米津玄師とタイアップの時代①

ここ数か月の短期間のうちに、米津玄師の新曲情報解禁が相次いでいる。

Netflixドラマ「さよならのつづき」主題歌の「Azalea」、
アニメ「メダリスト」主題歌の「BOW AND ARROW」、
そしてアニメ「機動戦士Gundam GQuuuuuuX」主題歌の「Plazma」。


全20曲が収録された大作アルバム「LOST CORNER」リリース後の余韻が冷めやらぬままの怒涛の新曲ラッシュに驚かされている。

2024年のJ-POPを総括するならば、おそらく多くの人がMrs.GREEN APPLEかCreepy Nutsの1年だったと答えるだろう。実際に数字を見ても、サブスクリプションサービスを筆頭に各種チャートではその2組が制圧していたように思える。


その一方で、彼らと比較したときのヒットチャートの成績ではそれほど奮っていないにもかかわらず、現在でも米津玄師はそのプロップスや影響力を落とすどころか、地位を高めているように見える。

なぜか?

それは、現在のJ-POPがヒットチャートの「再生回数の時代」であるのと同時に、「タイアップの時代」という側面を持ち合わせているからだと思う。

コロナ禍での「鬼滅の刃」の国民的ヒット以降、アニメ市場は日本だけでなくグローバルな領域にまで広がり、かつてない人気を集めている。

そのような状況の中で、主題歌をいわゆるアニソンシンガーに依頼するよりも、さらに広範囲のマスに届けたいというアニメサイドの思惑と、アニメのグローバル人気を利用して海外に規模を拡大したいというアーティストサイドの利害が一致した。

ここで安定した打率を誇っているのが米津玄師であり、(個人的にはあんまり好きな呼称ではないが)「解釈の悪魔」と呼ばれるほどのタイアップ作品に対する理解度の高さと、そして変幻自在の楽曲の振り幅の広さによって、アニメ業界からも視聴者からも支持を集めているように感じる。

もはやここ近年では音楽について語る場合は音楽的な観点から「楽曲そのもの」について語るというよりも、その楽曲が「いかにタイアップ元の作品を理解しているか」について語られるケースが多くなっている。

その背景には、動画プラットフォームの隆盛にともなう雑誌等の活字メディアの減退と、考察ブームによって立場を追われつつある批評の立場という状況もある。

こうして「評価基準」「批評軸」を失ったソーシャルメディア空間の中では、「タイアップ元の作品とのマッチ具合」について語る言葉が求められており、この状況は米津のタイアップに対する向き合い方との相性がいいように見える。

また、アーティストの支持母体であるファンダムにとっては、アーティストができるだけ大きい仕事、つまり人気作品のタイアップを勝ちとることを喜ぶという風潮が高まりつつある。こうして「人気アニメ×J-POP」という時代が生まれてきている。


そして、規模的にも責任的にも「アニメタイアップ仕事」の頂点ともいえる宮崎駿監督作品「君たちはどう生きるか」主題歌の座を射止めたのが米津だった。


そのオファーに関しては、安パイ的な理由で単に米津が今人気のアーティストだから選ばれた、というわけではなく、宮崎駿と鈴木敏夫が「パプリカ」を聴いて彼に任せたいと決めたという話があり、また、米津本人もキャリア初期の時点からインタビュー等でジブリ作品および宮崎駿に対するリスペクトを公言しており、そのような観点からストーリーとしても美しいタイアップであったと思う。


さらに、「君たちはどう生きるか」だけでなく、「チェンソーマン」の主題歌「KICK BACK」は日本語詞として初の米レコード協会ゴールド認定、「さよーならまたいつか!」でNHK朝ドラ「虎に翼」の主題歌を担当し、国民的アーティストとしての確固たる地位を築きつつある。


ただ、こうした渦中にある米津本人は、どこか自身を俯瞰的に見ているように思える。

それこそジブリ映画のタイアップをやらせてもらえたとか、『シン・ウルトラマン』や『FF16』『チェンソーマン』などいろんな作品に関わる機会があって、順風満帆な見え方をしていると思うんです。で、それは自分から見ても正しいと思うんだけれども、同時にすごく危機感みたいなものがあって。もうインフレバトルみたいな。戦闘力の高いやつが出てきて、その後それよりも高いやつが出てきて、最終的に天文学的数値の戦闘力のやつと戦わないといけないんじゃないかみたいな……大体そういう漫画って破綻するじゃないですか。

<インタビュー>米津玄師 壊れていても、“がらくた”でもいい――4年ぶりアルバム『LOST CORNER』で歌う「奪われないものを持つ」ということ


タイアップするならばできるだけ巨大な、規模の大きい作品の主題歌を、という流れが求められている状況で、この展開が続いた先には破綻が待っているのではないかという憂慮を語っている。

これを受けてか、テレビアニメ「メダリスト」の主題歌に関しては米津サイドからの逆オファーによって成立したという動きを見せている。

「メダリスト」が規模の小さい作品だと言いたいわけではなく、規模や注目度の大小にかかわらず自分がすすんでやりたいと思ったことをやるという意志や、受動的な流れに身を任せた「お仕事」としてタイアップを引き受けるのではない誠実さを感じた。



長くなってきたので、つづきは②に!



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