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(第5話)タイムリープ・パラドックス【創作大賞2024漫画原作部門応募作】

#創作大賞2024 #漫画原作部門

第5話 1941年の日本へ

翔太がタイムマシンの起動ボタンを押すと、周囲の空間が歪み始めた。彼の体は激しい振動に襲われ、目の前の景色が渦を巻くように変化していった。

「これが...タイムトラベルか」翔太は息を呑んだ。

タイムマシンの内部は、青白い光に包まれていた。操作パネルには複雑な数値が次々と表示され、時空間の歪みを示すグラフが激しく変動していた。

「落ち着け...」翔太は自分に言い聞かせた。「これは僕たちが作ったマシンだ。絶対に大丈夫なはずだ」

しかし、その言葉とは裏腹に、彼の心臓は激しく鼓動を打っていた。タイムマシンの外側では、虹色の光の帯が渦を巻いているのが見えた。それは美しくも不気味な光景だった。

突然、激しい衝撃が走った。翔太は操作パネルにしがみつき、必死に体勢を保とうとした。

「くっ...!」

そして、一瞬の静寂の後、すべてが止まった。

翔太は恐る恐る目を開けた。タイムマシンの窓の外には、見慣れない風景が広がっていた。

「到着...したのか?」

彼はゆっくりとタイムマシンの扉を開けた。外の空気が流れ込んでくる。それは、翔太が知っている21世紀の空気とは明らかに違っていた。

タイムマシンから降り立った翔太は、周囲を慎重に観察した。彼がいるのは、小さな森の中だった。遠くに町らしき建物が見える。

「よし、まずはタイムマシンを隠さないと」

翔太は周囲の木々や草を使って、なんとかタイムマシンを覆い隠した。そして、用意してきた1941年当時の服に着替えた。

「さて、これからが本番だ」

町に向かって歩き始めた翔太の頭の中は、これからの計画でいっぱいだった。しかし、同時に不安も大きかった。

「本当に歴史を変えられるのか...?」

町に入ると、そこには翔太が想像していた以上に活気があった。人々は忙しそうに行き交い、店々からは威勢のいい掛け声が聞こえてくる。

「すみません」翔太は通りがかりの老人に声をかけた。「今日は何日でしょうか?」

老人は怪訝な顔をしたが、答えてくれた。「12月2日だよ。どうした、息子さん?」

「あ、いえ...ありがとうございます」

翔太は安堵のため息をついた。予定通り、真珠湾攻撃の6日前に到着できたのだ。

しかし、ここからが難しかった。どうやって攻撃を阻止するのか。誰を説得すればいいのか。

翔太は町を歩きながら、情報を集めることにした。彼は慎重に人々の会話に耳を傾け、新聞の見出しを確認した。

そんな中、ある会話が翔太の耳に入った。

「山田さん、本当にアメリカと戦争になるんでしょうかね」

「ああ、もう避けられないだろう。政府の動きを見ていればわかる」

翔太は思わずその二人に近づいた。「すみません、お二人とも...」

二人の男性は翔太を見て、警戒の色を浮かべた。

「何か用かね、若いの」年配の方の男性が言った。

「はい、あの...戦争のことについて、もう少し詳しく聞かせていただけないでしょうか」

二人は顔を見合わせた。若い方の男性が口を開いた。「君、どこの人間だ?」

翔太は一瞬言葉に詰まったが、すぐに準備していた言い訳を口にした。「東京から来たんです。親戚を訪ねて...」

年配の男性がため息をついた。「まあいい。こっちに来なさい」

彼らは翔太を近くの茶屋に連れて行った。店に入ると、年配の男性は店主に目配せし、奥の個室に案内された。

「私は田中と言います」若い方の男性が自己紹介した。「こちらは佐藤さんです」

「翔太です。よろしくお願いします」

佐藤は周囲を警戒するように見回し、声を潜めて話し始めた。「ここなら大丈夫だ。外には聞こえないようになっている」

田中が補足した。「この店の主人は信頼できる人物でね。政府の監視の目が届かない場所なんだ」

翔太は二人の慎重な態度に驚きつつも、安心感を覚えた。

会話が進むにつれ、翔太は二人が政府の動きに批判的であることを知った。特に田中は、戦争に反対の立場を取っていた。

「戦争なんて、誰も得しないんだ」田中は熱く語った。「政府は国民を欺いている。アメリカとの戦争など、勝ち目はないんだ」

佐藤も頷いた。「そうだ。日本の軍事力では、長期戦は絶対に持たない。石油の備蓄も限られているし、工業力の差は歴然としている」

「でも、なぜ政府はそれでも戦争に突き進もうとしているんですか?」翔太は尋ねた。

田中は苦々しい表情で答えた。「軍部が暴走しているんだ。彼らは自分たちの権力を維持するためなら、国民の生命も顧みない」

佐藤が付け加えた。「それに、アメリカの経済制裁で追い詰められているという面もある。石油の輸入が止められて、軍部は焦っているんだ」

「今の状況はこうだ」田中は身を乗り出して説明を始めた。「日本軍は中国大陸で泥沼の戦争を続けている。その一方で、アメリカとの関係は最悪だ。日本の中国からの撤退を要求されているが、軍部はそれを拒否している」

「そして、アメリカは日本に経済制裁を課した」佐藤が続けた。「特に石油の禁輸は致命的だ。このままでは日本の軍事力は麻痺してしまう」

「だから軍部は、アメリカに先制攻撃を仕掛けようとしているんだ」田中の声には怒りが滲んでいた。「彼らは、奇襲ならアメリカに勝てると思っている。だが、それは幻想に過ぎない」

翔太は二人の話を聞きながら、歴史の教科書で学んだことが生々しい現実として迫ってくるのを感じた。

「でも、誰も止められない...」田中は落胆した様子で言った。

翔太は、この二人こそが自分の味方になってくれるかもしれないと感じた。しかし、どこまで本当のことを話せるのか。タイムトラベラーだと明かすべきか。

彼は深呼吸をして、決意を固めた。

「実は...私には、とても重要なお話があります」

田中と佐藤は、翔太の真剣な表情に引き込まれるように聞き入った。

こうして翔太は、未来から来たこと、そして真珠湾攻撃を阻止しなければならないことを、少しずつ、慎重に話し始めたのだった。


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