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(第1話)「人を動かす言葉 〜新米刑事の真相解明〜」【創作大賞2025ミステリー小説部門応募作】2024/08/20公開

■あらすじ■
新米女性刑事・佐藤美咲は、わずか18歳で難事件に挑む。 大手製薬会社の新薬開発に関わる広告マンの不可解な死。 真相に迫るため、美咲は上司の田中警部から学んだ「人の心を動かす」技術を駆使する。 容疑者の心に寄り添い、共感する力で周囲の信頼を勝ち取っていく美咲。 しかし、事件の背後には巨大な利権と企業の闇が潜んでいた。 製薬会社、広告代理店、そして被害者の妻。 それぞれの立場や思惑が絡み合う中、美咲は真実にたどり着けるのか。 若さゆえの正義感と、人の心を読む力が、この難事件の鍵を握る。 18歳の刑事が挑む、心を動かす捜査の行方は?

第1話 「新米刑事の初仕事」

早朝、東京都内の閑静な住宅街。まだ薄暗い空の下、パトカーのサイレンが静寂を破った。その音に導かれるように、一台の車が現場へと急いでいた。

車を運転していたのは、中堅刑事の田中警部。助手席には、18歳の新米女性刑事、佐藤美咲の姿があった。美咲は、警察学校を首席で卒業したばかりの新人だ。整った顔立ちと鋭い眼差しが印象的な彼女だが、今はその大きな瞳に緊張の色が浮かんでいた。

田中警部が美咲に向かって話しかけた。

田中警部:「佐藤君、緊張しているかい?」

佐藤:「はい、少し…でも、頑張ります!」

田中警部:「そうだな。ところで佐藤君、人と接する時に大切なことを知っているかい?」

佐藤:「えっと…礼儀正しくすることでしょうか?」

田中警部:「それも大切だが、もっと重要なのは相手の立場に立って考えることだ。相手の気持ちを理解しようと努めれば、自然と適切な対応ができるものさ」

佐藤:「なるほど…心に留めておきます」

美咲は真剣な表情で頷いた。彼女の頭の中では、警察学校で学んだ知識と、今警部から教わったことが交錯していた。

車は事件現場に到着した。そこは、高級住宅が立ち並ぶ一角にある大きな一軒家だった。既に現場には複数の警察車両が止まっており、制服警官が出入りしていた。

田中警部:「よし、到着だ。佐藤君、現場ではしっかり観察することを忘れるなよ。そして、被害者の家族には特に気をつけて接するんだ」

佐藤:「はい、わかりました」

二人が玄関に向かうと、若い制服警官が出迎えた。

警官:「お待ちしておりました、田中警部。こちらが新人の佐藤刑事ですね」

田中警部:「ああ、そうだ。現場の状況はどうだ?」

警官:「被害者は山田太郎さん、45歳。妻の山田花子さんが発見しました。一階のリビングで倒れていて、頭部に強い打撲痕があります」

佐藤:「凶器は見つかっていますか?」

警官:「いいえ、まだです。現場鑑識が詳しく調べているところです」

田中警部:「わかった。では、中に入ろう」

三人が家の中に入ると、そこには血の海の中で倒れている中年男性の姿があった。美咲は一瞬たじろいだが、すぐに気持ちを落ち着かせた。

佐藤:(心の中で)「冷静に…冷静に…」

田中警部は美咲の様子を見て、優しく声をかけた。

田中警部:「佐藤君、大丈夫か?」

佐藤:「は、はい!大丈夫です」

田中警部:「そうか。じゃあ、被害者の妻から話を聞いてみるか。どうやって聞けばいいと思う?」

佐藤:「えっと…まず、彼女の気持ちを想像してみるんですよね。大切な人を失った悲しみと混乱の中にいるはずです。急かさず、優しく接することが大切だと思います」

田中警部:「そうだ。よく覚えているな。では、実践してみろ」

美咲は深呼吸をして、被害者の妻がいる隣の部屋に向かった。そこには、泣き崩れる中年女性の姿があった。

佐藤:「山田さん、警視庁の佐藤と申します。大変つらい思いをされていると思います。お気持ちを察すると、今すぐにでもお話を伺いたいところですが、少し落ち着かれてからでも構いません」

花子:「ありがとうございます…でも、警察の皆さんのお仕事の邪魔にはなりたくありません。今、話せることをお話しします」

佐藤:「お気遣いありがとうございます。では、ゆっくりで構いませんので、昨晩のことを教えていただけますか?」

花子は涙ながらに前日の出来事を語り始めた。美咲は丁寧に耳を傾け、時折うなずきながら話を聞いた。

花子:「昨晩、主人は遅くまで仕事をしていました。私は23時頃に就寝し、朝5時に起きて夫の姿が見当たらないため1階に降りたところ、この状態で発見しました」

佐藤:「わかりました。山田さん、大変な体験をされたのに、こうして詳しく教えてくださってありがとうございます」

花子:「いいえ…警察の方々に協力できることがあれば…」

その時、田中警部が部屋に入ってきた。

田中警部:「失礼します。山田さん、私は田中と申します。ご主人のことでもう少し詳しくお伺いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

花子:「はい…」

田中警部:「ご主人は最近、何か悩み事や変わったことはありませんでしたか?」

花子:「そういえば…最近は仕事のストレスが大きかったようです。新しいプロジェクトを任されて、プレッシャーを感じていたみたいで…」

佐藤:「新しいプロジェクトですか?差し支えなければ、もう少し詳しく教えていただけますか?」

花子:「はい…製薬会社の新薬の広告キャンペーンだと聞いています。大きな案件で、成功すれば会社にとっても主人にとっても大きなチャンスになるはずでした」

田中警部:「なるほど。そのプロジェクトで、何か問題が起きていたようなことはありませんでしたか?」

花子:「わかりません…ただ、最近は夜遅くまで電話で誰かと話していることが多くなりました」

佐藤:「その電話の相手について、何かわかることはありますか?」

花子:「いいえ…はっきりとは…ただ、女性の声だったような気がします」

田中警部:「わかりました。山田さん、貴重な情報をありがとうございます。他に何か思い出したことがあれば、ぜひ教えてください」

花子:「はい…わかりました」

二人は山田家を後にした。車の中で、田中警部は美咲の対応を褒めた。

田中警部:「佐藤君、よくやった。山田さんの気持ちに寄り添いながら、必要な情報もしっかり聞き出せていたな」

佐藤:「ありがとうございます。でも、まだまだ学ぶことがたくさんあります」

田中警部:「そうだな。これからもっと難しい事件に直面することもあるだろう。でも、今日学んだことを忘れずにいれば、必ず道は開けるはずだ」

佐藤:「はい!頑張ります!」

署に戻った二人は、今日の捜査内容をまとめ始めた。美咲は、初めての殺人事件現場で感じた緊張と、被害者の妻から話を聞いた時の感情を思い返していた。

そして、これから始まる本格的な捜査への期待と不安が入り混じる中、彼女の心に一つの決意が芽生えていた。どんな困難があっても、必ず真相を明らかにする。そして、被害者と遺族の思いに応えるのだ。

美咲は静かに宣誓した。「私、佐藤美咲は、すべての事件を解決し、正義を貫くことを誓います」

その日の夜、美咲は自宅のアパートで一人、事件のことを考えていた。被害者の山田太郎さん、泣き崩れる妻の花子さん、そして謎の女性との電話…。頭の中で、断片的な情報がぐるぐると回っている。

「きっと、この事件には何か大きな秘密が隠されているはず」

そう考えながら、美咲は明日からの本格的な捜査に向けて、心を引き締めるのだった。

登場人物:
・佐藤美咲:18歳の新米女性刑事。主人公。
・田中警部:佐藤の上司。中堅刑事。
・山田太郎:被害者。45歳の会社員。
・山田花子:被害者の妻。

#創作大賞2025   #ミステリー小説部門

第1話 終わり
次は 第2話


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