(第8話)タイムリープ・パラドックス【創作大賞2024漫画原作部門応募作】
第8話 ワシントンでの交渉と和平
東条英機首相の了承を得た翔太と山本五十六は、直接アメリカとの交渉の場に臨むことになった。1941年12月中旬、ワシントンでの日米首脳会談が実現し、翔太も同席することとなった。
アメリカ側の代表としてルーズベルト大統領、ハル国務長官が出席し、日本側からは野村吉三郎大使と来栖三郎特使に加え、山本五十六、そして「特別顧問」という立場で翔太が参加した。
会談が始まると、まずアメリカ側から厳しい口調で日本の中国からの撤退要求が出された。場の空気は凍りつくように緊張した。
この時、翔太は勇気を振り絞って発言した。「大統領閣下、私たちには皆様にお見せしたいものがあります」
翔太はホログラム装置を取り出し、起動させた。部屋の中央に、原爆投下後の広島と長崎の惨状が映し出された。さらに、太平洋戦争の激しい戦闘シーン、日本各地の空襲被害、そして最後に戦後の荒廃した東京の映像が続いた。
ルーズベルト大統領は目を見開いて映像を見つめていた。「これは...一体何だ?」
「これは、もし私たちが戦争の道を選んだ場合の未来です」翔太は静かに、しかし力強く説明を始めた。「アメリカは原子爆弾を開発し、日本に使用することになります。その結果、数十万の罪のない市民が一瞬にして命を落とすのです」
会場は静まり返った。アメリカ側の出席者たちは、互いに顔を見合わせ、困惑と衝撃の表情を浮かべていた。
翔太は続けた。「さらに、この行為により、アメリカは後の世界で原爆投下国として非難されることになります。これは嘘の情報ではありません。私が持参した資料には、将来の歴史家や国際機関による客観的な評価が含まれています」
翔太は、未来の歴史書や国連の報告書、さらには世界各国の教科書からの抜粋を示した。それらは全て、原爆投下を人道に対する罪として厳しく批判していた。
ハル国務長官が声を震わせて言った。「これが本当なら...我々は歴史に取り返しのつかない過ちを犯すことになる」
ルーズベルト大統領は深刻な表情で頷いた。「確かに、このような未来は避けなければならない。しかし、日本の行動も看過できない」
ここで山本五十六が前に出た。「大統領閣下、我々も自国の行動を反省し、平和的な解決策を模索する用意があります。どうか、共に新しい未来を築く機会を与えてください」
ルーズベルトは長い間黙っていたが、やがて口を開いた。「君の言葉には説得力がある。しかし、具体的にどのような解決策を提案するのか?」
ここで山本が前に出た。「大統領閣下、我々は以下の提案をさせていただきたい」
山本は、日本の中国からの段階的撤退、南洋諸島の国際管理、そして日米間の経済協力強化などを含む詳細な和平案を提示した。
交渉は一日では終わらず、数日間に及んだ。両国の代表団は、夜遅くまで議論を重ね、時には激しい言葉の応酬もあった。しかし、翔太が示した未来の映像と、山本の冷静な外交手腕により、少しずつ歩み寄りが見られるようになった。
最終日、ルーズベルト大統領は決断を下した。「我々は日本側の提案を基本的に受け入れる。しかし、その実行を厳密に監視させてもらう」
日本側も、アメリカの要求を受け入れることに同意した。こうして、歴史的な日米和平協定が締結されたのだった。
協定調印式の後、ルーズベルト大統領は翔太に近づいてきた。「君は一体何者なんだ?」と彼は不思議そうに尋ねた。
翔太は微笑んで答えた。「私は...未来からの使者です。平和な未来を実現するために来ました」
大統領は首を傾げたが、それ以上の追及はしなかった。「君のおかげで、我々は大きな過ちを避けることができたかもしれない。ありがとう」
翔太は深々と頭を下げた。「いいえ、ありがとうございます。この決断が、世界の未来を明るいものにすると信じています」
ワシントンを後にする飛行機の中で、山本は翔太に言った。「君の勇気と知恵のおかげで、我々は新しい道を歩み始めることができた。日本の、そして世界の未来が変わったのだ」
翔太は窓の外を見つめながら答えた。「はい。でも、これは始まりに過ぎません。この平和を守り、育てていくのは、これからを生きる人々の責任です」
飛行機は太平洋上を飛び、日本へと向かっていった。翔太の心の中には、使命を果たした安堵感と、これから訪れる未知の未来への期待が入り混じっていた。
日本に戻った翔太は、山本や田中、佐藤たちと別れを告げた。彼らには、翔太が未来に戻ることを告げた。
「本当にありがとうございました」翔太は深々と頭を下げた。「皆さんのおかげで、歴史を変えることができました」
山本は翔太の肩に手を置いた。「いや、我々こそ感謝しているよ。君が教えてくれた未来を、我々の手で作り上げていこう」
翔太は仲間たちと固く握手を交わし、そして静かにタイムマシンへと向かった。彼は振り返り、最後に手を振った。「さようなら。そして、ありがとう」
タイムマシンのドアが閉まり、翔太は2045年への帰還ボタンを押した。彼の目には、希望に満ちた新しい未来への期待と、別れの寂しさが混ざった涙が光っていた。
この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?