爪先

昔からよく爪を切れと言われる。

普段からものぐさなこともあって切るのを忘れているからだ。
私の周りは私が異常にませていて、そういったことのために爪を伸ばしていると思いたいらしい。

実際はただの怠慢だったりする。

笑われてしまうかもしれないけれど、私も年相応に乙女なので全く興味が無い訳では無い。

たまに色をのせてみたりするけれど、悲しいことに色彩センスが全くないから似合わない。

それこそ家族からも苦情が入るレベルだ。

好きな色を塗っているだけなのに言及されると多少恥じらいを感じてしまう。

反抗心で意固地に塗り続けたりしていた時期もあるが、反感を買い始めたあたりでやめた。

私の周りでもよく聞くのが、親が子の背伸びを茶化すことで子が無意識に自信を失うという話だ。

確かに物によっては子供の背伸びにしては高額過ぎるものもあると思う。

ただ、今の時代は多様性の重視やリーズナブルなものが普及しているので少し手を伸ばすくらいどうってことはない。

百円均一ショップや薬局でさえそこそこの化粧品を買えてしまう。

金銭的な問題だけではないので手放しに良いとは言えないけれど。


それでもませていると小馬鹿にされるのはこちらとしても気分が良くない。


私の場合は小馬鹿にするだけでなく嫌悪感を滲ませてくるのでコソコソ隠すようになってしまった。

自分に非はないと分かっていても罪悪感は拭いきれない。

辛さの最たるものに祖母が特に嫌悪を顕にすることがある。

苦言を呈するとか、顔を顰めるとか、その程度なら内省しようとも思えるのだがわざとらしく嘔吐く様なことをされてしまうとこちらとしてもやるせなくなってくる。


周りの大人は「大人になってからでいい」と口を揃えて言うけれど、私はいつ大人になるのだろう。

今から大人です、と告知してくれる審判でもいるのだろうか。

周りの大人たちが幼いままでいるのを見る度「お前も今にああなるぞ」と脅されているようで、焦燥感ばかりが募る。

早くたどり着かなければいけないのに歩みが遅くて苛立つ。


生き急ぎすぎだ、と誰かに言われたことがあるけれど、確かに当時の私は早く大人になる必要があったのだ。

今は本来の精神年齢が幼すぎるが故に、年相応になろうと邁進している。

自分の幼さや脆弱さに打ちひしがれる毎日だ。

いつまで私は背伸びをしたまま、爪先立ちの日々をおくるのだろう。

2023.5.14

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