(第9話)スマートフォン依存症からの脱出:30日間のデジタルデトックス体験記【創作大賞2024オールカテゴリ部門応募作】
第9話 20日を過ぎて:習慣化と新たな挑戦
デジタルデトックスを始めてから20日以上が経過し、最初の不安と戸惑いは徐々に薄れ、新しい生活リズムが習慣化し始めている。スマートフォンなしの生活に順応してきた今、さらなる成長と新たな挑戦への意欲が日に日に高まっている。
月曜日の朝、目覚まし時計の穏やかな音で目を覚ます。以前はすぐにスマートフォンを手に取っていたが、今では窓を開けて深呼吸をすることから一日が始まる。朝日を浴びながら、今日一日の計画を頭の中で整理する。この静かな朝の時間が、心を落ち着かせ、一日の活力を与えてくれる。朝食を準備しながら、ラジオから流れるニュースに耳を傾ける。デジタル機器に頼らない情報収集の方法を見出し、むしろ以前よりも幅広い視点で世界を見られるようになったと感じている。
通勤電車の中では、周りの人々がスマートフォンを操作する中、私は持参した本を読んでいる。この3週間で3冊の本を読破した。以前は「読書の時間がない」と言い訳していたが、スマートフォンを手放すことで、こんなにも時間を有効活用できることに驚いている。読書を通じて新しい知識を得るだけでなく、想像力も豊かになり、仕事や日常生活にも良い影響を与えている。
会社に到着すると、同僚たちと挨拶を交わす。デジタルデトックスを始めてから、対面でのコミュニケーションが増え、職場の雰囲気が明るくなったように感じる。今日は新しいプロジェクトのキックオフミーティングがある。以前なら資料作成に追われていただろうが、今は頭の中でアイデアを整理し、メモを取りながら準備をしている。この方法が、むしろ創造的な思考を促進し、より質の高い提案ができるようになった。
ミーティングでは、自信を持って自分の意見を述べることができた。スマートフォンに頼らず、自分の頭で考える習慣が身についたことで、思考力と表現力が向上したように感じる。同僚たちからも「最近、いいアイデアが出るね」と言われ、嬉しく思う。また、会議中に全員がスマートフォンを置いて集中することで、議論の質が向上し、より効率的な意思決定ができるようになった。
昼休みには、同僚と近くの公園に散歩に出かける。自然の中を歩きながら、仕事の話や個人的な話をする。この時間が、午後の仕事への良いリフレッシュになっている。以前はスマートフォンを見ながら一人で昼食を取っていたが、今はこの時間が一日の中で最も楽しみな時間の一つになった。同僚との関係も深まり、チームワークの向上にもつながっている。
午後の仕事では、新しい挑戦としてプログラミングの勉強を始めることにした。以前から興味はあったものの、「時間がない」と先延ばしにしていた。しかし、デジタルデトックスによって生まれた時間を活用し、毎日少しずつ学習を進めている。オンラインの教材は使わず、書籍を中心に学んでいるが、むしろそのほうが集中できると感じている。この新しいスキルの習得が、将来のキャリアにどのような影響を与えるか、楽しみでならない。
仕事終わりには、ジムに立ち寄る習慣がついた。運動することで、心身ともにリフレッシュでき、夜もぐっすり眠れるようになった。以前は「疲れた」と言い訳して運動を避けていたが、今では運動が日課の一部となり、体調も明らかに良くなっている。体力の向上とともに、ストレス耐性も高まり、仕事のパフォーマンスにも良い影響を与えている。
帰宅後、夕食を家族と一緒に取る。スマートフォンに気を取られることなく、家族との会話を楽しむ。子供たちの学校での出来事や、配偶者の仕事の話など、以前は聞き逃していた家族の日常を知ることができるようになった。この時間が、家族の絆を深める貴重な機会となっている。また、家族で一緒に料理を作ることも増え、共同作業を通じてコミュニケーションが活発になった。
夜の時間は、新たに始めた趣味の時間に充てている。デジタルデトックスをきっかけに水彩画を始めることにした。静かな部屋で、キャンバスに向かい、筆を走らせる。この創造的な活動が、日中のストレスを解消し、心を落ち着かせてくれる。絵を描くことで、観察力や集中力も養われ、日常生活にも良い影響を与えている。
就寝前、一日の振り返りをノートに書き留める。今日の出来事、感じたこと、明日への抱負などを記録する。この習慣が、自己理解を深め、日々の成長を実感させてくれる。また、手書きで記録することで、記憶力の向上にもつながっている。
この3週間を振り返ると、デジタルデトックスがもたらした変化の大きさに驚かされる。特に、時間の有効活用ができるようになったことが大きい。スマートフォンを見る時間がなくなったことで、読書や新しい趣味、家族との時間など、より充実した時間の使い方ができるようになった。集中力が向上し、常に外部からの情報に頼るのではなく、自分自身と向き合う時間が増えたことで、自己理解が深まり、新たな目標や挑戦が見えてきた。
また、睡眠の質も大幅に改善された。就寝前にスマートフォンを見る習慣がなくなったことで、ブルーライトの影響を受けずに自然な眠りにつけるようになった。その結果、朝の目覚めが良くなり、一日の生産性が向上した。
人間関係の面でも大きな変化があった。対面でのコミュニケーションが増えたことで、同僚や家族との関係がより深まった。会話の質も向上し、より深い理解と共感が生まれるようになった。
創造性の面でも、デジタルデトックスの効果を強く感じている。常に情報を受け取るだけでなく、自分で考え、想像する時間が増えたことで、新しいアイデアが生まれやすくなった。仕事でのプレゼンテーションや問題解決においても、より独創的なアプローチができるようになった。
一方で、新たな課題も見えてきた。デジタル技術の利便性を完全に排除することの難しさや、仕事での情報収集の遅れなど、完全なデジタルデトックスの限界も感じている。特に、緊急時の連絡手段や、業務に必要な情報へのアクセスについては、適切なバランスを見出す必要がある。
これらの課題に対しては、デジタル技術との適切な距離感を模索しつつ、必要最小限の利用方法を考えていく必要がある。例えば、特定の時間帯だけスマートフォンを使用するなど、ルールを設けることで、デジタル技術の利点を活かしつつ、デトックスの効果も維持できるのではないかと考えている。
また、デジタルデトックスを通じて得た新しい習慣や価値観を、どのように長期的に維持していくかも重要な課題だ。一時的な変化ではなく、持続可能なライフスタイルの変革につなげていくためには、継続的な努力と工夫が必要だろう。
残り10日間のデジタルデトックス。これまでの経験を活かし、さらなる成長と新たな挑戦を続けていきたい。同時に、この30日間の経験を今後の生活にどう活かしていくか、具体的な計画を立てる時期に来ている。例えば、週に一日はデジタルデトックスデーを設けるなど、定期的にデジタル機器から離れる時間を作ることを検討している。
この挑戦が、私の人生にどのような長期的な影響をもたらすのか、期待と共に考えを巡らせている。デジタルデトックスは単なるスマートフォン依存からの脱却ではなく、自分自身や周囲の世界との向き合い方を根本から見直す機会となった。この経験を通じて得た気づきや変化を、今後の人生にどう活かしていくか。その答えを探す旅は、まだ始まったばかりなのかもしれない。
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