを感じました。自分だけ大きなシャボン玉の中に閉じ込められているみたいだと、孤独で苦しかったことを、当時のスクールカウンセラーに話した記憶があります。

彼女は順調に、実習先に就職が決まったようでした。きっと数年働いて結婚して専業主婦になっている、というのも、すべては私の勝手な予想です。ただ幸せで、あの頃の笑顔でいてくれたらいいなと思います。

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