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(第5話)スマートフォン依存症からの脱出:30日間のデジタルデトックス体験記【創作大賞2024オールカテゴリ部門応募作】

#創作大賞2024 #オールカテゴリ部門

第5話 人間関係の変化 オフラインコミュニケーションの復活


デジタルデトックスを開始してから2週間が経過し、最初の頃の不安や戸惑いは徐々に薄れ、新しい生活リズムに順応しつつある。しかし、最も顕著な変化を感じているのは、人間関係の面だ。スマートフォンを手放したことで、オフラインでのコミュニケーションが増加し、周囲の人々とのつながりが予想以上に深まっていることを実感している。

ある週末の朝、目覚まし時計の音で目を覚ました。カーテンを開けると、爽やかな陽光が部屋に差し込み、心地よい朝の空気を感じる。特に予定のない休日だが、何か新しいことに挑戦したいという気持ちが湧き上がってくる。朝食を取りながら、この日をどのように過ごすか思案する。

以前なら、スマートフォンで情報を収集したり、SNSをチェックしたりして過ごしていたであろう時間を、今は別の活動に充てることができる。最近始めた水彩画や、近隣の公園での散策が楽しみになってきた。特に自然の中でのんびりと過ごす時間は、心身のリフレッシュに効果的だと感じている。

午前中、近所の公園へ足を運ぶことにした。外に出ると、澄み切った青空が広がり、さわやかな風が頬をなでる。日常生活では見過ごしがちだった小さな幸せを感じながら、ゆっくりと歩を進める。公園に到着し、ベンチに腰かけると、周囲の景色に目を凝らす。子供たちの歓声や、犬の散歩をする人々の和やかな会話が耳に入ってくる。

ふと隣のベンチに目をやると、一人のおじいさんが新聞を読んでいるのが目に入った。何気なく視線を向けると、おじいさんもこちらを見て微笑んだ。スマートフォンを持っていないことで、こうした小さな出会いに気づく余裕ができたのだと実感する。

「今日は良い天気ですね」と声をかけてみると、おじいさんは穏やかな表情で「そうですね。こういう日は外に出るのが一番ですよ」と返してくれた。そこから自然と会話が弾み、地域の歴史や季節の移ろいについて話が広がっていく。普段ならスマートフォンに気を取られ、見過ごしていたかもしれないこの瞬間が、今は特別な時間として心に刻まれる。

公園での散歩を終え、帰宅途中で久しぶりに友人にメールを送ることにした。これまではLINEでのやりとりが主だったが、今回はメールで近況を詳しく伝える。友人からの返信も早く、電話で話す約束をすることができた。声を通じてコミュニケーションを取れることへの期待が高まる。

夕方、友人との電話が始まった。お互いの近況を語り合い、笑い声が絶えない。この会話を通じて気づいたのは、以前のLINEでのやりとりでは得られなかった深い交流ができるということだ。友人の声のトーンや間から、その時々の感情や考えがより鮮明に伝わってくる。これこそがオフラインコミュニケーションの醍醐味だと実感した。

翌日の会社でのランチタイムも、変化が見られた。これまではスマートフォンを見ながら一人で食事をすることが多かったが、今では同僚と一緒に食堂で食事を取る機会が増えた。普段はあまり話をしなかった部署の人とも会話を楽しむようになり、仕事の話だけでなく、趣味や休日の過ごし方など、プライベートな話題にも花が咲く。これまで表面的だった関係が、少しずつ深まっていくのを感じる。

仕事中のコミュニケーションにも変化が現れた。スマートフォンがないことで、メールやチャットに頼る機会が減り、直接対話する場面が増えた。画面越しのやりとりではなく、相手の表情や声のトーンを直接感じ取りながらコミュニケーションを取ることで、誤解が生じるリスクが低下し、より円滑な意思疎通が可能になった。

しかし、スマートフォンがないことによる不便さも時折感じる。特に、急な連絡や即時の情報収集ができないことが、ストレスになることがある。上司からの緊急の指示や、突発的な会議の連絡を直接受ける必要があるため、周囲の人々に頼る場面が増えた。これは自分の適応能力を試されているようで、時に不安を感じることもある。

それでも、オフラインでのコミュニケーションがもたらすメリットは、そうしたデメリットを大きく上回る。友人や同僚との関係が深まり、より豊かな人間関係が築かれていくのを日々実感している。デジタルデトックスを通じて、スマートフォンに依存せず、リアルな対人関係を大切にすることの重要性を学んでいる。

この2週間での変化を振り返ると、当初感じていた不安や戸惑いが徐々に解消され、前向きな気持ちが芽生えてきたことに気づく。これからの挑戦に期待を寄せつつ、次の一週間をどのように過ごすか、楽しみな気持ちで考えを巡らせている。

デジタルデトックスは、単なるスマートフォン依存からの脱却にとどまらず、自己を見つめ直し、新たな可能性を探る機会となっている。この30日間の挑戦が、自分自身にどのような変化をもたらすのか、期待と好奇心で胸が膨らむ。心の中で新たな冒険が始まったことを感じながら、次なる一歩を踏み出す準備を整えた。

この2週間で得た気づきや経験を糧に、残りの期間をより充実したものにしていきたい。デジタルデバイスに頼らない生活が、どのような新しい発見や成長をもたらすのか。その答えを求めて、私は静かに、しかし確実に前進を続けていく決意を新たにした。

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