おんがくのこ

小さな頃から音楽が好きだった。

母はよく歌う人で、物心着いた時から子守唄を歌ってもらっていた記憶がある。
手を繋いで部屋を踊って回ったこともある。
そのおかげか私も弟も家の中でお構い無しに歌を歌うように育ってしまった。

私達姉弟の名前の由来は音楽だ。
父は趣味だが楽器をやっているし、母も音楽を好んで聞く方だから、私の傍には気づけばいつも音楽があった。
保育園でも小学校でも縁があって楽器をやっていた。

弟も習い事で楽器をやっていたのだが、如何せんなかなか芽が出なかった。
車の中で延々と続く怒鳴り声と弟の泣き声、何度やってもリズムの合わない手拍子が重なって地獄の音楽のようだった。
今でもふとした時に思い出す。
その頃から私と楽器や音楽はよく結ばれるようになったように思う。
リズムが取れない弟(当時は幼すぎた)に比べ、ある程度譜面が読める私はよくできる方だと思われたのだろう。
「あなたには本当に音楽が向いてる。音楽の子だね。」という母の言葉が未だに頭から離れない。
芸術の道に進むと伝えた時も両親は音楽の方が向いているのにとこぼしていた。

別に音楽にコンプレックスがあるわけではない。むしろその逆だ。音楽はいつも私を守ってくれる。
うるさい教室、怒鳴り声、泣き声、嘲笑、陰口、刺すような視線、バスや電車の閉塞感。音楽はいつも私の心を埋めてくれる。
孤独で眠れない夜も、憂鬱で起き上がれない朝もいつだって私に寄り添ってくれる。

私は人混みが苦手だ。
精神的に不安定な状態で人の多い場所に行くと動悸や眩暈がする。
体が冷えて心臓の音が大きくなる。酷い時には人前であっても泣きだしたり、座り込んでしまうことがある。
だからいつも音楽は手放せない。
気付けば独りでいる時も常に音楽を聞くようになっていた。

独りは怖い。

騒がしい教室の中だって私はいつも孤独を感じている。
被害妄想だ。
そう分かっていても頭の中の私がおしゃべりをやめない。わざと思ってもいないことが頭の中を次々に流れていく。

音楽はそんなぐちゃぐちゃの孤独をかき消してくれる。
誤魔化してくれる。
守ってくれる。
荒れた自分の鼓動と音楽が混ざり合って私はようやくゆっくりと動けるようになる。
そんなことを繰り返していたら朝も昼も夜も音楽が手放せなくなった。
通学のたった15分でさえも音楽がないと耐えられない。
どんなに時間がギリギリでもイヤホンがないと探してしまう。

私は音楽がないと生きていけないから。

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