世界の黄昏にあやかしの王は私に恋をする 第1話 青薔薇のペンダント

■あらすじ
妖が王侯貴族となって君臨し、現代日本を支配している世界。そこに高天加奈という名の劣等市民の少女がいた。加奈は子供の頃、幼馴染みの妖の少年、ビャクガと結婚の約束を交わした。婚約の証として加奈はビャクガから彼の妖力が込められた青薔薇のペンダントをプレゼントされる。妖にとって自分の妖力を込めた装飾品を異性に贈るのは究極の求愛の証であった。そして二人が大人になり再会した時、ビャクガは全ての妖を束ねる妖の王になっていた。こうして劣等市民と蔑まされ続けて来た加奈は妖の王の后となりビャクガに溺愛されながらその地位を利用し、妖と人間、双方に差別も格差もない世界を創る為に奮闘し始めるのだった。

■ キャラクター・設定
●ヒロイン 高天加奈 17歳
 加奈が幼い頃、両親はテロリストと間違われて処刑されてしまう。その後、両親の冤罪は晴れるが加奈は反逆者の子供として周囲から虐げられることになる。
 引き取られた親戚の家で酷い虐待を受けて育つが、負けん気が強く一度も挫けたことがない。悲惨な家庭環境で育ったにも関わらず人を思いやる心が強く誰に対しても分け隔てなく優しく接する性格の持ち主。いつも大事に身に着けている青薔薇のペンダントは子供の頃にビャクガからプレゼントされた。それにはビャクガの妖力が込められており、妖にとって自分の妖力を込めたアイテムを異性に贈るのは求愛の証とされている。そのことを加奈はビャクガと再会し、教えられるまで知らずにいた。

●ヒーロー ビャクガ 17歳
 半妖でありながら妖の王になった少年。
 冷酷で冷徹な性格であり、加奈以外の人間がどうなろうとも興味がない。
 一人称は『ボク』で、加奈のことを溺愛している。
 子供の頃、権力闘争から逃れる為に身分を隠し加奈の家の隣に引っ越して来る。その時、加奈と出会いすぐに打ち解けると友人になる。そして、友情が恋愛感情に昇華するとビャクガは加奈に求婚し、求愛の証として自分の妖力を込めた青薔薇のペンダントを贈る。自分が妖の王になった時、迎えに来ると約束をした。
※しかし、大人になった加奈は結婚の約束を交わしたことを忘れてしまう。
 雪のように白い肌。千草色の短い髪。切り長の鋭い瞳には喜怒哀楽の色が感じられない。氷のような絶世の美少年。

●世界観
妖が特権階級層として君臨する日本。
戦争に敗れ、妖の支配下に置かれた人類は生き延びるために妖の下僕と化していた。
人間にとって妖と婚姻関係になれば将来を約束されたも同然で、誰もが妖と結婚したいと思っている。

■ 本編 シナリオ

■ 加奈の通う学校 夕方
 雪のように白い肌に千草色の短い髪を持つ氷の様な絶世の美少年、妖の王ビャクガは加奈の手を取りながら片膝をついている。

ビャクガ「汝に我が身も心も捧げる。加奈、あの日に交わした約束通りボクと結婚しよう……!」

加奈〈ある日、私は突然現れた妖の王様超イケメンにプロポーズされた〉
 加奈は顔を真っ赤に染めながら激しく動揺する。

加奈「ごめんなさい。いきなりそんなことを言われても無理、無理ですから……!」

加奈〈そして秒速で拒否った〉

 驚きに固まるビャクガ。

加奈〈時間はほんの少しだけ遡る〉

■ ナレーション 世界観説明
〈かつて戦いがあった〉
〈人と妖は国の覇権を巡り争っていたが、戦いは人の敗北で終わった〉
〈以来、日本は妖が王侯貴族となって支配する国となり、人は妖の下僕と化していた〉
〈妖は反逆しないことを条件に人に自由を与え、表面上は争いの無い平和で穏やかな時代が訪れていた〉
〈しかし、どんなに平和な時代にも争いはつきもの〉
〈支配されることに慣れ切った人は抗うことを忘れ、妖と婚姻することを望むようになっていた〉
〈妖に見初められれば人間でも妖貴族になることができ、自分自身も特権階級の一員となることが可能だったからだ〉
〈妖貴族となった人は、妖貴族ではない人を見下し支配するようになった〉
〈結果、争いは妖とではなく、人同士で起こるようになっていった〉

■ 街 バス停付近 早朝
 バス停にはサラリーマンや学生達が列を作ってバスを待っている。
 中年男性の悲鳴が木霊する。
 街中で、腰に刀を差した和装姿の三人の若者が一人のサラリーマン風の中年男性を取り囲んでいる。

男性「ご無礼をお許しください! どうかこの通りです!」

 中年男性は若者達に土下座をしている。
 若者達は口元に嘲笑を浮かべながらニヤニヤと中年男性を見下ろしている。

若者A「いいや、許せんな。見ろ、貴様のせいでオレの袴が汚れちまっただろう? その罪、万死に値するぜ?」

若者B「無礼討ちにしちまおうぜ。見たところ、たかだか中市民。斬っても我等妖貴族にお咎めはあるまい」

 周囲は騒然となるも、誰も中年男性を救おうとする者は現れない。
 そこに警官二名が通りかかる。

男性「お巡りさん! 助けてください!」

 中年男性は警官に救いを求める。 

若者C「我々は妖貴族である。何か問題があるか?」

警官達「い、いえ、何も問題はありません」

 警官達は怯えた表情を浮かべると、そのままその場を立ち去る。
 中年男性は絶望に塗れた顔でがっくりとうなだれた。

N〈現在、和装は妖の一族のみに許され、ただの人間は身に纏っただけで重罪に処せられた。故に、人々は和装を恐れるようになっていた〉

若者A「では、成敗してくれよう」

 和装姿の若者Aは刀を抜き身構える。
 
男性「ひいいいいいいい⁉ お、お許しを! 私には妻も幼い子供もいるんです!」

若者B「ならば、お前の家族も連座制で死刑にしてやる。あの世で家族仲良く暮らすがいいぜ?」

 そう言って、三人の若者達は大爆笑する。
 すると、バス停の列の中から、一人の女子高校生が歩いて来る。
 そして、勢いよく若者Aの頬を殴りつけた。
 勢い余って吹き飛ぶ若者A。
 たちまち周囲の空気は凍り付く。

加奈「いい加減にしなさい!」

若者C「誰だ、貴様⁉ オレ達を妖貴族と知っての狼藉か⁉」

加奈「私、あんた達がその男性の足を引かっけてわざと転ばしたのを最初から見ていたわよ⁉ その時跳ねた泥が趣味の悪い袴に飛び散って汚れたのは自業自得でしょう⁉」

若者B「女、オレ達に盾突くとは、どうやら死にたいようだな?」

 若者B、若者Cも殺気立った表情で刀を抜く。
 
加奈「偉そうに妖貴族つったって、あんた達は自ら進んで女妖の男妾になった普通の人間でしょう⁉ そんなに妖が好きなら、人間の街じゃなくって、あの壁の向こう側で大人しくしていればいいじゃない!」

 加奈はそう言うと、右側に指をさす。
 指先には巨大な壁が見える。
 
N〈巨大な壁に囲まれた区画は妖の王侯貴族が住まう場所。名を鎮守府。いわば妖の聖域である。普通の人間には入ることも近寄ることすら許されていない。もし近寄ろうものなら、最悪、連座制が適応され家族もろとも死刑になる恐れがあった〉
 
若者A「オレ達にここまでの無礼を働いたのだ。覚悟は出来ているだろうな?」

若者C「土下座して許しを請うのであれば、連座制だけは勘弁してお前の命一つだけで許してやろう」

若者B「もちろん、裸土下座な。ほれ、さっさとすっぽんぽんになって土下座しな」

N〈妖は人に自由を与えている。ただし、それは妖に絶対服従することが条件だ。もし妖に歯向かえばその罪は連座制が適応され、最悪九族まで罪が及ぶ〉
N〈故に、人間社会では妖に逆らうことは絶対タブー視されていた〉 

加奈「望むところよ」

 加奈は不敵にほくそ笑む。
 
三人「何だと……?」

 和装姿の若者三人は加奈の不敵な態度に動揺する。

加奈「子供の頃から私を虐待し続けて来た叔母夫婦に地獄を見せてくれるってんなら、連座制で死刑にでもしなさいって言ってんの! でもね、その前に私はただでは死なないわよ⁉」

 加奈はインチキカンフーの構えを取って見せる。

加奈「さあ、かかってらっしゃい! 空手百段の私が相手してあげるわよ⁉」

 その時、加奈の胸元から妖力が発せられる。
 加奈が発した妖力を前に、和装姿の若者三人は圧倒され蒼白する。

若者A〈何だ、このふざけた量の妖力は⁉〉

若者B〈この女、もしかして人間じゃないのか⁉〉

 その時、和装姿の若者三人は加奈の背後に氷竜の幻影を垣間見る。
 和装姿の若者達は小さな悲鳴を洩らすと、そのまま逃げ去った。
 加奈は彼等が逃げ去るのを確認した後、冷や汗をダラダラと垂れ流しホッと安堵の息を洩らす。

加奈〈あっぶなあああああ⁉ あいつら何なの⁉ 妖貴族つってもいきなり刀を抜いて来るとかっておかしいんじゃないの⁉ でも、何だか分からないけれども逃げてくれて良かった!〉

 加奈は心の裡で顔面蒼白しながらそう叫ぶ。

加奈「あの、大丈夫ですか?」

 加奈は尻もちをついている中年男性に声をかける。

男性「ああ、ありがとう。おかげで助かったよ……って、その腕章、お前、劣等市民か⁉」

 加奈の右腕には赤色の腕章がつけられている。

加奈「ええ、そうですけれども?」

N〈人間社会には4つの階級が存在している。
 特権階級である大市民。
 かつて中流階級と呼ばれた中市民。
 肉体労働者層の小市民。
 そして、最低限の人権しか与えられていない劣等市民である。
 中でも劣等市民は同じ人間からも人間の扱いを受けず蔑みの対象となり差別を受けていた〉

男性「オレは中市民だ。劣等市民如きが気安いんだよ!」

 中年男性はそう言って地面に唾を吐くと、その場を立ち去った。
 加奈は愕然とした後、憤慨した表情になる。

加奈「妖より人間の方が質が悪いじゃないのよ!」

 加奈は呆れたように嘆息すると、首にかけていた青薔薇のペンダントを手に取る。

加奈「もしかして、君が私を守ってくれたのかな?」

 加奈の脳裏に色白な男の子の姿が過る。

男の子「加奈、これ、あげる。ボクだと思って大事にしてくれると嬉しいよ!」

 そう言って、子供の頃の記憶の男の子は笑顔で加奈に青薔薇のペンダントを渡してくる。

加奈〈これは私の大切な宝物。これがあったから私は天涯孤独になっても今まで頑張ってこれた〉

 加奈は愛おし気に青薔薇のペンダントを握り締める。

加奈「ビャクガ、貴方は今、何処にいるの……? 会いたいよ……」

 その時、黒い子犬が道端に現れ加奈を見つめる。その瞳には加奈の持つ青薔薇のペンダントが映し出されていた。

黒い子犬「ようやく見つけた……!」

■ 加奈の通う千鶴高校 早朝

 大勢の生徒が通う中、加奈の周囲だけは誰も人が寄り付かない。
 劣等市民を示す赤い腕章をつけているのは加奈一人だけ。
 
生徒の声1「咎人が……!」

生徒の声2「劣等市民風情が学校に来るな……!」

 周囲からひそひそと加奈を罵倒する声が聞こえる。
 加奈は小さな罵声をものともせず玄関に向かう。

■ 同時刻 千鶴高校 下駄箱 
 加奈は下駄箱の前で立ち尽くしている。
 靴箱の中にはゴミで溢れ返っていた。
 近くからクスクスと笑い声が聞こえる。
 見ると、加奈を苛めている女子生徒グループの姿がある。
 その中でリーダー格の女子生徒、柏木里香が加奈に話しかけて来る。

柏木「あら、可哀想。そんな酷いことを誰にやられたのかしら?」

 加奈は柏木里香に振り向くと、にっこりと笑う。

加奈「柏木さんって、確か私と同じサイズだったわよね?」

柏木「何がですの?」

 柏木里香はキョトンとなる。
 加奈は柏木里香の傍まで行くと、彼女の胸をドン! と思い切り押した。

柏木「きゃあ⁉」

 柏木里香は床に倒れ込む。
 加奈は倒れた柏木加奈の足から素早く上履きを奪い取る。

加奈「この上履きは貸してもらうからね。返して欲しかったら私の上履きを洗って返すこと。いいわね?」

 加奈はギロッと柏木里香とその取り巻き達を睨みつける。
 柏木里香の取り巻き達は怯えた表情を浮かべる。

柏木「赤腕章劣等市民の分際で大市民である私に手を上げるだなんて、絶対に許さないわよ⁉」

 柏木里香は加奈の背中を睨みつける。

■ 同刻 千鶴高校 教室 早朝
 教室の窓際にある自分の机の前に立つ加奈。
 机の上には菊の花が活けられた花瓶が置かれている。
 柏木里香の取り巻きの男子生徒達がニヤケ顔で加奈を見ている。

加奈〈ああ、もう! 毎日飽きもせずによくやるわね⁉〉

 加奈は花瓶を持ち上げると、取り巻きの男子生徒達のリーダー格の田中洋一にニッコリと微笑みながら声をかける。

加奈「毎朝、大金鶏菊摘み、ご苦労様。小市民の方って暇そうで羨ましいわ」

 加奈は田中洋一の右腕につけられた黄色の腕章を見ながらにニッコリと微笑みながら言う。
 小市民と言われた田中洋一は笑みを止め苛立ちに顔を引くつかせる。

田中「んだと、劣等市民⁉」

加奈「だって、毎朝、道端に咲いている大金鶏菊を摘んでから登校しているんでしょう? とてもじゃないけれども私にはそんな暇はないもの。それと、一つ聞いてもいい? 毎朝、どんな気持ちでお花摘みをしているのかしら?」

 その時、周囲から笑いが上がる。
 田中洋一は怒りに顔を真っ赤にすると、加奈に掴みかかろうとする。
 だが、加奈は花瓶を田中洋一にパスをするように投げつけた。
 田中洋一は咄嗟に花瓶をキャッチする。

加奈「女性に花を贈るなら、今度は青薔薇にしてちょうだい。全く、センスの欠片も無いんだから」

 そう言って加奈は鼻で笑って見せる。

田中「劣等市民ごときがオレをバカにすんじゃねえ!」

 田中洋一は床に花瓶を投げつける。花瓶の割れる音が響き渡る。
 
加奈「ちょっと! あんた、いい加減にしなさいよ⁉」

田中「てめえなんかぶっ殺してやる。劣等市民の分際でいつもいつも見下した目で見やがって!」

加奈「私、誰かを見下したことなんて無いわ。そんなの言いがかりよ⁉」

田中「うるせえ!」

 田中洋一は激高すると、加奈を思い切り突き飛ばした。
 すると、勢い余って加奈は開いていた窓から落下しそうになる。

加奈〈嘘⁉ 私、こんなくだらないことで死んじゃうの⁉〉

 加奈の脳裏に幼い頃のビャクガの姿が過る。

ビャクガ「困った時はいつでもボクの名を呼んで。必ず加奈を助けに行くから……!」

 ビャクガの笑顔とその言葉が脳裏を過る。

加奈「ビャクガ、助けて!」

 次の瞬間、加奈の周りに氷が現れ落下を阻止する。
 教室内は一瞬で凍てつき、人間以外の物が凍り付いていた。

少年の声「ようやく会えた……!」

 気付くと、加奈は和服を身に纏った少年の胸に抱かれていた。
 それは雪のように白い肌に千草色の短い髪を持つ氷の様な絶世の美少年だった。
 加奈は思わず赤面する。

加奈「貴方は誰なの……?」

少年「今、ボクの名前を呼んだじゃないか」

加奈「え? まさか、貴方、ビャクガなの⁉」

 加奈は少年の正体を知り驚愕に固まる。
 ビャクガは加奈を床に降ろすと、加奈の右手を取って笑顔を浮かべた。

ビャクガ「汝に我が身も心も捧げる。加奈、あの日に交わした約束通りボクと結婚しよう……!」

加奈〈ビャクガとの突然の再会とプロポーズを前に、私はただただ驚きに包まれ返す言葉を失った〉

加奈「ごめんなさい。いきなりそんなことを言われても無理、無理ですから……!」

 動揺に塗れた加奈は思わずそう叫び赤面する。
 ビャクガは一瞬だけ驚きに固まった後、すぐに目を細め妖しげな笑みを浮かべてこう断言した。

ビャクガ「妖の王の命令は絶対だ。残念だけれども、加奈に拒否権は無いよ?」

加奈「ビャクガが妖の王様ですって⁉」

加奈〈ビックリすることだらけで、もう何に驚いたらいいのか分からないわ⁉〉

 加奈は驚きのあまり少しパニック状態になる。

ビャクガ「色々と積もる話もあるけれども、今はその前にやらなきゃいけないことがある」

 そう言ってビャクガは後ろを振り向き、茫然と立ち尽くす田中洋一を睨みつける。

ビャクガ「ボクの花嫁を傷つけようとした罪は万死に値する。死ぬがいい」

 次の瞬間、ビャクガは田中洋一に向かって禍々しい妖力を放つのだった。


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