(第4話)スマートフォン依存症からの脱出:30日間のデジタルデトックス体験記【創作大賞2024オールカテゴリ部門応募作】
第4話 一週間経過 初期の困難と予想外の発見」
デジタルデトックスを開始してから一週間が経過した。最初の数日間は不安と戸惑いに満ちていたが、徐々に新しい生活リズムに馴染んできた感覚がある。しかし、依然として困難は多く、特に最初の数日間は自分の習慣の根深さを痛感させられた。
朝、目覚まし時計の音で目を覚ます。カーテンを開けると、柔らかな日差しが部屋に差し込み、心地よい温もりを感じる。今日の予定を頭の中で整理しながら、朝食の準備に取り掛かる。以前はスマートフォンを見ながら料理をしていたが、今はその習慣がない。代わりに、ラジオから流れる音楽に耳を傾けながら、野菜を刻んだり、卵を焼いたりする。この静かな朝の時間が、意外にも心を落ち着かせてくれることに気づいた。
通勤電車の中では、周囲の乗客たちが相変わらずスマートフォンを操作している。かつての自分の姿を重ね合わせながら、今は持参した本を開く。最初のうちは物語に集中できずにいたが、日を追うごとに没頭できるようになってきた。フィクションの世界に浸ることで、周囲の視線を気にすることも少なくなり、むしろ通勤時間が楽しみになってきた。
オフィスに到着すると、同僚たちとの対話が増えたことに気づく。これまではスマートフォンを見ながらの作業が多かったが、今は仕事の合間に同僚と言葉を交わす機会が増えた。特に昼休みは、社員食堂で一緒に食事をすることが習慣となり、会話が弾む。普段は知り得なかった同僚の趣味や考え方を知ることができ、職場の人間関係がより深まったように感じる。
しかし、デジタルデトックスの初期段階には、予想以上の困難も多かった。特に仕事中の連絡手段が制限されていることに、ストレスを感じることが度々あった。急な依頼や連絡があった際、即座に対応できないもどかしさは大きかった。上司や同僚に頼る機会が増えたが、時にはそのことで自身の能力や存在価値を疑問視してしまう瞬間もあった。
帰宅後の時間の使い方にも悩まされた。最初の頃は、何をして過ごせばよいのか全く分からず、ただ時間が過ぎていくのをぼんやりと眺めていることも多かった。しかし、少しずつ新しい趣味や活動を見出すことができるようになってきた。以前から興味があった水彩画を再開し、画材を使って自由に絵を描くことが楽しみになってきた。初めは思うように描けずに苦戦したが、徐々に自分なりの表現方法が見えてきた気がする。
週末には、久しぶりに友人と直接会う約束をした。普段はLINEでのやりとりが主だったが、今回はメールでの連絡を通じて、対面での再会を果たした。久々の再会に最初は少し緊張したものの、会話は途切れることなく続き、予想以上に楽しい時間を過ごすことができた。お互いの近況を語り合い、笑い声を交わすことで、心が軽くなるのを感じた。
デジタルデトックスを始めてから、特に印象的だったのは、日常の中にある小さな幸せに気づくようになったことだ。例えば、通勤途中に咲いている花々や、近所の公園の木々の緑、刻々と変化する空の色など、これまで見過ごしていた景色が、今は特別な輝きを放って見える。スマートフォンを通じて得られる情報や娯楽ももちろん大切だが、現実世界の美しさを再発見できたことは、私にとって大きな収穫となった。
ただし、依然としてスマートフォンへの欲求が完全に消えたわけではない。特に、就寝前の時間帯が最も辛く感じられる。これまではその時間を使ってSNSをチェックしたり、動画を視聴したりしていたが、今はその時間をどう過ごすべきか模索中だ。当初は何をしていいか分からず、ただベッドに横たわって天井を眺めていることも多かった。しかし、最近では少しずつ読書の習慣が身につき始め、その時間を有意義に使えるようになってきた。
一週間が経過する中で、デジタルデトックスの効果を徐々に実感し始めている。心の中に余裕が生まれ、日常のストレスが軽減されているのを感じる。スマートフォンがないことで、逆説的に自分自身と向き合う時間が増え、内省や心の整理ができるようになった。
この一週間での変化を振り返ると、最初に感じていた不安や戸惑いが少しずつ解消され、前向きな気持ちが芽生えてきたことに気づく。これからの挑戦に期待を寄せつつ、次の一週間をどのように過ごすか、楽しみな気持ちで考えを巡らせている。
デジタルデトックスは、単なるスマートフォン依存からの脱却にとどまらず、自己を見つめ直し、新たな可能性を探る機会となっている。この30日間の挑戦が、自分自身にどのような変化をもたらすのか、期待と好奇心で胸が膨らむ。心の中で新たな冒険が始まったことを感じながら、次なる一歩を踏み出す準備を整えた。
この一週間で得た気づきや経験を糧に、残りの期間をより充実したものにしていきたい。デジタルデバイスに頼らない生活が、どのような新しい発見や成長をもたらすのか。その答えを求めて、私は静かに、しかし確実に前進を続けていく決意を新たにした。
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