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【MTG カジュアル】 “プレインズウォーカー、父になる”「青単テラー(5才)」vs「青黒スパイ」 【初心者、復帰勢、自分と同じ親に向けて】
1.長女が自分のデッキを持ちたいと言い始めましてね(お年頃)。ほぅ。きみはまだ5才で、対象年齢の半分に満たないが、大丈夫かい?
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ほっこり……と思っていたら
ひどい場所で不穏なことになってきた
保護者!!?
ぼくらは寝る前に、どうぶつしょうぎをはじめとした盤上遊戯に興じることがあり、彼女は1桁の計算くらいは出来るため、“こういうこと”を言い出すのは必定でもありました。テーブルごしにサポートすれば、ゲームの真似事くらいは出来るでしょうか。
それでは、きみは……どんなカードが好みだね???(ドサドサッとストレージから山を掴み出す父)
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イラストが好みらしい。豊満であった
フェイバリットカードを活かす構成にしつつ……初心者、かつ子ども向けのデッキだからこそ、気をつけなければならない点があります。その条件は主に3つ。長女と相談を重ねつつ、完成したデッキはこう!
2.一応、カードプールはレガシーに準拠します。構築上の1つ目の条件は、安価であること。
ぼくはカードを、決して傷つけてはならない宝物や資産というより、他の誰かとコミュニケーションをとるためのツールだと考えるタイプ。それでも数千円~のカードを子どもにシャッフルさせるのは、精神と心臓の健康に良くないのも本音。
その点、この「青単テラー+」はパウパーのデッキを原型としており、アンコモン以下のカードだけを使用しているため、大変に安価です。たぶん、デッキ内で最大の高額カードは《目くらまし》。
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さいわい、ぼくはその辺りのカードを余らせていたため、今回は500円くらいの投資でデッキを形に出来ました。たとえ、子どもの手で誤ってカードを折るようなことがあっても、心穏やかに交換作業ができます。
2つ目の条件が、扱いやすさ。このデッキはルールを覚えるための教材でもあるからです。青単色で、色事故のストレスとは無縁。構成も、“攻撃クリーチャー”、“打ち消し呪文”、“除去呪文”、“ドロー呪文”、あとは大量の“《島》”と、各カードの役割がくっきりと分かれたシンプルな形。4枚積みのカードを基本とし、それぞれを覚えやすくしているつもり。
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5才児特有の踏み込みの強さで
容赦なく撃ってきます(つらい)
ま、ここまで1、2の条件だけなら、取り扱いショップに行けば無料でもらえるウェルカムデッキで満たせるんですけどね。問題は、3番目の条件。
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さばき合いをしているうちに
6マナ圏の切り札へと
自然とたどり着けるようになっている
ただし、それは
ウェルカムデッキ同士で戦った場合での話
3番目、最後の条件は、一定以上の強さを持つこと。なんだかんだで、このゲームは対戦を楽しむためのもの。勝てなければ面白くないし、すぐに飽きます。かといって、あからさまな手抜きは本人にも伝わるし、プライドに関わる問題。
何よりウェルカムデッキを用いたゲームは、お互いのカードパワーの低さから、ぐっだぐだに長引くことも少なくありません。それは、生活リズムと良質な睡眠のために避けたい……。
その点、この「青単テラー+」は安価ながら実績あるデッキを下敷きにしているだけあって、恐ろしい戦闘力で速やかにゲームを終わらせられます。どれくらいの強度かって? “レガシーデッキに準じる”ほど、です。
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上記の《対抗呪文》と
パウパー禁止カードとなった《目くらまし》《撃退》で
守りながら戦うのが基本戦術
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もちろん《デルバー》+《ブレスト》ムーヴも可能
初心者……向け?
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ややコントロール寄りの構成で
《カズミナ》先生の役目は
実質的な護法2付加による
攻撃クリーチャーたちのガードと
↓のようなカードを墓地に送ること
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奇襲的に勝負あり、が理想です
ふははは。美しい! 審美的にも満足度が高い、すっきりと簡潔なリストになりました。レガシーデッキと大きな差が出るのは、《不毛の大地》の有無くらいですね!
で。今日はきみのデッキも完成したし、遊びはここまで。続きはまた明日。ということにしたかったのですが……長女はこう言ったのです
「ねえ! お父さんのデッキも出してきてよ。いますぐ戦ってみたい!」
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どうやらぼくは、全プレインズウォーカーに共通する性を甘く見ていたのでした。“新たにデッキを手にしたら、他の誰かと戦ってみたくなる”。しかし、えぇ……どないしよ? 何しろ差し替えなしで、すぐに用意できる父のデッキって、これ↓だぞ?
よりによって、今のメインウェポンは、“アンフェアの極北”「青黒スパイ」……!
詳細は以前の記事にまかせてしまいますが、盤面を作る気が一切なく、ライフを狙うつもりもない、特殊勝利カードに依存した瞬殺コンボ。キルターンは1~2ターン。
このゲームの例外にさらなる例外を重ねたような存在で、ここまで初心者用の教材に向いてないデッキは、他に有り得ないよ!!?
しかし、せっかくのやる気に水を差したくはありませんでした。ま、戦ってみるか!(古のプレインズウォーカー特有の豹変)
さいわい、軽量で打ち消し呪文を満載した「青単テラー」側から見て、そうデッキ同士の相性は悪くありません。「スパイ」が得意とする“初手での即死攻撃”さえ避けられれば。
新デッキの真価を見るには、いっそ、これくらいの相手のほうがふさわしい気もするし。
対等な対戦、という内容にはならないかもしれませんが、「青単テラー(5才)」と“レガシーデッキ”「青黒スパイ」との模擬戦、スタートです!
3.まず、サイコロを振って、先手か後手かを決定。
先手、長女。良しッ……! この時点で、何も出来ずにゲームエンドの確率が、かなり落ちました。《島》1枚さえ置ければ《目くらまし》を構えられるため、具体的に即死率は40%くらいのダウン。
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コストのカードを墓地に捨てるため
その点を利用しやすい
ともあれ、さすがに1対3交換はつらく
4枚積みたくはない奥の手
まだカードの意味が全然わからない長女のため、お互いに手札をオープン。ゲームの流れを説明しながら進行します。
長女の初手は、打ち消し呪文過多で防御的な7枚ですが、まあ、悪くない内容です。ドロー呪文で墓地を貯め、《トレイリアの恐怖》に繋げるのがプランでしょう。
一方、こちらは……デッキの体内時計が狂っているのかというほど、遅っ。《欄干のスパイ》こそ手札にいますが、ろくなマナ加速呪文がなく、4ターン目にコンボ突入できるかどうか怪しいほど。普段ならまず間違いなくキープはしませんが、このゲームの目的はチュートリアル。……これで行きましょう。今夜、ぼくから与えられる唯一のハンデです。
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「スパイ」の基本で奥義
鉄の意志を要求されるデッキなのだ
テーブルごしにアイサツをしたら、このゲームで最初の呪文を伝えます。
「まず、この言葉を覚えてほしい。はじめは意味がわからなくても良いから。アンタップ、アップキープ、ドロー」
「アンタッポ? アッポッポ? ドロー!」
「だいたい合ってる」
言葉の響きが気に入ったらしく、長女はこの“アッポッポ”をゲーム中に何度も唱えて、クスクス笑っていました。
次に、手札から《島》を探してもらい、“土地のセット”、それを横向きに“タップ”、青いマナを出し、“手札の呪文をプレイ”することを教えます。
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いずれ、好きなイラストを探しておくれ
そういうわけで、彼女が人生で最初に唱えたカードは《渦まく知識》。
一方、こちらは《不敬者破り》を裏返して土地として置くだけで……いや、これも《島》と同じ土地ではあるが、例外的に呪文カードで、そもそも普通の土地カードを1枚もデッキに入れてなくてな?
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なんて説明しづらいデッキを使ってるんだよ!
同じターンに2枚以上の土地をどんどん置こうとするのを父に止められつつ、長女は順調に墓地を肥やしていき、デッキの代名詞《トレイリアの恐怖》をプレイ。
こちらの引きが芳しくなく、その1手を遅らせないとストレートで蹂躙されると判断し、《意志の力》を当てます。大人げない? いえ、許してもらいましょう。お互いが装備する“打ち消し呪文”とは、こういうものだと説明します。
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レガシーの《濁浪の執政》に似ていますが
墓地を消費しないため、連打可能なのが厄介
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局所的には便利なパーツなのだが
デッキ内で最弱に近い引きやん
長女はこちらのエンドフェイズ、《考慮》でライブラリーを掘り進め、早くも2枚目の《トレイリアの恐怖》を探し当てます。本当に攻め手が途切れないな。
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中庸カードとして採用
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結構な高額コモンでもあります
今回、入れてない理由は
旧枠のカード名には、ふりがなが無いため
それでも、虎の子の《意志の力》で1ターンぶんの時間を稼いだ価値はありました。《トレイリアの恐怖》に押し潰される直前のターンに、こちらも致死圏の“4マナ”に到達する見込み。先に王手をかけたのは、「スパイ」のほうです。その前にぼくから、
「難しい説明を全部省くが、次のターンにこの《スパイ》を通せば、きみは逆転で負ける」
「うん」
「次に引くカードも使って、なんとか、防いでくれな」
こんなやりとりをした気がします。そして彼女は、実に気が抜ける呪文を唱えました。
「アンタッポ、アッポッポ、ドロー!」
ラストターン! 最初から手札で待っていた《欄干のスパイ》をついにプレイ。対応し、長女の「青単テラー」からは《対抗呪文》。《スパイ》を打ち消しにかかります。
それならば、こちらは《否定の契約》で、その《対抗呪文》を迎撃。
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ぼくのフェイバリットカードは、これかも
長女はさらに対応、直前に気合い引きをしたばかりの“2枚目の”《対抗呪文》!
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青といえば、これだね
一撃必殺のコンボを押し通そうとする「スパイ」と、全力で阻止しようとする「青単テラー」との綱引き。ここまで溜めこんだ手札を一瞬で燃やしつくす呪文戦です。
2枚目の《対抗呪文》に対する最後の備えは……こちらも2枚目、奥の手の《否定の契約》。《スパイ》+2セットの妨害。普通なら、勝つ。必殺の布陣です。
しかしまぁ、この戦いはあくまでチュートリアルなのですよね。ぼくは娘に伝えなければなりません。
「このゲームは土地から生まれる魔力で、呪文を唱える。しかし、きみが覚える最初の例外が、ゲームが始まってから手札にあった、そのカード」
「すごい、ギラギラ光った人の顔やね」
「そのカードは、土地からの魔力を支払う代わりに、島・カード1枚を手札に戻すことでも唱えることができる」
すなわち、《目くらまし》です。
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4マナの《欄干のスパイ》を撃てる、ぎりぎりのマナしか持ち合わせなかったため、《目くらまし》の要求コストを支払うことができません。0マナ打ち消し呪文の残弾もなし。さっき《意志の力》を消費させられたのが痛かった。
《対抗呪文》+《対抗呪文》+《目くらまし》。3セットの妨害により、《欄干のスパイ》は打ち消されます。返しのターン、「青単テラー」の攻撃により、「青黒スパイ」のライフは0に。最後に感謝を伝えて、試合は終了。きみの勝ちです。ありがとう。グッドゲーム。
4.ふぅ。なかなかに、難しいですね。押しつけにならないよう、必要なことを過不足なく伝えるというのは。先述のとおり、僕はカードを誰かとのコミュニケーションツールで、趣味のひとつに過ぎないと考えます。
自分たちにとって“大事な世界の1つ”であることは望ましいのですが、それだけしか自己表現の場所がない“大事な世界の全て”になってしまうのは、とても不健全。それが僕の小さな哲学で、向き合い方です。
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それもあって、子どもに趣味を押しつけたいなどとは、毛頭思わないのですが……ありがたいことです、本当に。親が楽しんでいる世界に興味をもって、いっしょに遊んでみたいなどと言ってくれる時の、どんなに貴重で短いことか。
きみの世界はどんどん広がっていき、親なんかと過ごすより、自分で見つけた友人や新しい家族と長い時を共に楽しむようになる。そのほうが健康的。ぼくらにとっても無二の願いです。
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ただ、もし、その日になっても“多くの楽しみの1つ”として、このゲームと、ぼくとテーブルをはさんで遊んだ日をおぼえていたのなら。そのときは自分のカードの全てを、喜んで譲り渡しましょう。ぼくなどより優れたプレイヤーへの、ささやかな力添えとして。
ただし、それは、遠い未来での分岐の1つ。一応は対戦形式でゲームの経過を書いてはみましたが、実際はこちらが双方の手札を見比べてプレイングの提案をする形でしかなく、真剣勝負には程遠いです。何しろ、ほら。長女はまだ5才。焦りは禁物です。
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「アンタッポ、アッポッポ」言いながら
曲がりなりにも1ゲームを完走しただけで
上出来です。親の贔屓目抜きでも
重要なのは、ただ1つ。ぼくはテーブルごしに、おそるおそる問いかけました。楽しかったかどうか? 長女はこんなふうに答えました。好きなカードができた、と。ほぅ。そのカードの名前は?
「《対抗呪文》」
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そうか。きみも立派な「青」のプレインズウォーカーだな。そして、ようこそ。広くて深く、ぼくらが愛してやまない、この世界へ。