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(第10話)「成長への代償」【創作大賞2025ミステリー小説部門応募作】2024/08/19公開

第10話 「真相解明、そして新たな始まり」

早朝、橘凜花の携帯電話が鳴った。梶原警部からの電話だった。

梶原警部:「橘、緊急事態だ。綾小路の正体が判明した。今すぐ署に来てくれ。」

凜花:「はい、すぐに向かいます。」

凜花は急いで警察署に向かった。到着すると、梶原警部が興奮した様子で待っていた。

梶原警部:「綾小路の正体がわかったぞ。彼は元証券取引等監視委員会の幹部で、現在は影の金融コンサルタントとして活動している人物だ。そして...」

凜花:「そして?」

梶原警部:「彼は中野杏子の元上司でもあったんだ。」

凜花:「まさか...」

梶原警部:「ああ、彼が全ての黒幕である可能性が高い。だが、まだ決定的な証拠がない。ここからが正念場だ。」

凜花:「どのように進めればいいでしょうか?」

梶原警部:「ここで大切なのは、これまで学んできたことを全て活かすことだ。まず、終わりを思い描くんだ。我々の最終目標は何だ?」

凜花:「事件の真相を解明し、正義を実現することです。」

梶原警部:「その通りだ。そして、そのためには何が必要か?」

凜花:「証拠を集め、綾小路の犯行を立証することです。そのためには...主体的に行動し、Win-Winの状況を作り出し、相乗効果を生み出す必要があります。」

梶原警部:「よく覚えているな。それらの考え方を組み合わせて、最善の方法を見つけ出すんだ。」

凜花は深く考え込んだ。これまでの捜査で学んだことを全て思い出し、最適な方法を探る。

凜花:「警部、まず綾小路の行動パターンを徹底的に分析しましょう。そして、彼の周囲の人物にもアプローチします。特に、彼の現在の秘書に注目です。」

梶原警部:「良い着眼点だ。秘書へのアプローチは慎重に行う必要がある。相手の立場に立って考え、Win-Winの関係を築くんだ。」

凜花:「はい、わかりました。」

二人は綾小路の調査を開始した。徹底的な行動分析の結果、綾小路が定期的に訪れる場所が判明。そこで、凜花は大胆な提案をする。

凜花:「警部、私が綾小路に接触してみてはどうでしょうか?」

梶原警部:「危険すぎないか?」

凜花:「確かにリスクはあります。でも、これまで学んできた『主体的に行動する』という考え方を実践するなら、この方法が最適だと思います。」

梶原警部は少し考え込んだ後、ゆっくりと頷いた。

梶原警部:「わかった。だが、細心の注意を払うんだ。常に全体の目標を忘れずに。」

凜花:「はい、必ず結果を出してみせます。」

計画は慎重に練られ、実行に移された。凜花は綾小路が頻繁に訪れるカフェで、偶然を装って接触することに成功する。

綾小路:「君は...警察の人間だな?」

凜花:「はい、そうです。綾小路さん、お話があります。」

綾小路:「ほう、興味深い。聞こうじゃないか。」

凜花は緊張しながらも、これまで学んできたことを思い出す。相手の立場に立って考え、Win-Winの関係を築く。そして、全体の目標を忘れない。

凜花:「綾小路さん、私たちは真実を知りたいだけです。あなたの知識と経験は、この複雑な事件を解決する鍵になるはずです。」

綾小路:「ほう...で、君たちは何を知っている?」

凜花:「不正会計の全容、そして中野杏子さんの死との関連性です。」

綾小路の表情が一瞬こわばった。

綾小路:「なるほど...確かに私には話せることがある。だが、ここではまずい。別の場所で会おう。」

凜花は綾小路との密会の約束を取り付けることに成功。しかし、それは罠だった。

約束の場所に向かう途中、凜花は何者かに襲われる。必死の抵抗の末、凜花は気を失ってしまった。

目覚めると、凜花は見知らぬ倉庫に閉じ込められていた。そこに姿を現したのは、綾小路だった。

綾小路:「目が覚めたか、若き刑事さん。」

凜花:「なぜ...こんなことを?」

綾小路:「なぜ、だと?全ては金のためさ。」

そして綾小路は、全ての真相を語り始めた。

綾小路:「私は長年、証券取引等監視委員会で働いていた。その間、数々の不正を見てきた。そして気づいたんだ。正直者が馬鹿を見る世の中だということにな。」

凜花:「それで不正に手を染めた?」

綾小路:「そうさ。私には才能があった。監視の目をくぐり抜ける方法を知っていた。そして、その知識を売ることにしたんだ。」

凜花:「では、中野杏子さんは...」

綾小路:「ああ、彼女は優秀すぎた。私の計画に気づいてしまった。説得しようとしたが、彼女は頑として聞く耳を持たなかった。」

綾小路は、あの夜のことを詳しく語り始めた。

「杏子を私のオフィスに呼び出したんだ。彼女は怒り心頭で、すぐに告発すると言い張った。私は冷静に説得を試みたが、彼女は聞く耳を持たなかった。そして、彼女が部屋を出ようとした瞬間...私は後ろから彼女に飛びかかり、首を絞めた。」

綾小路の目に狂気の色が浮かぶ。

「彼女は必死に抵抗したが、私の力には敵わなかった。徐々に力が抜けていく彼女の体を感じながら、私は思った。これで全てが終わる、と。」

凜花は震える声で尋ねた。「その後、どうしたんですか?」

綾小路は冷たい笑みを浮かべながら続けた。

「死体の処理は簡単だった。彼女のアパートに運び込み、自殺に見せかけたんだ。首のあざは、自殺でも起こりうるものだからな。そして、彼女のパソコンのデータは全て消去した。」

凜花:「でも、中野さんは量子暗号を使っていました。そのデータは...」

綾小路:「ああ、あれか。確かに手こずったよ。だが、私には協力者がいたんだ。加藤誠一だ。彼の会社の技術を使って、何とかデータを改ざんすることができた。」

凜花:「なぜ、そこまでして...」

綾小路:「金だよ、全ては金のためさ。この複雑な金融システムを利用すれば、莫大な富を得ることができる。それも、誰にも気づかれずにな。」

凜花:「でも、それは間違っています!多くの人々が傷つくんです!」

綾小路:「世の中そんなものさ。弱肉強食。賢い者が富を得る。それが世界の摂理だ。」

凜花は必死に時間を稼ごうとした。きっと梶原警部が気づいて、救出に来てくれるはずだ。

凜花:「あなたの計画は完璧だと思っていますか?」

綾小路:「もちろんだ。私には長年の経験がある。証拠は全て隠滅した。君が消えれば、誰も真相には辿り着けない。」

その時、倉庫の扉が激しく開く音がした。

梶原警部:「動くな!警察だ!」

綾小路は驚愕の表情を浮かべた。

梶原警部:「綾小路、お前を中野杏子殺害容疑で逮捕する。」

凜花:「警部!」

梶原警部:「橘、無事で良かった。お前の携帯電話の位置情報を頼りに、ここにたどり着いたんだ。」

綾小路は観念したように両手を上げた。

綾小路:「...まさか、ここまで追い詰められるとは。」

凜花は安堵のため息をつきながら、これまでの出来事を振り返った。主体的に行動し、Win-Winの関係を築こうとしたことが、結果的に真相解明につながった。そして、最後まで希望を失わなかったことが、この結果をもたらしたのだ。

警察署に戻った後、凜花と梶原警部は事件の全容を整理した。

梶原警部:「よくやったぞ、橘。お前の勇気と判断力が、この難事件を解決に導いたんだ。」

凜花:「ありがとうございます。でも、これまで警部から学んだことがなければ、ここまでできなかったと思います。」

梶原警部:「そうか?具体的にどんなことが役立ったんだ?」

凜花:「はい。まず、『終わりを思い描くこと』です。常に最終目標を意識していたからこそ、適切な判断ができました。そして、『主体的に行動する』ことの重要性も学びました。」

梶原警部:「なるほど。他には?」

凜花:「『Win-Winを考える』ことも大切でした。綾小路との対話でも、相手の立場に立って考えることで、情報を引き出すことができました。そして、『相乗効果を求める』ことで、チーム全体の力を最大限に引き出せたと思います。」

梶原警部:「よく理解しているな。これらの考え方は、警察の仕事だけでなく、人生のあらゆる場面で役立つはずだ。」

凜花:「はい。そして最後に、『刃を研ぐ』ことの大切さも学びました。常に自己啓発に努め、新しい知識やスキルを身につけることが、困難を乗り越える力になるんですね。」

梶原警部:「その通りだ。お前はこの事件を通じて大きく成長した。これからもその姿勢を忘れずにいてくれ。」

凜花:「はい、必ず。そして、これからも『最後まで希望を持ち続ける』ことを忘れません。どんな困難な状況でも、希望を失わなければ必ず道は開けるはずです。」

梶原警部:「よく言った。さあ、これで一件落着だ。だが、我々の仕事はこれからも続く。新たな事件、新たな挑戦が待っているはずだ。」

凜花:「はい、その通りです。これからも、学び続け、成長し続けます。そして、正義のために全力を尽くします。」

梶原警部:「その意気だ。さあ、新たな始まりだ。」

凜花は窓の外を見た。朝日が昇り、新しい一日が始まろうとしていた。この事件で学んだことを胸に、これからも挑戦を続けていく。そう心に誓いながら、凜花は新たな一歩を踏み出す準備をした。

第10話終了

登場人物:

橘凜花:18歳の新人女性刑事。この事件を通じて大きく成長し、人生の重要な教訓を学ぶ。

梶原警部:凜花の上司。凜花の成長を見守り、重要な人生の教訓を伝える。

綾小路:元証券取引等監視委員会の幹部で、現在は影の金融コンサルタント。事件の黒幕であり、中野杏子殺害の真犯人。

中野杏子:被害者。不正を暴こうとして命を落とす。

加藤誠一:投資会社の社長。綾小路の共犯者。

#創作大賞2025   #ミステリー小説部門

第10話 終わり
全話完


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