(第10話)タイムリープ・パラドックス【創作大賞2024漫画原作部門応募作】
第10話 歴史の重み
翔太は茫然自失の状態で公園のベンチに座り続けていた。夜が明け、朝日が昇り始めても、彼はその場を動こうとしなかった。頭の中は混乱し、自分の行動がもたらした予想外の結果に圧倒されていた。
そんな翔太の元に、突然、山田博士が現れた。
「やっと見つけたぞ、翔太君」
翔太は驚いて顔を上げた。「博士...どうしてここに?」
山田博士は翔太の隣に腰を下ろした。「君が戻ってきたことは知っていた。そして、君が見た未来に衝撃を受けているだろうことも想像がついた」
翔太は涙ぐみながら言った。「博士...僕は何てことをしてしまったんでしょう。日本を救おうとしたのに、逆に日本を滅ぼしてしまった」
山田博士は深くため息をついた。「そうだな。君の意図は善意からのものだったが、結果は予想外のものになってしまった。これが歴史を変えることの難しさと危険性だ」
博士は続けた。「歴史は複雑な要因が絡み合って形成される。一つの出来事を変えることで、予想もしなかった結果が生まれることがある。それが今回の事態だ」
翔太は頭を抱えた。「でも、僕は本当に日本を救いたかったんです。原爆の惨劇を防ぎたかった...」
「わかっている」山田博士は優しく言った。「君の気持ちはよくわかる。しかし、歴史には理由があって、そのように進んできたのだ。我々には、その全てを理解し、制御することはできない」
博士は立ち上がり、翔太に手を差し伸べた。「さあ、研究所に戻ろう。これからどうするか、一緒に考えよう」
研究所に戻った二人は、長時間にわたって議論を交わした。現状を受け入れるべきか、それとも何か別の方法があるのか。
山田博士は慎重だった。「歴史を変えることの影響は予測不可能だ。さらに悪い結果を招く可能性もある」
翔太は黙って博士の言葉を聞いていた。彼の心の中では、自責の念と無力感が渦巻いていた。
山田博士は深く考え込んだ。彼の頭の中では、様々な可能性が次々と浮かんでは消えていった。
まず、現在の日本で地下組織を作り、日本文化の復興運動を密かに展開する案を考えた。しかし、アメリカの監視が厳しい中では、長期的な成功は難しいと判断した。
次に、国際社会に訴えかけ、日本の独立回復を求める外交的アプローチを検討した。だが、アメリカの影響力が強い現状では、効果は限定的だろう。
さらに、タイムマシンを使って未来に行き、より進んだ技術を持ち帰ることで日本の再興を図る案も浮かんだ。しかし、それは倫理的に問題があり、予測不可能なリスクを伴う。
博士は、日本人の遺伝子を持つ人々を集め、新たな国家を別の場所に建設する可能性も考えた。だが、それは日本の地そのものを放棄することになる。
最後に、現代の技術を使って仮想現実の中に「デジタル日本」を作り出し、文化を保存する案も検討した。しかし、それは現実世界での問題解決にはならない。
これらの案を一つ一つ吟味した後、博士はやはり過去に戻る以外に有効な解決策はないと結論づけた。しかし、今度は単に戦争を回避するだけでなく、日本の独立と文化を守りつつ、世界平和にも貢献できるような緻密な計画が必要だと悟った。
何時間もの沈黙の後、博士は決意を固めたように言った。
「翔太君、私は熟考した結果、一つの結論に達した」
翔太は顔を上げ、博士を見つめた。
「我々は再び過去に戻る必要がある」博士は静かに、しかし確固とした口調で言った。
翔太は驚いた。「でも博士、さっき歴史を変えることの危険性について...」
「その通りだ」博士は頷いた。「しかし、我々には責任がある。君が引き起こしてしまった変化を、元に戻す責任がね」
博士は続けた。「ただし、今度は私も同行する。二人で慎重に行動し、最小限の変更で最大の効果を得られるよう努力しよう」
翔太は不安そうな表情を浮かべた。「でも、うまくいくでしょうか?」
「保証はない」博士は認めた。「しかし、我々には知識がある。前回の経験を活かし、より慎重に行動できるはずだ」
翔太は深く息を吐いた。「わかりました。博士と一緒なら、きっとうまくいくはずです」
こうして、翔太と山田博士は再び過去へ戻る準備を始めた。彼らは何日もかけて詳細な計画を立て、あらゆる可能性を検討した。
タイムマシンに乗り込む直前、博士は翔太に言った。「覚えておくんだ。我々の目的は日本を守ることだ。しかし、それは世界の平和を犠牲にしてはいけない」
翔太は頷いた。「はい、博士。今度こそ、正しい未来を作り出します」
「翔太君」博士は決意を固めて言った。「我々には、もう一度チャンスがある。今度こそ、全てのバランスを取りながら歴史を正しい方向に導くんだ」
翔太は博士の真剣な表情を見て、静かに頷いた。二人は再び、歴史の重みと向き合う準備を始めた。
そして、二人は再び時を超える旅に出た。彼らの心には、重い責任と同時に、希望の光が灯っていた。
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