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(第2話)「人を動かす言葉 〜新米刑事の真相解明〜」【創作大賞2025ミステリー小説部門応募作】2024/08/20公開

第2話 「信頼の糸口」

翌日、佐藤美咲は早朝から署に出勤した。昨日の殺人事件の捜査を進めるため、田中警部と打ち合わせを行う。

田中警部:「おはよう、佐藤君。今日は被害者の山田太郎さんの職場に行って、同僚たちから話を聞こう」

佐藤:「はい、わかりました。でも、警部。どうやって同僚の方々から協力を得ればいいでしょうか?」

田中警部:「そうだな…まず大切なのは、相手の立場に立って考えることだ。彼らにとって、同僚が殺害されたのはショッキングな出来事だろう。慎重に、そして思いやりを持って接することが重要だ」

佐藤:「なるほど…相手の気持ちを考えるんですね」

田中警部:「そうだ。そして、もう一つ大切なことがある。相手の名前を覚えて、正確に呼ぶことだ。名前は、その人にとって最も大切で心地よい響きなんだ」

佐藤:「へぇ、そうなんですか?」

田中警部:「ああ。名前を覚えて呼ぶことで、相手に対する誠実な関心を示せる。それが信頼関係を築く第一歩になるんだ」

佐藤:「わかりました。気をつけます」

二人は山田太郎が勤めていた広告代理店に到着した。

受付:「いらっしゃいませ。ご用件は?」

佐藤:「警視庁の佐藤と申します。こちらは田中警部です。山田太郎さんの件で、お話を伺いたいのですが」

受付:「かしこまりました。少々お待ちください」

しばらくして、会社の人事部長が現れた。

人事部長:「警視庁の方ですね。私は人事部長の鈴木と申します。どうぞこちらへ」

田中警部:「鈴木部長、お忙しい中ありがとうございます。山田さんのことで、同僚の方々からお話を伺いたいのですが」

鈴木部長:「はい、もちろんです。ただ、皆ショックを受けていて…」

佐藤:「鈴木さん、皆さまのお気持ち、お察しします。突然の出来事で、さぞ動揺されていることと思います。私たちも、できる限り皆さまの負担にならないよう配慮させていただきます」

鈴木部長:「ありがとうございます。そう言っていただけると助かります」

田中警部:「では、まず山田さんの直属の上司の方とお話できますでしょうか?」

鈴木部長:「はい、課長の高橋をお呼びします」

しばらくして、高橋課長が会議室に入ってきた。

高橋課長:「高橋です。山田のことで何か?」

佐藤:「高橋さん、お忙しい中ありがとうございます。山田さんについて、いくつかお伺いしたいことがあります」

高橋課長:「はい、できる限り協力します」

佐藤:「高橋さん、山田さんはどんな方でしたか?」

高橋課長:「うーん、仕事は出来る方でしたよ。でも、最近はちょっと様子がおかしかったかな…」

佐藤:「そうですか。差し支えなければ、もう少し詳しく教えていただけますか?」

高橋課長:「そうですね…ここ1ヶ月くらい、残業が増えていて。何か大きなプロジェクトを抱えているようでした」

田中警部:「高橋さん、そのプロジェクトについて何か知っていますか?」

高橋課長:「いえ、詳しくは…ただ、山田が頻繁に外出するようになったんです。取引先との打ち合わせだと言っていましたが」

佐藤:「なるほど。高橋さん、山田さんの仕事ぶりについてもう少し教えていただけますか?良かった点や、改善が必要だった点など」

高橋課長:「そうですね…山田は創造力があって、クライアントの要望を的確に形にする能力がありました。ただ、時々独断で進めてしまうところがあって…」

佐藤:「高橋さん、山田さんの良い点をまず挙げてくださって、ありがとうございます。そういった点を評価されていたんですね。改善点についても率直に教えてくださり、感謝します」

高橋課長:「いえいえ。山田のことを本当によく見ていてくれるんですね」

佐藤:「はい、山田さんのことをよく知るために、高橋さんのような直属の上司の方のお話は非常に重要なんです。お忙しい中、丁寧にお答えいただき、本当にありがとうございます」

高橋課長の表情が少し和らいだ。

高橋課長:「いえ、私こそ。山田のためにもなることなら、できる限り協力させていただきます」

田中警部:「高橋さん、大変参考になりました。それでは、山田さんと親しかった同僚の方にもお話を伺えればと思います」

高橋課長:「はい、では佐々木を呼びましょう。山田とは同期で、よく一緒にいましたから」

しばらくして、佐々木が入室してきた。

佐々木:「失礼します。佐々木です」

佐藤:「佐々木さん、お忙しいところすみません。山田さんのことでお話を伺いたいのですが」

佐々木:「はい…」

佐藤:「佐々木さん、山田さんとは同期と伺いました。親しくされていたそうですね」

佐々木:「はい、そうです…まだ信じられなくて…」

佐藤:「お気持ち、お察しします。突然のことで、さぞ辛いでしょう。佐々木さんにとって、山田さんはどんな方でしたか?」

佐々木:「太郎は…いつも明るくて、周りを元気にしてくれる人でした。仕事のことでも何でも相談できる、そんな存在でしたね」

田中警部:「佐々木さん、山田さんに何か悩みはありましたか?最近、様子が変わったことはありませんか?」

佐々木:「そういえば…1ヶ月くらい前から、急に忙しくなったみたいで。よく電話で誰かと話していましたね」

佐藤:「佐々木さん、その電話の相手について何か覚えていることはありますか?」

佐々木:「うーん…よく覚えていないんですが、たしか女性の声だったような…」

田中警部:「なるほど。佐々木さん、山田さんは結婚されていましたよね?」

佐々木:「はい、奥さんがいます。でも…」

佐藤:「でも?」

佐々木:「いや、何でもありません」

佐藤:「佐々木さん、何か気になることがあればぜひ教えてください。どんな些細なことでも、事件の解決につながるかもしれません」

佐々木:「…実は、太郎が最近、指輪をしていないことに気づいたんです。でも、あまり詮索するのも…」

田中警部:「佐々木さん、大切な情報をありがとうございます。山田さんのためにも、真相を明らかにしたいと思います」

佐々木:「はい…警察の方々にお任せします。他に何か私にできることはありますか?」

佐藤:「佐々木さん、これだけ丁寧に答えてくださって、本当にありがとうございます。山田さんのことをよく理解できました。もし他に何か思い出したことがあれば、ぜひ教えてください」

佐々木:「わかりました。私も太郎のために、できることがあればしたいです」

田中警部:「では、これで失礼します。本日はお忙しい中、ご協力いただき感謝します」

佐藤と田中警部は会社を後にした。車の中で、二人は今日の聞き取り調査について話し合った。

田中警部:「佐藤君、今日の君の対応は素晴らしかったぞ。相手の気持ちを考えながら、丁寧に話を聞いていたな」

佐藤:「ありがとうございます。でも、まだまだ学ぶことばかりです」

田中警部:「いや、十分だ。特に佐々木さんから重要な情報を引き出せたのは見事だった。相手の名前を覚えて呼び、誠実に耳を傾けることで、信頼関係を築けたからこそだ」

佐藤:「なるほど…確かに、佐々木さんは話していくうちに、どんどん心を開いてくれた気がします」

田中警部:「そうだ。人は自分の話に真剣に耳を傾けてくれる人を信頼するものだ。そして、相手を批判せず、理解しようとする姿勢も大切だ」

佐藤:「警部…私、もっと学びたいです。人との接し方や、信頼関係の築き方について」

田中警部:「その意欲は大切だ。これからも様々な人と接する中で、経験を積んでいけばいい。そして、常に相手の立場に立って考えることを忘れずにな」

佐藤:「はい!頑張ります!」

署に戻った二人は、今日の調査結果をまとめ始めた。山田太郎の殺害事件の真相はまだ見えてこないが、少しずつ手がかりが集まり始めていた。佐藤美咲は、人と接する技術を学びながら、事件解決への道を一歩ずつ進んでいく。

登場人物:
・佐藤美咲:18歳の新米女性刑事。主人公。
・田中警部:佐藤の上司。中堅刑事。
・鈴木:被害者が勤めていた会社の人事部長。
・高橋:被害者の直属の上司。
・佐々木:被害者の同期で親しい同僚。

#創作大賞2025   #ミステリー小説部門

第2話 終わり
次は 第3話


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