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(第3話)「人を動かす言葉 〜新米刑事の真相解明〜」【創作大賞2025ミステリー小説部門応募作】2024/08/2

第3話 「心の扉を開く鍵」

翌日、佐藤美咲は朝から署に出勤した。昨日の聞き取り調査の結果を整理し、新たな捜査方針を立てるためだ。田中警部も早くから出勤しており、二人で打ち合わせを始めた。

田中警部:「おはよう、佐藤君。昨日の調査結果をどう思う?」

佐藤:「はい。山田さんの仕事場での様子や、最近の変化について、いくつか気になる点がありました」

田中警部:「そうだな。特に佐々木さんから聞いた、指輪を外していたという情報は興味深いな」

佐藤:「はい。山田さんの奥さんにも、改めて話を聞く必要があると思います」

田中警部:「そうだな。では今日は山田家を訪問しよう。ただし、佐藤君。遺族への聞き取りは難しいぞ。どう接するべきだと思う?」

佐藤:「そうですね…まず、相手の気持ちを理解することが大切だと思います。突然大切な人を失った悲しみや混乱を想像し、丁寧に接する必要がありますね」

田中警部:「その通りだ。そして、もう一つ大切なことがある。それは、相手の話をじっくりと聴くことだ」

佐藤:「相手の話を聴く…ですか?」

田中警部:「そう。ただ黙って聴くのではない。相手の言葉に真摯に耳を傾け、共感的に聴くんだ。相手の気持ちを理解しようと努めることが、信頼関係を築く上で非常に重要なんだ」

佐藤:「なるほど…でも、どうやって共感的に聴けばいいんでしょうか?」

田中警部:「例えば、相手の言葉を繰り返したり、感情を言葉にして返したりするんだ。『つらかったんですね』とか『そう感じるのも当然です』といった具合にな。そうすることで、相手は自分の気持ちが理解されていると感じ、心を開きやすくなる」

佐藤:「わかりました。気をつけます」

二人は山田家を訪れた。ドアを開けたのは、疲れた表情の山田花子だった。

佐藤:「こんにちは、警視庁の佐藤です。こちらは田中警部です。お時間よろしいでしょうか?」

花子:「あ、はい…どうぞ」

佐藤:「山田さん、お気持ちの落ち着かないところ申し訳ありません。ご主人のことで、もう少しお話を伺いたいのですが」

花子:「わかりました…どうぞ、お座りください」

田中警部:「お手数をおかけして申し訳ありません。ゆっくりで構いませんので、お話しいただけますか」

花子:「はい…何を話せばいいでしょうか」

佐藤:「山田さん、ご主人との最近の様子について教えていただけますか?何か変わったことはありませんでしたか?」

花子:「そうですね…最近は仕事が忙しいと言って、遅く帰ってくることが多かったです」

佐藤:「そうだったんですね。仕事が忙しくて、寂しい思いをされていたのではないでしょうか」

花子:「はい…でも、主人の仕事は大切だったので…」

田中警部:「山田さん、ご主人の様子で他に気になることはありませんでしたか?」

花子:「そういえば…最近、指輪をしていないことに気づいたんです」

佐藤:「指輪を外していたんですね。そのことで、不安になられたりしませんでしたか?」

花子:「ええ…でも、聞くのが怖くて…」

佐藤:「そう感じるのも当然です。不安な気持ちを抱えたまま過ごすのは、とてもつらかったでしょう」

花子の目に涙が浮かんだ。

花子:「はい…本当につらくて…でも、主人を疑うなんて…」

田中警部:「山田さん、あなたのお気持ちはよくわかります。大切な人への信頼と、湧き上がる不安との間で揺れ動くのは、本当に辛いことですよね」

花子:「そうなんです…私、何か間違ったことをしてしまったんでしょうか…」

佐藤:「いいえ、山田さん。あなたは何も間違ったことはしていません。むしろ、ご主人への愛情が深いからこそ、そういった複雑な感情になるのだと思います」

花子:「ありがとうございます…そう言っていただけると、少し楽になります」

田中警部:「山田さん、ご主人は携帯電話を持っていましたか?」

花子:「はい、持っていました。でも…」

佐藤:「でも?何かあったんですか?」

花子:「最近、携帯電話を机の上に置いたままにしなくなったんです。いつも持ち歩いていて…」

田中警部:「なるほど。山田さん、その携帯電話はどこにありますか?」

花子:「主人の遺品と一緒に、あの棚にしまってあります」

佐藤:「山田さん、その携帯電話を見せていただけますか?ご主人の交友関係を調べる上で、重要な手がかりになるかもしれません」

花子:「わかりました…でも、暗証番号がかかっていて…」

田中警部:「山田さん、もしよろしければ、ご主人の携帯電話を預からせていただけないでしょうか?専門の部署で解析させていただきます」

花子:「はい…でも、私、本当に主人のプライバシーを侵害してしまうんでしょうか…」

佐藤:「山田さん、あなたの気持ちはよくわかります。大切な人のプライバシーを守りたい、でも真実も知りたい。その葛藤は本当に辛いものですよね」

花子:「はい…でも、警察の方々を信じて…主人の無実を証明するためにも、協力させていただきます」

田中警部:「ありがとうございます、山田さん。あなたの勇気ある決断に感謝します」

佐藤:「山田さん、本当にありがとうございます。私たちは、ご主人の名誉を守るためにも、真実を明らかにする努力を惜しみません」

花子:「ありがとうございます…私にできることがあれば、何でも協力させていただきます」

佐藤と田中警部は、山田太郎の携帯電話を預かり、山田家を後にした。車の中で、二人は今日の聞き取り調査について話し合った。

田中警部:「佐藤君、今日の対応は本当に素晴らしかったぞ。山田さんの気持ちに寄り添いながら、必要な情報を引き出せていた」

佐藤:「ありがとうございます。でも、まだまだ勉強不足です」

田中警部:「いや、十分だ。特に、相手の感情を言葉にして返す技術は見事だった。『そう感じるのも当然です』とか『つらかったでしょう』といった言葉で、相手の気持ちを理解していることを示せていたな」

佐藤:「なるほど…確かに、そう言った後は山田さんの表情が和らいだ気がします」

田中警部:「そうだ。人は自分の気持ちを理解してくれる人に心を開くものだ。そして、相手の立場に立って考え、共感することで、信頼関係が築けるんだ」

佐藤:「警部…私、もっと学びたいです。人の心に寄り添う方法について」

田中警部:「その姿勢が大切だ。これからも様々な人と接する中で、経験を積んでいけばいい。そして、常に相手の気持ちを想像し、理解しようと努めることを忘れずにな」

佐藤:「はい!頑張ります!」

署に戻った二人は、今日の調査結果をまとめ始めた。山田太郎の携帯電話の解析を依頼し、新たな手がかりを待つことになった。佐藤美咲は、人の心に寄り添う技術を学びながら、事件解決への道を一歩ずつ進んでいく。

そして数時間後、携帯電話の解析結果が届いた。

田中警部:「佐藤君、解析結果が来たぞ」

佐藤:「はい、どんな内容でしょうか?」

田中警部:「ここ1ヶ月の間に、頻繁にやり取りしている番号があるんだ。しかも、その番号の持ち主は…」

佐藤:「まさか…」

田中警部:「ああ、山田さんの会社の同僚だ。名前は吉田という女性らしい」

佐藤:「吉田さん…昨日の聞き取り調査では出てこなかった名前ですね」

田中警部:「そうだ。明日は彼女から話を聞く必要がありそうだ」

佐藤:「はい、わかりました」

新たな情報を得た二人は、明日の調査に向けて準備を始めた。山田太郎殺害事件の真相に、また一歩近づいたように感じる。しかし、その真相は彼らの想像を遥かに超えるものだった…。

登場人物:
・佐藤美咲:18歳の新米女性刑事。主人公。
・田中警部:佐藤の上司。中堅刑事。
・山田花子:被害者の妻。
・吉田:被害者の会社の同僚。携帯電話の解析で判明した人物。

#創作大賞2025   #ミステリー小説部門

第3話 終わり
次は 第4話


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