(第4話)タイムリープ・パラドックス【創作大賞2024漫画原作部門応募作】
第4話 タイムマシンの完成と翔太の決断
タイムマシンの開発は、予想以上に困難を極めた。量子もつれを利用した時空間歪曲装置の制御が特に難しく、研究チームは幾度となく壁にぶつかった。
「もう駄目かもしれない...」研究員の一人、佐藤が肩を落とした。
「いや、まだだ!」翔太は声を張り上げた。「もう一度、量子干渉のパターンを見直してみよう」
山田博士も励ました。「そうだ。諦めるのは早い。みんなで知恵を絞ろう」
チームは一丸となって問題に取り組んだ。夜遅くまで議論を重ね、実験を繰り返した。そして、ついに突破口が訪れた。
「やった!」翔太は歓喜の声を上げた。「時空間の歪みが安定した!」
「本当だ!」同僚の田中が画面を覗き込んだ。「これで...」
「そう、これでタイムマシンの核心部分が完成したんだ」山田博士が満面の笑みで言った。
しかし、これはまだ始まりに過ぎなかった。核心部分ができても、それを実際に人間が乗れる装置にするには、さらなる努力が必要だった。
翔太たちは昼夜を問わず作業を続けた。安全システムの構築、エネルギー供給の最適化、そして操作インターフェースの設計。一つ一つの課題を、チーム全員の知恵と努力で乗り越えていった。
「翔太、ここの接続がまだ不安定だ。もう少し調整が必要だな」田中が指摘した。
「わかった。すぐに取り掛かるよ」翔太は答え、工具を手に取った。
「みんな、もう少しだ。頑張ろう!」佐藤が声をかけ、チーム全員が一丸となって作業を続けた。
そして、ついにその日が来た。
「みんな、準備はいいかな」山田博士が声をかけた。
「はい!」全員が緊張した面持ちで答えた。
「では、起動シーケンスを開始する」
翔太が操作パネルのボタンを押すと、タイムマシンが低い唸り声を上げ始めた。青白い光が球体を包み込み、そして...
「正常に起動しました!」佐藤が歓喜の声を上げた。
「やった!」「成功だ!」研究室は歓声に包まれた。
山田博士が翔太の肩を叩いた。「よくやった、翔太君。君の情熱がこのプロジェクトを成功に導いたんだ」
翔太は涙ぐみながら答えた。「いえ、これは皆の力です。本当にありがとうございました」
その夜、研究室で祝勝会が開かれた。みんなで乾杯をし、苦労話に花を咲かせた。
「翔太、お前も飲めよ」田中がビールを差し出した。
「あ、いや...今日は控えておくよ」翔太は軽く手を振って断った。
「珍しいな。いつもなら真っ先に飲むのに」佐藤が不思議そうに言った。
「ちょっと胃の調子が...」翔太は苦笑いを浮かべた。
山田博士はその様子を静かに観察していた。
祝勝会が終わり、みんなが帰り支度を始めた。
「お疲れ様」「また明日」と声を掛け合いながら、研究員たちは次々と帰っていった。
翔太も一度は研究室を出たが、しばらくして戻ってきた。
「あれ、博士?まだいたんですか?」
「ああ、翔太君か。来ると思っていたよ」山田博士が穏やかな口調で言った。
「い、いえ、忘れ物を取りに来ただけです。嫌だなぁ博士」翔太は慌てて言い訳した。
「そうか」博士は微笑んだ。「私の考えすぎだったかな。悪い悪い」
二人はしばらく他愛もない話をした。そして...
「ちょっとトイレに行ってくる」博士が席を立った。
翔太は博士の姿が見えなくなるのを確認すると、素早くタイムマシンに近づいた。彼は深呼吸をし、決意を固めた。
「すみません、博士...でも、これは僕がやらなければならないことなんです」
翔太はタイムマシンの扉を開け、中に乗り込んだ。操作パネルを開き、1941年12月の座標を入力する。
その時、トイレから戻ってきた博士の声が響いた。
「翔太君!何をしているんだ!」
翔太は驚いて振り返った。「博士...」
「危険だ!やめろ!」博士は必死に叫びながら、タイムマシンに向かって走り寄った。
しかし、翔太の決意は固かった。「すみません、博士。でも、これは僕がやらなければならないことなんです」
翔太は急いでタイムマシンの扉を閉め、起動ボタンを押した。
「翔太!開けろ!」博士は扉を叩きながら叫んだ。
タイムマシンが光り始め、周囲の空間が歪み始めた。
「博士、本当にすみません。でも、祖父を...多くの人々を救わなければ...」翔太の声は震えていた。
「翔太!危険だ!歴史を変えることの影響を考えろ!」博士は必死に説得を試みた。
しかし、タイムマシンの光はますます強くなり、翔太の姿が見えなくなっていった。
最後の瞬間、翔太の声が聞こえた。「博士、許してください。必ず戻ってきます。そして、正しい未来を作り出します」
光が一瞬で強くなり、そして消えた。タイムマシンと翔太の姿は、研究室から完全に消失していた。
山田博士は、呆然と立ち尽くしていた。「翔太...」彼は小さくつぶやいた。「無事で戻ってこい...そして、歴史を壊さないでくれ」
研究室には、タイムマシンが消えた後の静寂だけが残された。翔太の運命と、彼が変えようとしている歴史の行方は、誰にもわからない。ただ、時の流れの中に、一人の若者の決意と希望が託されたのだった。
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