dream lantern
その日もいつも通り仕事をこなし、帰路へつく。
途中いつものスーパーで、これまたいつも通りお酒やおつまみを買う。
今日は何を飲もうかな。
飲みたいお酒を選ぶ瞬間が僕の日常のささやかな楽しみだ。
買い物を終えると再び歩き出す。
ふと、携帯を弄ろうと手にした時、見慣れないアイコンからのメッセージが届いていた。
いや、それはひどく懐かしいアイコンであった。
どのくらいぶりだろうか
僕は足を止め、ドキドキしながらLINEを開いた。
「お久しぶりです。日本に戻ってきたからまた飲み行きましょう」
懐かしさと嬉しさが込み上げる。
人生何が起こるか分からない。
そう思わされた最近の出来事を書こうと思う。
彼女と最初に出会ったのは、6年前くらい。
当時は僕はまだバツイチで、遊び呆けていた。野毛の飲み屋でたまたま横になったところを僕から声をかけて仲良くなった。
歳は10個も下。
お酒がすごく好きで、1人で野毛を飲み歩いては行きつけを多く抱えるような年のわりに豪胆な女性だった。
彼女に色々な野毛事情も教えてもらった。
(店のトイレのカラクリや、常連と仲良くなる秘訣とか)
目鼻立ちはしっかりしていて、妙な上品さがあるがそれをひけらかす事なく、豪快に笑ったりノリと愛嬌をうまく使い分けられる賢さを持つ女性だった。
好きになるのに時間はかからなかった。
それからは、多い時で週6日の頻度で彼女と飲むようになる。
僕は飲む度に毎回、彼女にアプローチを仕掛けたが、毎度見事に交わされる。
そしてそれが恒例行事かのようになっていった。
交わされる度にお互い笑い合った。
それもそうだ、彼女にはその時彼氏がいたから。
それは知っていたし、色々話も聞かされていた。
表面上ではふざけたり平然と装って相談に乗ったりしていたが、内心ではかなり嫉妬していたと思う。
アプローチだって本気だった。
僕が好きになる人にはいつもパートナーがいる。
昔からそうだ。
好きな人には振り向いてもらえない、なんとも思っていなかった人から好かれる。
そういった恋愛ばかりしてきた。
ああ、結局いつものパターンか。
彼女と話したり、笑い合っていながらも内心はいつもモヤがかかっていた。
そうして、回を重ねて飲めば飲むほど日毎にその思いが強くなり、それと同時に何の目的で彼女と飲んでいるのか分からなくなってきた。
時間とお金だけを無駄に浪費してる空虚さに襲われ始める。
次第に彼女と会うのが辛くなってきた。
僕は自分が好きな人とは結ばれない。
一緒にいて楽しい気持ちと、損得勘定が入り混じる。
そしてその気持ちが次第に彼女に連絡する手を阻むようになる。
当時の僕に女性と飲み友達になるって感覚は全くなかった。今思うとなんて心の狭い男なんだか...
彼女から連絡が来るが、適当な言い訳をつけてやんわり断っていた。
そしてそれを繰り返すうちに自然と向こうからの連絡も減っていった。
そうして僕も自然と野毛では飲まなくなっていった。
最後に彼女に会ったのは、それから半年くらい経ってからだ。
僕の中ではすっかり過去の人になっていたので、前の感情はだいぶ薄れていた。
彼女がどうだったかは分からない。
半年ぶりに会う彼女
改めて見てもやはり綺麗だった。
待ち合わせ場所は横浜
野毛ではなく。
店に入り乾杯をして、半年間の出来事など色々話す。
相変わらずノリがいい。
くだらない話で盛り上がる。
しばらく飲んでて、彼女は仕事を転職して空を飛ぶ仕事に就く事になったと言われた。
そう、全男の憧れだ。(少なくとも僕は)
そして同時に、アメリカで生活する事になったとも告げられた。
頭が真っ白になった。
もう今までみたいに気軽に飲みに行けない。
おめでとうとお祝いの言葉を伝えたが本心は、おめでとうと言えない自分がいた。
つくづく彼女と比べて自分の器の小ささに嫌気がさす。
その後も色々な話をしたと思う。
初めて会った時のことや、野毛での珍事件の数々。
僕が毎度アプローチしてくるのも嬉しかったけどウザかったとか。笑いながら思い出話を色々した。
最後の思い出にと理由を付けて赤レンガまで散歩することになった。
夜風が気持ちいい
本当は手を繋ぎたかったが、今までしたこともなかったのでそれは諦める事にした。
道中彼氏とはもう別れたと教えられる。
現実問題を考えて、喉元まで出かかった言葉を飲み込んだ。
結局他愛もない話と、日本にまた帰ってくることがあったら、飲み行こうとか陳腐なことしか言えいまま解散した。
その日を境に彼女からの連絡は途絶えた。
そして僕も次第に日常の中で彼女を忘れていった。
そんな彼女から約5年ぶりに連絡が来た。
しかも日本にいる。
変わらない日常に光が差した1日だった。