(第4話)ラクスル創業物語【創作大賞2025ビジネス部門応募作】2024/08/23公開
第4話:「新たな挑戦 - ダンボールワンの誕生」
2018年8月、ラクスル株式会社は東京証券取引所マザーズ市場への上場を果たした。創業者の松本恭攝は37歳。上場時の時価総額は約670億円に達し、印刷のみならず物流、広告と事業を拡大してきたラクスルの成長は、多くの注目を集めていた。
しかし、松本の表情に満足の色はなかった。上場セレモニーの後、彼は自身のオフィスで一人考え込んでいた。
「まだ足りない。もっと多くの産業の非効率さを解消しなければ」
松本の頭の中では、すでに次の事業の構想が描かれ始めていた。それは、印刷や物流で培ったノウハウを活かし、新たな領域に挑戦するものだった。
「ダンボールだ」
松本は、ダンボール業界にも大きな非効率さがあることに気づいていた。多品種少量生産が求められる中、多くの中小企業が適切なダンボールの調達に苦労している。一方で、ダンボールメーカーは大量生産を前提とした体制を取っており、小ロットの注文に対応できていない。
この課題を解決するため、松本は新たなプロジェクトチームを立ち上げた。
「ダンボール事業で、印刷で培ったノウハウを活かせるはずだ」
プロジェクトチームは、まず徹底的な市場調査を行った。その結果、年間約1.5兆円規模のダンボール市場において、中小企業向けの小ロット需要が十分にカバーされていないことが分かった。
松本は、この発見を基に新たな戦略を立案した。
「ダンボールの在庫を持たず、受注生産で小ロットにも対応する。そして、AIを使って最適な設計と調達先の選定を行う。これなら、我々にしかできないはずだ」
2019年2月、ついに新サービス「ダンボールワン」がローンチされた。オンラインで簡単にダンボールの発注ができ、最短3日で納品されるこのサービスは、中小企業から大きな反響を呼んだ。
サービス開始直後は、システムの不具合や納期遅延などのトラブルも発生した。しかし、松本たちは迅速に対応し、改善を重ねていった。
特に力を入れたのが、AIを活用した設計支援システムの開発だった。このシステムにより、顧客は専門知識がなくても、用途や内容物に応じた最適なダンボールの設計が可能になった。
「ダンボールワン」の評判は口コミで広がり、徐々に利用企業が増えていった。サービス開始から1年後の2020年2月には、月間受注数が10万件を突破。ダンボール業界に新たな風を吹き込んでいった。
しかし、成長の裏で新たな課題も浮上していた。急激な受注増加に伴い、協力工場の生産キャパシティが限界に近づいていたのだ。
この課題に対し、松本たちは生産体制の見直しに着手した。協力工場の新規開拓、生産スケジューリングの最適化など、あらゆる施策を講じた。
さらに、顧客サポート体制も強化。24時間対応のカスタマーサポートを設置し、問い合わせや苦情に迅速に対応できる体制を整えた。
これらの取り組みが功を奏し、「ダンボールワン」の信頼性は徐々に向上。利用企業はさらに増加し、2021年4月には累計利用企業数が70万社を突破した。
松本は、この成功を次のステップへの足がかりと考えていた。彼の頭の中では、すでに次の構想が描かれ始めていた。
「ダンボールだけじゃない。包装資材全般に展開できるはずだ」
松本恭攝、40歳。彼の挑戦に終わりはなかった。
「仕組みを変えれば、世界はもっと良くなる」
このビジョンを胸に、松本とラクスルの新たな物語が、また一つ始まろうとしていた。
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