(第5話)「成長への代償」【創作大賞2025ミステリー小説部門応募作】2024/08/19公開
第5話 「WIN-WINの解決策を目指して」
早朝、橘凜花の携帯電話が鳴った。梶原警部からの電話だった。
梶原警部:「橘、重要な進展があった。岩田慎也が任意で事情聴取に応じると言ってきたんだ。」
凜花:「本当ですか?それは大きな前進ですね。」
梶原警部:「ああ。だが、注意が必要だ。彼の立場を考えると、簡単には本当のことを話さないかもしれない。」
凜花:「では、どのようにアプローチすればいいのでしょうか?」
梶原警部:「そこで大切になるのが『WIN-WIN』の考え方だ。」
凜花:「WIN-WIN...勝者と勝者という意味ですか?」
梶原警部:「そうだ。これは単なる妥協や譲歩ではない。双方にとって有益な結果を目指す思考法だ。」
凜花:「でも、取り調べで相手の利益を考える必要があるのでしょうか?」
梶原警部:「それが重要なんだ。相手の立場や利益を理解し、尊重することで、より多くの情報を引き出せる可能性がある。」
凜花:「なるほど...相手の利益を考えつつ、私たちの目的も達成する。そんな方法を見つけるということですね。」
梶原警部:「その通りだ。では、岩田慎也との取り調べに向けて、どのようなアプローチが考えられるか。」
凜花は深く考え込んだ。岩田慎也は証券取引等監視委員会の委員長という重要な立場にある。単純に追及するだけでは、沈黙の壁に阻まれる可能性が高い。
凜花:「警部、岩田さんの立場を考えると、彼にとってのWINは世間的評価の保護ではないでしょうか?」
梶原警部:「良い着眼点だ。では、どうすれば彼の評価を守りつつ、我々の目的も達成できるだろうか?」
凜花:「例えば...彼が知っている情報を提供してくれることで、不正会計の根本的な問題に取り組むきっかけになると伝える。そうすれば、彼は問題解決に貢献した人物として評価される可能性があります。」
梶原警部:「なるほど。彼の協力が社会全体にとってプラスになることを示すわけだな。それは確かにWIN-WINの状況を生み出すかもしれない。」
凜花:「はい。そうすれば、私たちは必要な情報を得られ、岩田さんも自分の立場を守りつつ、社会に貢献できる。」
梶原警部:「よく考えたな、橘。では、その方針で取り調べに臨もう。」
二人は警察署の取り調べ室に向かった。そこには既に岩田慎也が待っていた。
凜花:「岩田さん、本日はお忙しい中、お時間をいただきありがとうございます。」
岩田:「いえ...私にできることがあれば協力させていただきます。」
梶原警部:「岩田さん、我々は単に犯人を追及するだけでなく、この問題の根本的な解決を目指しています。あなたの知見は、その過程で非常に重要になると考えています。」
岩田:「...どういうことでしょうか?」
凜花:「岩田さん、あなたの立場や経験を考えると、この不正会計問題の本質をよく理解されているはずです。その知識を活かして、より良い監視システムの構築に協力していただけないでしょうか?」
岩田は少し考え込んだ後、ゆっくりと口を開いた。
岩田:「確かに、現在の監視システムには限界があります。私も以前から改善の必要性を感じていました。」
梶原警部:「その通りです。あなたの協力があれば、より効果的な対策を講じることができるでしょう。それは結果的に、市場の健全性を高めることにつながります。」
岩田:「わかりました。私の知る限りの情報を提供しましょう。ただし、それが適切に扱われ、建設的に利用されることを約束してください。」
凜花:「もちろんです。あなたの協力は、より良い社会システムの構築に大きく貢献することになります。」
こうして、岩田慎也は徐々に口を開き始めた。彼の証言により、不正会計の手口や、それを可能にしている制度の欠陥が明らかになっていった。
取り調べ後、凜花と梶原警部は新たな情報を整理していた。
梶原警部:「よくやったぞ、橘。WIN-WINの考え方を上手く活用できた。」
凜花:「ありがとうございます。でも、まだ中野さんの死との直接的な関連は見えてきませんね。」
梶原警部:「そうだな。だが、これで全体像がより明確になってきた。次は、この情報を基に中野さんの動きを再度追跡してみよう。」
凜花:「はい。中野さんが発見した不正と、岩田さんが指摘した制度の欠陥。この二つを結びつける何かがあるはずです。」
梶原警部:「その通りだ。さあ、次のステップに進もう。」
その日の夜、凜花は自宅で一日の出来事を振り返っていた。WIN-WINの考え方は、単に取り調べだけでなく、日常生活のあらゆる場面で活用できそうだ。相手の立場を理解し、互いに利益のある解決策を見出す。それは、より良い人間関係や社会を築く上で重要な姿勢なのかもしれない。
凜花は、明日の計画を立てながら考えた。中野杏子の死の真相、不正会計の全容解明、そして制度の欠陥。これらを結びつける糸口を見つけなければならない。
そして、凜花は決意した。明日からは、さらにWIN-WINの考え方を意識しながら捜査を進めよう。それが、この複雑な事件を解決する鍵になるかもしれない。
凜花は目を閉じた。明日は、きっと新たな展開が待っているはずだ。
第5話終了
登場人物:
橘凜花:18歳の新人女性刑事。WIN-WINの考え方を学び、捜査に活かそうとしている。
梶原警部:凜花の上司。WIN-WINの重要性を凜花に教え、効果的な取り調べ方法を指導している。
岩田慎也:証券取引等監視委員会の委員長。不正会計に関する重要な情報を提供。
中野杏子:被害者。彼女の発見した不正と制度の欠陥との関連が示唆されている。
第5話 終わり
次は 第6話
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