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(第6話)ラクスル創業物語【創作大賞2025ビジネス部門応募作】2024/08/23公開

第6話:「未来への展望 - 新たな挑戦」

2021年4月、東京・六本木のラクスル本社。創業者の松本恭攝は、40歳の誕生日を迎えていた。12年前、小さなシェアオフィスから始まったラクスルは、今や東証プライム市場に上場する企業へと成長していた。

松本は、窓から東京の街並みを見下ろしながら、これまでの道のりを振り返っていた。印刷、物流、広告、ダンボールと、次々に新しい分野に挑戦し、デジタル技術で産業の非効率さを解消してきた。しかし、彼の表情には新たな決意の色が見えた。

「まだ足りない。もっと多くの産業の非効率さを解消しなければ」

松本の頭の中では、次の構想が描かれ始めていた。それは、ラクスルがこれまで培ってきたデジタル技術とノウハウを、他の企業に提供するという新たなビジネスモデルだった。

「多くの企業が、デジタル化の必要性を感じていながらも、具体的な方法が分からず苦心している。我々の経験を活かせば、彼らの力になれるはずだ」

松本は、自身の原点を思い出していた。大学時代に訪れたシリコンバレーでの経験。そこで見た、テクノロジーの力で世界を変えようとする起業家たちの姿。その記憶が、今の彼の原動力となっていた。

「あの時から、テクノロジーで世界をより良くしたいと思っていたんだ」

松本は、新事業開発チームを立ち上げた。リーダーには、ラクスルの創業期からともに歩んできた山田進太郎を抜擢した。

「山田、君と一緒に新しい価値を創造していこう」

「はい、必ず成功させます」

二人の目には、新たな挑戦への期待と決意が交錯していた。

チームは、まず徹底的な市場調査を行った。その結果、多くの中小企業がデジタル化に苦戦している実態が明らかになった。特に、デジタルマーケティングやオンライン販売の分野で、大きな課題を抱えていることが分かった。

この発見を基に、松本は新たな戦略を立案した。

「デジタルマーケティング支援プラットフォームだ。我々のノウハウを活かして、中小企業のデジタル化を支援しよう」

2021年6月、松本は新事業「テクノロジーソリューション事業」の構想を発表した。この発表は、ビジネス界に大きな反響を呼んだ。

「ラクスルが、今度はITソリューション業界に参入か」
「デジタルネイティブ企業の知見は、従来の企業にとって大きな武器になるかもしれない」

多くの企業から問い合わせが殺到し、松本たちは嬉しい悲鳴に追われた。

しかし、この新事業にも大きな壁が立ちはだかった。それは、従来のIT企業との競争だった。

「貴社に、システム開発の十分な経験があるのか?」
「デジタル技術だけでは、企業の本質的な課題は解決できない」

松本たちは、これらの批判に真摯に向き合った。自社のデジタル化成功事例を丁寧に説明し、従来のITソリューションとは異なる、実践的なアプローチの有効性を訴えた。

そして、ついに最初の大型案件を獲得。老舗の製造業企業から、全社的なデジタル化支援を任されたのだ。

松本は、この案件に全力で取り組んだ。彼自身が現場に足を運び、クライアントの課題を深く理解し、最適なソリューションを提案していった。

その姿勢と実績が評価され、徐々に案件数が増えていった。2022年3月期には、テクノロジーソリューション事業の売上高が50億円を突破。ラクスルの新たな収益の柱として成長を遂げていった。

しかし、松本の野心はさらに大きくなっていた。彼の頭の中では、次の構想が描かれ始めていた。

「日本だけじゃない。アジア全体の産業のデジタル化を支援したい」

松本は、幼少期を思い出していた。父親の仕事の関係で、小学生の頃に2年間シンガポールで過ごした経験があった。その時に目にした東南アジアの活気溢れる街並みと、同時に存在した様々な社会課題。その記憶が、今の彼の原動力となっていた。

「あの頃から、いつか自分の力でアジアの発展に貢献したいと思っていたんだ」

2022年4月、松本は海外展開プロジェクトチームを立ち上げた。まずはシンガポールを足がかりに、東南アジア市場への進出を目指す。

しかし、海外展開の道のりは平坦ではなかった。言語の壁、文化の違い、現地の法規制。そのどれもが、大きな障壁となった。

ある日、シンガポールでの商談中、地元の企業の経営者から厳しい言葉を投げかけられた。

「日本のやり方を押し付けるな。我々には我々のやり方がある」

その言葉に、松本は深く考え込んだ。確かに、日本で成功したモデルをそのまま持ち込むだけでは通用しない。現地のニーズや文化に合わせたアプローチが必要だった。

松本は、自身の幼少期の経験を思い出しながら、プロジェクトチームに新たな指示を出した。

「まず、現地の産業の実態を徹底的に調査しよう。彼らの本当の課題は何なのか、我々に何ができるのか、ゼロから考え直そう」

チームは、シンガポール全土の企業を回り、丹念にヒアリングを重ねた。その過程で、日本とは異なる課題が浮かび上がってきた。

シンガポールでは、政府主導でデジタル化が進められており、多くの企業が急速なデジタルシフトを求められていた。しかし、人材不足や技術的な課題から、思うように進まないケースも多かった。

この発見を基に、松本は新たな戦略を立案した。

「デジタルトランスフォーメーション支援プログラムだ。政府のイニシアチブと連携しながら、企業のデジタル化を包括的に支援しよう」

2023年、ラクスルは創業から14年目を迎えた。国内事業の売上高は400億円を突破し、海外展開の準備も着々と進んでいた。

しかし、松本の表情に満足の色はなかった。

「まだまだ、やるべきことがある。変えるべき仕組みがある」

彼の頭の中には、すでに次の構想が描かれていた。AI技術をさらに進化させ、印刷に留まらない、あらゆる産業のデジタル化を支援する。そして、その技術とノウハウをアジア全域に展開していく。

松本恭攝、42歳。彼の挑戦は、新たなステージに入ろうとしていた。

「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」

このビジョンを胸に、松本とラクスルの物語は、さらなる高みを目指して続いていく。

#創作大賞2025  #ビジネス部門

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