小説①
俺の席の前のやつ。
確か、プリント配る時に少し話したのがきっかけで仲良くなった気がする。
いつも眠そうな目して、
授業中起きてることの方が珍しかった。
あんま寝てるとテストやばいんじゃね?
起きててもロクな点数取らないあんたに言われたくないよ。
そんな会話を交わせるくらいの仲だった。
いつだったか、
すっごい目を腫らして学校に来たことがあった。
どーしたんだよ、その目。
マジでヤバい。
うーん、ちょっとね。
いつも眠そうな目が、
さらに細くなってて、
心なしか赤くなってた。
後からあいつと仲のいい女子に聞いた。
彼氏と別れたんだって。
結構長かったらしいからショック受けててさ。
彼氏がいたことも、
別れて、目が腫れるくらい泣いてしまうくらい、
相手のことが好きだったことも、
そんな感情を持てるようなやつだったことも、
初めて知った。
その日は、
授業中だろうが、休み時間だろうがお構いなしに寝てて、
あまりにも寝るもんだから、
なんだか心配になって、思わず体をゆすった。
流石に寝過ぎだろ。
あいつは、ゆっくりとこっちを向いて、
ありがと。
いつもよりも、はっきりした目で言った。
起こしてくれてありがと。
お礼になんかしなきゃねぇ。
へにゃっと笑ってそう言ったあいつに、
妙に心臓が跳ねて、思わず、
パフェ食いたい。
俺の答えに目をこれでもかってくらい丸くして、
ぷっと吹き出した。
りょーかい。今日行く?
学校が終わった帰り道。
別れたっていう彼氏の話を聞いた。
こいつとこんなにたくさん話すこともなかったから、
俺は妙なテンションになってた。
そんなに食べたいわけじゃなかったパフェ食べて、
店出てのんびり歩く。
そろそろ俺の家が近くなってくる。
じゃあな。俺この辺だから。
その一言が、
喉につっかえて出てこない。
突然止まった俺を、
あいつが不思議そうに見つめた。
どーした?
なんでかわからないけど、
このまま帰しちゃいけない気がした。
おい。
ん?
明日も、学校来いよ?
パフェ食べたいって言った時と同じくらい、
目をまんまるに見開いて、
…りょーかい。
そう言った笑顔に安心したんだ。