見出し画像

「私って発達障害ですか?」〜とある研修医とのやり取り

こんにちは、精神科医のはぐりんです。精神科医のリアルな日常とホンネをお届けしています。
※3分で読めます。

私の勤務する病院には、毎月1人ずつ県内各地の病院から初期研修医が回ってきます。

初期研修医とは、大学の医学部を卒業して最初の2年間の研修期間のことを指しますが、2年間のうち最低4週間の精神科での研修が厚生労働省により義務付けられているのです。

先日、研修医のとある先生(内科医志望)が唐突に聞いてきたのが冒頭の質問

研「私ってADHD(注意欠如・多動症)だと思うんです。薬とか飲んだ方が良いんでしょうか?先生から見てどう見えますか?」

私「うーん、普通の明るくて元気な若い子に見えるけど。なんでADHDだと思うの?」

研「色々な診療科を研修していて、コロコロ興味が移り変わるんです。それに割と思いつきで引っ越したりするんです」

私「(確かにそれは少し当てはまるかもしれないな)でも先生、日頃困っていることないでしょ?ADHDの方って、しょっちゅう財布や携帯をなくしたり車をぶつけたり、車の鍵を中に置いたまま鍵かけてJAF呼んだりとかそういうレベルだよ?」

※()は私の心の声です。

研「あ、私この前財布無くしました。」

私「(財布無くすのは結構なレベルだな)クレジットカードとか止めたりした?」

研「結局財布は見つかりはしました。」

私「(しょっちゅう無くすわけではなさそうだな)家族とかパートナーからは普段の生活で何か言われたりする?」

研「予めあまり細かく言ってこないパートナーを選んでいます笑」 
私(汚部屋だったりするのかな?)←直接聞くのは自重

私「先生、これまでに浪人や留年したことある?」

研「1浪しました。え、なんでですか?」

私「神経発達症の方ってどこかしらの段階で躓いたりすることもあるんだよ。先生は部活もやっていたし、友達と一緒に勉強して進級もしてるし、そういったことは無さそうだね(医学部で1.2浪は普通)。心配しなくて大丈夫そうだよ」  

後日談もあるのですが、担当してもらった患者さんの症例レポートをチェックした際、誤字脱字はかなり多かったです。

また1か月だけではありましたが、遅刻や欠席はなく、周囲とのコミュニケーションにも全く問題はありませんでした。

結論から言うと、たったこれだけのやり取りではありますが、(少なくとも現段階では)ADHDとは診断しません。その1番の理由は社会的(学校、職場、家庭)にほとんど問題なく過ごせているからです。

医学生時代には膨大な量の課題や試験があり、友人たちとの協調性が求められますし(ASDだと孤立してしまう)、課題の期限や将来の進路に対しての計画性も求められます。

研修医になると、学校から職場に移り社会人として全く新しい環境下に置かれます。周囲と馴染めなかったり、また患者さんとのコミュニケーションが上手くいかずに休職してしまう医師もいます。

また今回のやり取りを通して一番伝えたかったことは、神経発達症の診断はそうそう簡単につけるものではない、ということです。

実際に診断をする場合、最低でも30分は診察に時間をかけますし、可能であれば母親から小さい頃の様子を聞き、通信簿もあれば必ず確認します。同僚やパートナーから普段の生活の様子を聞いたり、また心理検査なども行っていきます。

精神科の診断、特に神経発達症(ASD,ADHDなど)に関しては、本当に支援や治療が必要な人につけるべきと個人的には思います。SNSで自己診断している方、あるいは専門家の中にも過剰診断している方が少なくないように感じる今日この頃です。

最後までお読みいただきありがとうございました。

いいなと思ったら応援しよう!