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無題

色んな物になる夢の話



がぱっと空を開ける音がした。
大きな何か、やわっこい様で妙に硬っ苦しい先っぽが遠慮なく世界を漂う。そいつは俺を選んだ。
今日の使い捨ては俺だった。

空の向こう側にはまた空があった。世界はこうやってマトリョーシカ式なのかと感じた。はて?マトリョーシカとはなんだったか。
そうこうしてるうちに、そいつは俺の体を押し潰しそうになりながら足に火を付ける。皆そうだった。皆火炙りの刑に処された。そいつはそれを見るのが大層好きらしい。一日に一体何人連れて行かれたか。
しかし、ただで潰れる俺たちじゃない。焦げてく体から煙が出る。その煙は何とも有害な物らしく、そいつらの中身を気付かぬうちにぼろぼろにしていくらしい。
ざまあねぇな!
そう言って笑ってやりたいが生憎口の中にいるのでそんな余裕も無い。うわぁ、黄ばんでる。

どのくらいたっただろうか。そいつは俺を大きい世界に放り出した。おいおい、そりゃあ無いだろう。そうは思ってもどうにも出来なくて重量に従い落ちていく。
ぐしゃり、そいつに足を踏まれた。懇切丁寧にぐりぐりと木っ端微塵にしやがった。ついでに火も消えたが。
そうしてそいつはいなくなった。しかしそいつと同じやつらがそこかしこを闊歩する。

ぎゅむぎゅむ、息を着く暇も無いとはこの事だ。なんだなんだ、酷いじゃないか。皆こちらを見向きもせずに踏んでいくなんて!

ぎゅむぎゅむぎゅむぎゅむ
踏まれていく、革靴に、スニーカーに、ヒールに、あ、スカートの中見えた。
なんて見とれてたらローファーが踏んでった。
あ、あれ俺じゃん

ぱちり




暗い闇の中にいた。体育座りする自分は何かに閉じ込められていた。甘い甘い香り、柔らかい壁。それらを俺は知らない。
しばらくするとくぐもった声が聞こえる。
「わぁ〜!すごーい!」
「美味しそう!」
「早く食べよう!」
突如、衝撃が走った。
何かがここを壊そうとしている。動けないながらもそこで大人しく縮こまった。
ずずず、と銀色をした壁が降ってきた。そいつは俺のすぐ側を通りすぎ、そちら側にあった壁をいとも容易く切り離した。そこから出てくるは、新世界だった。
「はー…やっぱり苺のショートケーキって良いよねー…」
「それな、奮発してホール買って良かったよ。ホント」
「そういや今日って何の日?あんたの誕生日?」
「何言ってんの!推しの誕生日に決まってんだろ!」
「いや、推しの誕生日に託けてケーキ食いたいだけでしょ」
「こらそこ!コソコソ言わない!」
「てかライブめっちゃ良かったよねー」
「分かる〜!!」
がやがやわやわや、明るく眩しい、ギラギラとした世界がそこにはあった。それに驚いてるうちに俺は別の場所に移動させられていた。あのがやがや集団の前まで。「ケーキ分けたんだけどー?」
「待ってちょっと待って今微塵も見逃せない所だから」そう言いながらも片方の手には銀色のフォークが今にも火を噴きそうだ。
ゆらゆら動かさないで欲しい。お前は何処にそれを刺すつもりだ?
「溶けたクリーム美味しくないかんね」
「分かってる…うわ!やば!待ってすご!」
「うわあ!え、ちょ、あんたもこっちで見な!」
「え、あーもー!」
盛り上がってこちらには見向きもしない。なのに銀色のそれの標準は変わらない。何故それを向ける?自分がいる場所はあまりにも危険な場所では?逃げなければ
「あ、そこ私も好きだわ」
ぐしゃ!それが落ちてきた。俺を巻き込んで部屋を丸ごと切り落とした。甘ったるいクリームとスポンジが確かに俺を押さえつけた。次いでぐさりと刺さる銀色。容赦なく、確実に、仕留めに来た。
「分かるー!アクロバティック凄すぎて重力ある?って思った」
「あーあ、こんなイケメンが近くにいたらなー」
「無理でしょ」
けらけらきゃらきゃらあはは。
少なくとも、ケーキに見向きもしない所為で変な物を食べるあんたには無理だよ。なんて悪態を叩く。ぼんやりとした頭が痛いのはやだな、と思った。
処刑台は目の前に。
がぶり。


ぱちり





こんなところに晒されるなんて、何か粗末な点があったのだろうか。
からからと空っぽの体からは安っぽい音しかしない。
ただただ買われて、中身だけ抜かれて、そのあとはポイ。辛い人生、いや、缶生だ。
まあ!でもなんとかなる_
ガコーン!かんからかーん!
重たい鉄の塊が俺を引いてった。
…短い缶生だった。

ぱちり




りんりんりん、何かが怒ってる。
何?五月蝿いんだけど?
りんりんりん、何が呼んでる。
何?誰?てかここどこ?
りんりんりん、この音を知ってる。
あ、そうか。


これ目覚ましじゃん。
ぱちり




夢を見た。なんか凄い変な夢。色んな物になる夢。何だか現実味か無いようであって、不思議な夢だった。
時々、本当に時々、現実が何処か分からなくなりそうになる。
なんて、馬鹿だよね。止めよう、こんな話。
そんな夢ばかり見るからかな、寝た気がしないし、目も乾いた気がする。だからいつも目薬を挿す。

そういえば、目薬挿すときに目をぱしぱしするのって、あんまり良くないんだって。知ってた?



瞬きは、しなかった。

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