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(第5話)「人を動かす言葉 〜新米刑事の真相解明〜」【創作大賞2025ミステリー小説部門応募作】2024/08/20公開

第5話 「隠された真実の影」

翌朝、佐藤美咲は早くから署に出勤した。今日は高橋部長から話を聞く重要な日だ。田中警部も既に到着しており、二人で今日の方針を話し合った。

田中警部:「おはよう、佐藤君。今日は高橋部長から話を聞くことになるが、どう接するべきだと思う?」

佐藤:「はい…まず、高橋部長の立場に立って考えることが大切だと思います。部下を亡くし、さらに警察の取り調べを受けるというプレッシャーがあるはずです」

田中警部:「そうだな。そして、もう一つ大切なことがある。それは、相手の重要性を認識し、尊重することだ」

佐藤:「相手の重要性を認識し、尊重する…ですか?」

田中警部:「そうだ。人は誰でも自分が重要だと認められたいという欲求がある。特に高い地位にある人ほど、その欲求が強いんだ。だから、相手の立場や経験を尊重し、その価値を認めることが大切なんだ」

佐藤:「なるほど…でも、どうやって相手の重要性を示せばいいんでしょうか?」

田中警部:「例えば、相手の意見や経験に興味を示すんだ。『あなたのような経験豊富な方のご意見は非常に貴重です』とか『あなたのお立場だからこそ分かる重要な点があるかもしれません』といった具合にな。そうすることで、相手は自分の価値を認められたと感じ、より協力的になるんだ」

佐藤:「わかりました。気をつけます」

二人は山田太郎が勤めていた会社を再び訪れた。今回の目的は、高橋部長から話を聞くことだ。

受付:「お待たせいたしました。高橋部長がまいりましたので、こちらの会議室へどうぞ」

佐藤:「ありがとうございます」

高橋部長が入室してきた。50代半ばくらいの、威厳のある男性だった。

高橋部長:「警察の方々ですね。どういったご用件でしょうか」

佐藤:「こんにちは、警視庁の佐藤です。こちらは田中警部です。山田太郎さんの件でお話を伺いたいのですが」

高橋部長:「ああ、山田君のことか。悲しい出来事だったよ」

田中警部:「高橋部長、お忙しい中お時間をいただき、ありがとうございます。山田さんについて、部長ならではのご意見をお聞かせいただければと思います」

高橋部長:「ああ、構わんよ。山田君のことなら何でも話そう」

佐藤:「高橋部長、山田さんとはどのような関係だったのでしょうか?」

高橋部長:「優秀な部下だったよ。創造力があって、クライアントの要望を的確に形にする能力があった。ただ…」

田中警部:「ただ?」

高橋部長:「最近は少し様子が変わっていたんだ。特に新しいプロジェクトについては…」

佐藤:「新しいプロジェクトというのは、製薬会社の広告キャンペーンのことでしょうか?」

高橋部長の表情が一瞬こわばった。

高橋部長:「ああ、そうだ。そのプロジェクトのことは知っているのか」

田中警部:「はい、吉田さんから少し伺いました。高橋部長、そのプロジェクトについて、あなたのような経験豊富な方のご意見は非常に貴重です。詳しくお聞かせいただけますか?」

高橋部長:「そうか…確かにこの業界で30年以上やってきた私には、若い連中には見えないものが見えるんだ。山田君の提案は確かに斬新で魅力的だった。でも…」

佐藤:「でも?」

高橋部長:「倫理的に問題があると感じたんだ。効果を誇張しすぎていたり、副作用についての説明が不十分だったり…」

佐藤:「なるほど。高橋部長のような経験豊富な方だからこそ、その問題点に気づいたんですね」

高橋部長:「ああ、そうだ。若い連中は目先の利益に目がくらんでしまうことがある。でも、長年この業界にいる私には、そういった提案がどういった結果を招くか分かるんだ」

田中警部:「高橋部長、そのような深い洞察力は素晴らしいですね。山田さんとはその件で議論になったりしましたか?」

高橋部長:「ああ、何度か激しい議論になったよ。山田君は自分の提案を押し通そうとしていた。でも、私は会社の信用を守るためにも、その提案を認めるわけにはいかなかった」

佐藤:「高橋部長、会社の信用を守るためにそこまで尽力されるなんて、本当に素晴らしい経営者だと思います」

高橋部長の表情が少し和らいだ。

高橋部長:「ありがとう。確かに経営者として、時には厳しい決断を下さなければならないこともある。でも、それは会社全体のためなんだ」

田中警部:「高橋部長、山田さんとの最後のやり取りについて覚えていることはありますか?」

高橋部長:「そうだな…事件の前日、山田君が私のオフィスに来たんだ。何か重要な話があるとのことでな」

佐藤:「それで、どんな話をされたんですか?」

高橋部長:「山田君は…あることを告白したんだ」

田中警部:「告白?」

高橋部長:「ああ。実は山田君、このプロジェクトで不正なことをしていたらしい。クライアントから裏金を受け取っていたとかなんとか…」

佐藤:「えっ!そんな重大なことを?」

高橋部長:「ああ。私も驚いたよ。山田君らしくない行動だった。私は彼に、すぐにその金を返すよう指示した。そして、会社としての対応を検討すると伝えた」

田中警部:「なるほど。高橋部長、その時の山田さんの様子はどうでしたか?」

高橋部長:「落ち込んでいたな。自分の犯した過ちの重大さを理解したようだった。オフィスを出る時、『全て清算します』と言っていたよ」

佐藤:「『全て清算します』…ですか」

高橋部長:「ああ。私はてっきり、裏金のことを言っているんだと思ったがな」

田中警部:「高橋部長、貴重な情報をありがとうございます。あなたのような経験豊富な方だからこそ、このような重要な情報を的確に判断し、私たちに提供してくださったのだと思います」

高橋部長:「いや、私にできることがあれば何でもするよ。山田君のためにも、真相を明らかにしなければならない」

佐藤:「高橋部長、本当にありがとうございました。とても参考になりました」

高橋部長:「いや、私こそ。君たち若い警察官が一生懸命捜査している姿を見て、頼もしく思ったよ」

佐藤と田中警部は会社を後にした。車の中で、二人は今日の聞き取り調査について話し合った。

田中警部:「佐藤君、今日の対応は素晴らしかったぞ。高橋部長の経験や立場を尊重しながら、必要な情報を引き出せていた」

佐藤:「ありがとうございます。でも、まだまだ勉強不足です」

田中警部:「いや、十分だ。特に、『あなたのような経験豊富な方のご意見は非常に貴重です』とか『高橋部長のような経験豊富な方だからこそ』といった言葉で、相手の価値を認めていたのが良かった。そうすることで、相手は自分の重要性を感じ、より協力的になるんだ」

佐藤:「なるほど…確かに、そう言った後は高橋部長の態度が柔らかくなった気がします」

田中警部:「そうだ。人は自分の価値を認められると、より協力的になるものだ。そして、相手の立場や経験を尊重することで、信頼関係が築けるんだ」

佐藤:「警部…私、もっと学びたいです。人の協力を得る方法について」

田中警部:「その姿勢が大切だ。これからも様々な人と接する中で、経験を積んでいけばいい。そして、常に相手の立場や経験を尊重し、その価値を認めることを忘れずにな」

佐藤:「はい!頑張ります!」

署に戻った二人は、今日の調査結果をまとめ始めた。山田太郎の殺害事件に、新たな疑問が浮かび上がった。裏金受け取りの告白、そして「全て清算します」という言葉…これらは一体何を意味しているのか。

田中警部:「佐藤君、今回の件で新たに浮かび上がってきたのは、山田さんの不正行為の可能性だな」

佐藤:「はい。でも、本当に山田さんが不正をしていたのでしょうか?それとも…」

田中警部:「そうだな。まだ断定はできない。他の可能性も考える必要がある」

佐藤:「はい。でも、もし本当に不正があったとすれば、それが殺害の動機になった可能性もありますね」

田中警部:「その通りだ。明日は改めて吉田さんから話を聞く必要がありそうだ。このプロジェクトの詳細について、もっと知る必要がある」

佐藤:「はい、わかりました」

新たな疑問を抱えた二人は、明日の調査に向けて準備を始めた。山田太郎殺害事件の真相は、まだ霧の中だ。しかし、少しずつその霧が晴れていくのを感じる。真実はすぐそこまで来ているのかもしれない…。

登場人物:
・佐藤美咲:18歳の新米女性刑事。主人公。
・田中警部:佐藤の上司。中堅刑事。
・高橋部長:被害者の上司。部長職。
・吉田:被害者の会社の同僚。被害者と密接に仕事をしていた。

#創作大賞2025   #ミステリー小説部門

第5話 終わり
次は 第6話


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